木村祐基

◆「株主総会の分散化」は投資家にとって最重要の課題

2月に入り、そろそろ3月期決算会社では、本年の株主総会に向けて役員候補者の選任などの準備が本格化する時期であろう。我が国の株主総会といえば必ず話題になるのが「6月集中」の問題である。

機関投資家にアンケートを行うと、「株主総会の分散化」が最優先の課題としてあげられてくる。例えば、日本投資顧問業協会のアンケート(2014年10月実施分)では、株主総会に関して企業が取り組むべき項目について、「株主総会開催日の分散化」が第1位で71%、次いで「議案の説明充実」が70%、「招集通知の早期発送(早期開示)」が60%であった。

また、生命保険協会のアンケート(「株式価値向上に向けた取り組みについて」2015年3月)では、議決権行使充実のために企業が取り組むべき項目(投資家の意見)として、「集中日を回避した株主総会の開催」と「招集通知の早期発送(早期開示)」がそれぞれ65%で1位、次いで「議案の説明充実」が54%となっている。

◆政策当局も問題提起

このような「株主総会の集中」という問題は、世界各国の中でも日本にしか見られない問題であり、近年、政策当局からも問題提起がなされるようになっている。

例えば、経産省では、「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」のもと、2014年10月から「株主総会のあり方検討分科会」を設置して株主総会プロセスのあり方について議論を重ねてきた。

また、コーポレートガバナンス・コードでも問題提起がなされた。すなわち【補充原則1-2③】で「上場会社は、株主との建設的な対話の充実や、そのための正確な情報提供等の観点を考慮し、株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定を行うべきである。」とし、有識者会議における「原案」では、その背景説明も詳しく行われている。

さらに、直近では、金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループにおいても、各種開示書類の開示内容の整理という論点と合わせて、株主総会の日程のあり方についても問題提起がなされている。

しかしながら、こうした政策当局の議論においても、依然として、株主総会の分散化に向けた具体的な提案や施策を打ち出すには至っていない。その理由として、株主総会を開催する企業側には、現在の慣行をあえて変更するような強いニーズが見られなかったこと、他方機関投資家側からも、株主総会を7月に開催するという案に関して「反対ではないが、強く賛成するということでも無かった」(株主総会のあり方検討分科会第7回議事要旨)ようである。

筆者は、長年、機関投資家として議決権行使や企業との「対話」を担当してきた経験から、株主総会の7月以降開催を強く主張するものである。

◆現在の株主総会慣行の問題点

我が国では、ほとんどの企業が、決算期末日を、株主総会の議決権行使権の基準日かつ期末配当受取権の基準日としている。会社法で基準日の有効期限が3ヶ月以内と定められているため、わが国上場会社の約80%を占める3月期決算会社の株主総会は6月下旬に集中して開催されている。この現在の慣行は、以下の5つの大きな問題をはらんでいると考えられる。

  1. 3月期決算会社の株主総会が6月下旬に集中することにより、株主が議案を精査し、会社と対話を行うための時間が十分とれず、また総会への出席も困難になる。近年、多くの企業が「総会開催日の前倒し」に努力しているが、現在のスケジュールの中では数日前倒しできる程度であり、本質的な解決にはつながっていない。
  2. ほとんどの会社で有価証券報告書の提出が株主総会後となるため、株主は、各種開示書類の中で最も重要かつ豊富な情報を記載している有価証券報告書を総会議案の審査に活用できない。
  3. 株主総会の基準日と総会開催日が約3ヶ月も乖離するため、基準日株主と総会時点における株主が異なるという可能性が大きくなり、その結果株主総会の意思決定が非効率になる恐れがある。(すでに株式を売却した株主は将来の当該企業経営には利害を待たないため、たとえば過剰な剰余金分配を求める、経営者選任や役員報酬制度の変更、買収防衛策などの将来の企業経営に大きな影響を及ぼす可能性があるような議案に関心を持たない、といったことが起こり得ると考えられる。)
  4. 会社の決算日から株主総会までのスケジュールがタイトになることで、会計監査や株主総会関係書類の作成にも大きな負担が生じているものと考えられる。また、そのほかにも株主総会運営に付随する様々なコストも発生していると考えられる。例えば総会会場確保が困難になること、証券代行機関の業務が一時期に集中すること、議決権行使書の郵便が集中することで郵便配達業務が滞ること(実際過去には議決権行使書が期日までに会社に届かなかったという事例もあったと聞いたことがある)、総会関係書類の印刷が集中することによる印刷会社の非効率などがあげられる。
  5. 「配当の権利落ち」後に株主総会で配当額が確定するため、もし株主総会で配当額が変更された場合には株価形成にゆがみが生じ、基準日の前と後の株主の間に大きな不公平が生じる。実際、株主による大幅増配提案が行われたケースでは、この点が大きな問題として投資家に認識された。

