コーポレートガバナンス(以下CG)・コードの実施状況を記載したCG報告書の証券取引所への提出が始まった。3月期決算企業の場合、提出期限は本年12月までとなっているので、現在までの提出企業数は100社未満であり、まだ全上場企業数から見ると少ない。しかし、過日、上場会社の情報開示を研究している投資家等の自主的な勉強会に参加する機会を得たので、そこでの議論と、これまでに開示された事例を見て感じたことを書いてみたい。

 

まず、形式的な面。東京証券取引所のCG報告書の「記載要領」では、(1)「コードの各原則のうち実施しないものがある場合には、当該原則を実施しない理由を記載する。」、(2)「取引所が指定した11の原則についてその実施状況を記載する」こととされている。

  1. について「全てを実施している場合には、その旨をこの欄に記載する」とされて

いる。「全ての原則を実施しています」と記載している会社が多いようだが、一部に、この欄がない事例や、何も書いていない事例が散見される。これは、記載要領をよく読んでいないのではないかと疑われる。投資家は、まずはこの欄で各社の対応を比較・確認したり、スクリーニングしたりすることになるので、記載要領に沿った記載をお願いしたいものだ。

また、「本欄に記載すべき事由がありません」と書いている事例も見られる。これま「全ての原則を実施している」という意味と推察できるが、ストレートに「全てを実施している」と書いたほうがわかりやすいだろう。

このような形式的なことについては、証券取引所が記載ルールを明確にして、ルール通りに記載するように監督・指導することを期待したい。

次に内容面について。まず、上にも書いたように「全ての原則を実施しています」と記載している会社が多いようだ。しかし、「原則を実施している」といっても、どのような内容・レベルで実施しているのかがわからないと、投資家としては評価のしようがない。

例えば、原則4-10および補充原則4-10①では、「(任意の諮問委員会の設置等)任意の仕組みの活用により統治機能の更なる充実を図るべきである」という項目がある。「実施している」とした会社が、どのような委員会を設けているのか、その構成員がどうか、といった情報がなければ、投資家はその会社のCGについて評価できないだろう。

結局、CG情報の開示については、会社のCGへの取り組みの全体像を開示することが期待される。その場合に、記載の仕方として、(1)CGコードの全ての原則への対応状況を、原則に沿って順に記載していく方法と、(2)会社のCGに対する考え方、方針、体制などを、会社独自のストーリー性をもって説明する方法があるだろう。どちらの記載の仕方が優れているかということは一概に言えない。各社の取り組みを横比較して理解するには前者が便利であり、個々の会社の考え方や取り組みを深く理解するには後者の記載方法が適しているように思われる。

但し、後者の場合も、企業間の比較をしたいという投資家の要望を踏まえると、各記載項目に対応するCGコードの原則の番号を付記するか、あるいは各原則への対応箇所の一覧表を別途添付するなどの工夫をされると親切であろう。

また、「実施していない原則」があるとしている会社について、資生堂などでは、「実施していない原則」について、その理由や考え方を詳しく説明している。このような説明は、図らずも会社が真摯にコードの実施に取り組んでいることの証にもなっており、ここに記載されていない原則(実施しているとされている原則)についても相当高いレベルで取り組みが行われていることを推測させる。このような視点からは「実施していない原則」があることは、会社として何ら恥ずかしいことではなく、その理由が適切に説明されていれば、むしろ投資家の信頼を高めるものであると言えるだろう。企業は、必ずしも「全てを実施している」という記載にこだわる必要はないということを強調しておきたい。

最後に、CG報告書による開示は、企業のガバナンスへの取り組みを投資家に説明し、「対話」の素材とすることが期待されるところである。その観点から、企業は、CGへの取り組みを、さまざまな機会をとらえて、積極的に投資家に説明することを期待したい。例えば、決算説明会や経営方針説明会、中期計画説明会等の資料のなかにCGへの取り組みの説明を入れることで、投資家の理解も深まり、対話も有意義なものになっていくものと期待される。

木村祐基