投函者(三井千絵)

 

2022年2月2日、欧州委員会は、昨年末から議論していた補完的気候委任法によって、タクソノミに原発とガスを含める案を正式に提案した。(「欧州タクソノミ、ガスと原子力“グリーン”への見直しをめぐる議論」参照)今後のスケジュールは、欧州議会と加盟国の評議会で4カ月間、議論され必要があれば2カ月延長できる。

1月24日、諮問機関であるPlatform on Sustainable Finance(以下、プラットフォーム)は、反対の意思表示をしていたがほぼ考慮されなかった、とそのメンバー等は感じている。しかし欧州委員会側は、「ネットゼロへの移行を加速するための安定した供給源も必要」と述べ「特定の原子力とガスによる活動を移行のために必要な第2のカテゴリーとして含めた。しかし再生エネルギーへの投資を混乱させることがないよう、厳しい開示の条件を規定する。これらに投資をした金融機関はそれを開示することが求められる。」と述べている。

 

欧州委員会の説明

欧州委員会はこの決定について、詳細な説明を発表している。「特定の原子力およびガスによる活動を対象とするEUタクソノミ補完気候委任法に関する質問と回答」という文書をみると、次のような説明をしている。

まずタクソノミは原発やガスなどの加盟国のエネルギー政策を縛るものではなく、同様に投資を縛るものでもない。加盟国は、エネルギー安全保障、エネルギー価格の安定、脱炭素化と気候中立性への取り組みの観点から、適切なバランスをとりながら自国のエネルギーミックスを決定することに責任を負っている。タクソノミは金融市場の透明性を高めるためのツールでしかない。

続けて“EUが直面しているエネルギー価格の高騰は主要な懸念事項である。再生エネルギーに移行することは気候変動のリスクを回避するだけではなく、化石燃料の価格変動に対するEUの脆弱性を減らすこともできる、と決して方針に変更がないことを力説している。

しかしガスはそれで理解することができたとしても、原発についてはどうなのか。説明では原発については、DNSHにも考慮をし、たとえば高レベル放射性廃棄物の処理施設を稼働させる詳細な計画を策定する必要があるなどこれをクリアする条件も設け、第三国で処分するための放射性廃棄物の輸出も禁止すると述べている。

 

さまざまな「移行」に向けた対応

エネルギーの高騰など現実の問題を抱えていることは、誰もが納得できるところだろう。しかしそれについては、タクソノミに含めなくても別のやり方があったのではないか。サステナブルファイナンスの議論が始まって以来、日本でも経済産業省などを中心に取り組んできたトランジッション・ファイナンスもその一つだ。実際にトランジッション・ボンドで資金調達したある英国の会社は、ガス管の整備にこれを利用した。トランジッション・ボンドとしてファイナンスを受ける代わりに将来水素に切り替えた時も利用できるものにする・・・ということだ。これであれば、タクソノミを修正しなくても当面の資金を送ることができ、さらに長期にはグリーンに貢献する活動であることを条件にできる。

ネットゼロまでの道のりは一つではない。欧州委員会の説明は理解できるが、プラットフォームが提案した“琥珀色”の分類はなぜだめなのか、次の4カ月で議論が深まるだろうか。

 

一つ一つの投融資を真剣に考える必要

ガスと原発を“移行のために必要な第2のカテゴリー”としながらも、タクソノミ自体を修正することにした背景には、タクソノミが強くなりすぎた、ということがあるのではないか。これも日本の投資家や関連当局などが当初から懸念し、コンサルテーションでも意見してきた点だが、タクソノミでグリーンな活動を定義し、その適合具合を開示をすると、今度は”タクソノミ適合度合い”がプロモーショナルな意味合いをもちはじめ、必要以上の資金が偏ってしまう・・・ということが既に起き始めているのではないだろうか。

実際、それが欧州委員会がタクソノミを開発した目的だ。いつまでも化石燃料にこだわる企業に、新しい経済活動に踏み出すよう、民間の資金供給がそれを後押しするよう仕向けた。金融機関はタクソノミに適合しない産業には資金を供給せず、競ってタクソノミに適合する投資を求めた。そして各事業にとってはタクソノミに含まれるかどうかが資金供給を受ける生殺与奪権になってしまった。投資家側も、気候変動に貢献するかどうか、何がグリーンかタクソノミがあれば、アセットオーナーにも説明がしやすく、便利だという気持ちが高まった。

しかし一つ一つの活動が本当に環境に貢献し、かつ企業価値を高めるかどうかは、さまざまなリスクに向かい合いながら個別に判断しなければならないものだ。もちろん気候変動に立ち向かう経済活動は政策、法規制の変更の影響を大きく受ける。だからタクソノミに頼らざるをえない面もある。とはいえ今後もタクソノミを見直さなければならない状況は発生するだろう。長期の投資判断をタクソノミだけに頼らないで行っていれば最初から織り込んだリスクも、タクソノミだけに頼れば考慮せず影響を大きく受けるかもしれない。

EUタクソノミに修正があったからといって、もともとの事業が変わったわけではない。欧州委員会が言っているようにこれは開示の透明性を高めるためのツールなのだから、開示の内容が修正されただけだとみるべきだろう。

今後も一つ一つの事業や投資を、何が本当のグリーンなのか、何が企業価値を高めるのか考えて行い、タクソノミの修正に影響されない判断をおこなっていくべきだろう。