投函者(三井千絵)

 

ガスと原子力はやっぱりグリーン?

2022年の年明けは、EUから入ってきたニュース、“原子力とガスを、グリーンに含める検討”という情報に驚くことから始まった。

12月31日、欧州委員会は加盟国によるサステナブルファインアスの専門家グループと、Platform on Sustainable Finance(欧州委員会の常設専門家グループ。57人の委員と11のオブザーバーから構成される、以下プラットフォーム)に対し、Taxonomy Complementary Delegated Actの草案について協議を依頼した。この草案は、それまでの議論で持続可能なリストとして除外されていた天然ガスと原子力発電を新たに”グリーン”に加えるようTaxonomy Disclosure Delegated Actを改定しようというものだ。当初は1月12日までに意見を述べることを求められたが、プラットフォームはこれを1月21日まで延長した。

加盟国にはさまざまな意見がある。石炭より少ないとはいえCO2を排出するガスと、CO2は排出しないが使用済み核燃料など他の問題によってこれまでグリーンに含められなかった原発は背景が異なり、ガスだけに反対する声、原発に反対する声、両者に反対する声など様々だが、逆に現実的な路線と歓迎する声も大きい。昨年からの世界的な天然ガスの価格高騰、またCOP26の開催中にクライメート・アクション・トラッカー発表した”現在各国が掲げている目標を達成しても気温は2.4度上昇”といった状況から、いずれも(それぞれ別々の理由だが)なんらかの追加の取り組みの必要性が認識されてきたところだろう。

 

プラットフォームの意見

1月24日、欧州時間午前10時に、プラットフォームは意見書を発表した。意見書ではこれまでのタクソノミで検討してきた科学的根拠に照らし合わせれば、ガスと原発は持続可能と見なすことはできず、これを含めることはタクソノミの枠組みを損なう危険がある、と述べている。そして、ガス関連でグリーンではないが有害ではない活動を、あえてグリーンとする代わりに “琥珀色”のタクソノミに分類することを提案した。

一方原発については、ウランの採掘はDNSHに適合できない、核施設のメンテナンスの問題などをあげ、Climate Delegated ActやTaxonomy Regulationに矛盾している、と述べている。

プラットフォームはアドバイザリーであり、決定に及ぼす直接的な力はない。とはいえ欧州委員会は、一部の加盟国の反対意見や、このプラットフォームの意見書を考慮しながら1月末までに改正案を採択する。

 

内外の投資家の意見

この問題について、欧州の投資家、投資家団体もさまざまな意見を述べている。あるエネルギーを中心に研究しているESGアナリストは「ガスはグリーンではない。ガスと原発を入れれば、これまで作り上げてきた仕組みを壊すことになる」と述べる。日本の投資家などには「一時的に天然ガスは必要。いきなりやめれば歪みがでる」という意見も聞かれるが、「テンポラリーにガスが必要であれば、そういえば良い。そのために原則を変えるのは逆に全てを機能させなくなる」と懸念している。

AUM合計で50兆ユーロと言われる370ほどのメンバーを抱える投資家団体IIGCCは、1月22日、ガスをタクソノミに入れるべきではない、というオープンレターを発表した。しかし年末年始休暇明けに、あまりに短い期間での動きに、意見を求めてもあまり状況を追えていない投資家・ESGアナリストも見られた。

 

市場にとっての問題点は?

EUのサステナブルファイナンスにとって、タクソノミは基準となっており、EUではそれがグリーンの投資かどうかはタクソノミに記載されているかどうかで判断される。企業は今後各事業のタクソノミとの適合度を開示し、タクソノミがグリーンだと規定する事業へ投資資金が向かうことを目指している。

そのタクソノミでは、パリ協定、あるいは1.5度シナリオなどを達成するために、様々な産業において科学的に選定されてきた閾値を示している。例えばコンクリートであれば一定の生産の時に排出して良いCo2の上限が記されていたり、自動車であればCO2ゼロとしたため、PHVも“グリーンの仲間”に入ることができなかったことの根拠になっている。

これまでも「いきなり再生可能エネルギーだけを求めるより、まず石炭をガスに置き換えることによってCO2削減が進む」と、急激なルール作りに反対する意見もあったが、それでは気温上昇を抑制するための排出量削減目標に届かないと、いった意見から現在のタクソノミが出来上がったのはまだ去年のことだ。

今回のことは、ガスと原子力がグリーンかどうかも重要な論点だが、もう一つの問題は“タクソノミの変更”ではないだろうか。タクソノミを信頼し、ガスから水素への切り替えが進むと考えて行った新たな設備投資は、ガスの利用期間が伸びれば収益予想は変わるだろう。それらに対し行った投資も同じだ。もし市場に長期投資を求めるならば、何がグリーンかの定義と同じぐらい政府の計画は堅牢でなければならない。

 

欧州では決定までのプロセスは長い。欧州委員会が提案を行ったあと、欧州議会、カウンシルと今後も検討が進むことになる。Platform on Sustainable Financeの議長であるネイサン・ファビアン氏は「EUはガスをグリーンで実質的な貢献をする、と言ってしまったために困難に向かい合うと思う。まだ最終的な内容がどのようになるかを言うには時期尚早だが、決定が何であれ、マーケットが独自の決定を下せるよう、開示は常に明確でなければならない」と述べた。引き続き欧州の動きに注目する必要があるだろう。