(投函者:明田雅昭)

官民あげて「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上」を目指す企業統治改革が推進されている。その最も重要な手段が投資家と企業の間の「建設的な対話」である。昨年五月に経産省がガイダンスを提示したことに象徴されるように、いかにして建設的な対話を効果的に行うかについては暗中模索状態が続いている。

ファイナンス理論に基づけば、企業価値の創造は企業の投資が生み出す税引き後事業利益率が資本コストを上回る場合に実現される。資本コストを下回る投資は成長を実現するものの価値毀損を起こす。建設的な対話を行う際に、投資家と企業はこの原理をもっと明確に認識すべきである。

生命保険協会のアンケートによれば、経営者は依然として売上高や利益の成長率を重視しており、資本コストの水準に関する認識は投資家と大きく乖離している。最近始まった企業統治に関するフォローアップ会議の論点の一つに経営者の資本コスト意識の向上が挙げられていたのは当然であろう。

建設的な対話の骨格として、投資家が主導すべき論点は資本コストの水準である。資本コストは要求収益率とも言われる。投資家が企業に要求する収益率という意味である。この水準について企業と合意形成するのが極めて重要だ。一方、企業は自らの投資計画が資本コストを上回る利益率であることを投資家に説明すべきである。投資家を説得できない投資計画は見直すべきだ。資本コストを上回れるか否かの議論では、経営戦略やビジネスモデルの有効性に加えて、事業利益率の永続性という観点から環境・社会等ESG要因も考慮すべきであろう。

企業の価値創造は株価純資産倍率(PBR)が1を超えた量で測定できる。純資産は株主の出資金と内部留保利益であり、PBRが1未満ということはこれらの価値が簿価を下回っていること、すなわち価値が毀損されていることを意味する。

東証一部上場の約二千社のうちPBRが継続的に1を超えている企業は現在56%だ。一方、継続的に1未満の企業は26%もあり、これら企業の経営者は市場から価値毀損認定を受けていることを真摯に反省すべきである。PBRは経営者の通信簿である。

建設的な対話では、資本コストの合意と投資計画の税引き後事業利益率の議論が骨格であることを意識した上で、これらを取り巻く諸々の課題を議論すべきである。そして、建設的対話および経営の成果をPBRの変化で測定するとした運営が企業価値向上への王道であろう。

補足資料1_資本コストと価値創造の原理

補足資料2_価値創造企業と価値毀損企業

(2018.3.20追加)

補足資料3_優れた統合報告書企業の価値創造度