投函者(三井千絵)

 

高まるESG開示の議論と・・・

IFRS財団のサステナビリティ・レポーティングへの取り組みや、SASBとIIRCの統合へ向けた動きなど、企業のESG関連開示についてはますます活発に議論されている。開示だけでなく、様々な情報ベンダー・格付け機関などから提供されるESG関連のスコアやレーティングは投資家の投資判断に活用されており、今はこれらのクオリティや透明性、その在り方(規制の必要性の有無)などについても議論が広がっている。

ところで、投資家が企業のESGのレーティングやスコアリングの情報を活用するように、個人投資家が投信を買う、あるいはDCのファンドの選択、年金基金が運用にファンドを選ぶ際に、やはり専用のスコアリング情報や情報ベンダーのツールに頼るところがある。実際、投信を選ぼうとして困った経験はないだろうか。リターンや分配のタイプ、また投資先のテーマや連動している指数で検索はできるが、もし投資内容に拘って選ぼうとすると、たんに株を買う時よりずっと悩まされるだろう。ファンド名に“ESG”や“SDGs”とついていたらそうなのか?いったいどのような考慮をしているのか、実際にサービスや商品が見える企業と異なり、判断に悩むところではないだろうか。

 

ESGを謳う投資商品

企業のESGレーティングやスコアリングを情報ベンダー等が提供するように、ファンドの場合でも、選択の助けになるよう国内外の情報ベンダー各社はレーティング、スコアリングといった投資情報を提供している。目論見書などをみて情報を収録し、分類してそのカテゴリ全体の中での評価を行ったりする。このために得られる時の情報が十分であるかは、企業開示に比べてあまり議論されていない。

年金基金等アセットオーナーにおいても、すべてが大規模な公的年金のようにプロフェッショナルなチームを有しているわけではない。このようなアセットオーナーに対し、ファンドリサーチを専門に提供するサービスが国内外にあり、たいてい年金基金への投資助言サービスも行っている。運用のニーズを聞き、それにあったファンド選択を助ける。そのために様々な投資ファンドを評価しなければならないが、やはり公表情報をもとに、ファンド運用者へのインタビュー調査やディスカッションも行い、ファンドと年金基金等のコミュニケーションをサポートしている。今急速にESGやSDGsの運用が注目を浴び、それらの評価には十分な情報が入手できているのか、この点も国内ではあまり議論されない。

 

個人やアセットオーナーの投資をいかに助けるか

資産運用の世界では、企業が向かい合う投資家が“終点”ではなく、その先に運用資金を預けた顧客や、更に一人一人の年金受益者とそのサプライチェーンがつながっている。しかも資産運用業と異なり、個人であったり、小規模のアセットオーナーなどにおいては、入手できる情報や判断にかけられる時間も限られる。あるいみ“情報弱者”かもしれない。だから本来、ESGの企業開示の議論と同じぐらい、投資商品の開示についてもその向上を目指した議論が必要だ。

最近、ESGやSDGsという名称のファンドが多くの資金を集めたというニュースが報じられている。それだけ個人のニーズが高まっている。逆に言えば、“運用版グリーンウオッシュ”はどうすれば避けられるか、今こそ真剣に考える時ではないだろうか。

 

EUの取り組み

EUで2018年から始まったサステナブル・ファイナンスの政策では、この“投資の世界のサプライチェーン”全体の議論が常に行われてきた。年金・銀行・保険といったアセットオーナーから、資産運用、そして個人の資産運用までもれなく対象に議論が進められた。3月10日からはSustainable Finance Disclosure Regulationの適用が始まった。これはEU内で活動する金融機関に開示を求めたものだが、その中ではESGに関わる投資の詳細の開示が求められている。投資の意思決定や、有害な影響を与える危険性にどう考慮したかといったことを述べなければならず、用いたインディケーターについても説明しなければならない。また何がグリーンかということについては、EUではサステナブル・ファイナンスの取り組みの最初に、グリーンな経済活動を分類・定義するタクソノミを作成しており、この分類表を投資先の行動が“グリーンである”かどうかの判断に用いることになる。

このような政府主導の政策については、一部の産業に過剰に投資が偏らないかといった様々な意見はある。しかし少なくとも、開示が整備されることにはメリットがある。これらの情報をすべて個人投資家が読まなかったとしても、個人投資家が頼るスコアリングやレーティングにおいて、その透明性は向上するだろう。

 

市場全体での取り組みの必要性

英国やフランスでは、投資家側のESGの取り組みの開示は既に国内の法律やコードで求めてきた。グローバルで17万人の会員を有するCFA協会では昨年の夏から、「投資商品のためのESG開示基準」の策定に向けて活動を開始している。

こういったマーケット全体の動きとともに、EUやUKではここ数年、民間のファンドや投信の評価にも、ESG系の評価が組み入れられるようになってきた。それらの評価モデルに関する教育活動もあり、年金基金等にとってESGの投資がどのように第三者評価されているかを知る機会も増えている。時々巷で“日本の年金基金はEUなどに比べるとESG投資への関心があまり高くない”などという言葉を聞くことがあるが、こういったマーケット全体の取り組みがなければ、関心を高めるのも難しいだろう。

投資のサプライチェーンの最も末端にいる個人投資家やDC、また小型のアセットオーナーなどが、十分に情報を評価できることは、ESGやSDGsがそもそも目指していることからしても非常に重要だ。国内でも、このようなESG投資の評価やそのための開示やについても、議論が高まることが望まれる。