投函者(三井千絵)

欧州委員会は今、Sustainable Corporate Governance(持続可能なコーポレートガバナンス)という取り組みを行っている。

これは2018年から取り組んでいる”EUサステナブルファイナンス”のアクションプランから議論されており、サステナブルファイナンスを求める一方でファイナンスを受ける側、企業側にも、経営者が短期的な収益を求めることがないよう、コーポレートガバナンスにサステナブルな観点を取り入れるための取り組みだ。10月26日から来年の2月8日まで意見募集を行っている。<意見募集ページ>

 

ステークホルダーの考慮、規制の要否

コンサルテーションをみてみると次のようなことを市場関係者に問うている。まずセクション1は“持続可能なコーポレートガバナンスに対しEUの関与の必要性とその目的”だ。その中の最初の問いは、従業員や顧客などステークホルダーの利益を考慮するべきだと思うか? そして次の問いが、サプライチェーンにおける人権や社会環境に関するデューデリジェンスについてEUの法的な枠組みを検討するべきか? となっている。続けて法的枠組みが必要な場合はどのようなものが必要か、またその場合のメリット・デメリットといった詳細な質問が続く。

セクション2は、ステークホルダーの利益を考慮することを経営者の義務とすることについてだ。これに関する様々な取締役の責務を法的に課すべきかについて意見を聞いている。問10では、企業は時にサステナブルなリスクやインパクトについて戦略的な方向性を持っていないことがあるので、それらを企業内の戦略や決定等に統合する必要があると思うか、となっている。そして従業員や他のステークホルダーが取締役に考慮を求める行動を起こさなければならなかった事例があるかと聞き、その場合の影響も聞いている。

セクション3はデューデリジェンスについてだ。ここではOECDのガイダンスやUNGPsなどを参照しどのような範囲までデューデリをするべきか(第三国の会社も含むべきか等)といったことや、その要件として必要だと思う点について、ボックスチェック的に回答を求めている。リストにあがっているのは、基本的な労働者の権利、労働条件、人権、地域社会の利益、先住民の権利、気候変動、生物多様性、自然資本、大気・土壌・水質汚染などが挙げられている。

 

取締役の報酬、役員のスキル

セクション4では経営について利害関係者の関与、取締役の報酬について取り上げている。取締役が短期的な収益を追求しないよう、どのような措置が有効だと思うかという問いがあり、たとえば株式報酬や売却を規制するとか、変動報酬のタイプを制限するといった案が並んでいる。

また自社株買いが企業の短期主義のひとつの行動としてみられており、これについて意見を聞いている点は特徴的だ。株主への支払いは、新しいテクノロジーや持続可能なビジネスモデル、サプライチェーンなどへの長期的な投資を行うためのリソースを確実に減らす、と欧州委員会は考えている。

そして取締役にサステナビリティに関する専門知識を持たせるためにどのような措置が望まれるかという問もあり、回答選択肢にトレーニングや、初めから特定割合の取締役をそういった専門知識を持つ人を含めるようにするといったものが挙げられている。

 

未来のコーポレートガバナンスのあり方

コンサルテーションの問いの中には、ステークホルダーへの考慮など一昨年の英国のコーポレートガバナンスコード改訂でも議論された点と同じ方向性も見られる。

しかし少なくとも自社株買いについての考え方は、これまで株主の利益を考慮し、ROEの向上を目指してきた日本のコーポレートガバナンスコードの議論とは一線を画すものとなっている。

折しも日本では、コーポレートガバナンスコードの2回目の改訂に向けた議論が始まったところだ。市場はグローバルにつながっており、当然日本企業の株式を保有するEUの投資家も少なくない。海外での議論も十分に理解しながら、日本での議論を深めていく必要があるだろう。