以上のように、現在の総会日程は、さまざまな問題点が指摘される。特に、今日、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードによって、「企業と投資家の対話」が重要な課題とされている中にあって、投資家の立場からは、①と②の課題、すなわち、株主の最も重要な意思表示の場である株主総会において、もっとも詳細な情報が記載された有価証券報告書が利用できないこと、および株主と企業との対話の時間がほとんどとることができないという問題は、早急に解決すべき課題であると考える。

◆会社法では「6月総会」も「期末日を配当基準日とする」ことも要請されていない

そもそも会社法では、株主総会の開催について「定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」(第296条1)とされているだけである。また配当については、「株式会社は、剰余金の配当をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない」(第454条)とされているだけで、配当割り当ての基準日を決算期末日にしなければならないというような規定もない(配当を取締役会が決定できる特則(第459条)がある)。

実際、2011年3月の東日本大震災にあたっては、被災企業の株主総会を予定通り開催することが困難になることが予想されたため、法務省から、「会社法上、事業年度の終了後3か月以内に必ず定時株主総会を招集しなければならないものとされているわけではありません」という解説をした「定時株主総会の開催時期について」というお知らせが公表された。(法務省ホームページ、2011年3月25日)

このように、会社法上は、6月末に株主総会を開催しなければならないわけではないにもかかわらず、現在のような慣行が定着してきた背景については、巻末の参考文献に詳しいので、そちらを参照していただきたい。

◆総会開催日の前倒しには限界がある

株主総会の6月末集中による投資家の議案審査日数の不足の問題は、基準日を決算日と切り離し、欧米のように株主総会を決算期後4~6ヶ月後に開催することで解消できる。これ以外に本質的な解決方法はないと考えられる。会社の決算・監査のスケジュールから、現在以上に総会の開催日を前倒ししていくことは著しく困難であると考えられるからである。

近年、多くの企業が、いわゆる「集中日」を避けて、総会開催日を前倒しするよう努力している。日本投資環境研究所の上田亮子氏のまとめによると、東証1部上場企業の2015年6月総会では、いわゆる集中日の開催は39.4%であった。かつては集中日に90%以上の会社が集中していたことを考えると「分散化」が進んだと見える。しかしながら、集中日を含む同じ週(集中週)に開催した会社は82.1%にのぼっており、この比率は2014年6月の79.9%とほとんど変化がなかった。上田氏は「株主総会の集中開催の緩和は、底を打った感がある」と総括されている。

また、無理に総会を前倒ししようとすると、監査や情報開示の「質」に問題が出てくる可能性も否定できず、投資家にとって決して望ましい解決策とは言えないだろう。

◆欧米の総会開催日の実務

欧米では、各国により法の定め方に違いがあるが、実質的に米国は決算期後6ヶ月以内、英国は7ヶ月以内、フランスは6ヶ月以内、ドイツは8ヶ月以内、などと定められている。(田中亘氏論文参照)

日本投資環境研究所の豊田和美氏の調査によると、米国の2010年12月決算会社(S&P500構成企業366社)の株主総会は4月中旬から5月下旬の約1か月半の間に分散して開催されている。また英国企業(FTSE構成企業162社)の株主総会は、4月下旬から5月下旬の約1か月の間に分散して開催されている。また招集通知は、英米とも、平均して総会日の43日前に発送されている。(後掲参考文献参照)

具体的なイメージをつかむために、米国GE社の2015年(2014年12月期)の決算から総会までの日程を見てみると、以下のようになっている。

1/23 第4四半期及び2014年年間のEarnings Report発表

2/27 Form10-K(日本の有価証券報告書に相当)をSECに提出

3/10 Proxy Statement(株主総会招集通知)発行(株主基準日2/23)

(4/17 第1四半期Earnings Report発表)

4/22 株主総会

4/27 第1四半期配当支払い(基準日は2/23)*四半期配当を実施

このGE社の株主総会日程を、日本の3月期決算会社に当てはめてみると、以下のようなイメージになる。4月下旬に決算発表が行われ、5月末までに有価証券報告書が提出され、5月下旬を総会出席株主の基準日として、6月上旬に招集通知と参考書類が送付され、7月下旬に株主総会が開催される。現在の総会日程と比べると、決算発表や招集通知の発送に時期はあまり変わらず、総会開催日が1か月後倒しになるため、株主が招集通知の議案を審査する期間が約2か月確保できることになる。この結果、総会議案について、株主が余裕をもって審査したり、疑問点を会社に問い合わせたり、あるいは会社が株主に議案内容を十分に説明して理解を求めることができるようになるだろう。

◆有価証券報告書の情報の十分な利用による株主の正しい経営評価

一般に株主・投資家が入手する会社情報としては、会社が証券取引所で開示する決算短信、株主総会招集通知に添付される事業報告、そして金商法に基づいて開示される有価証券報告書がある。中でも有価証券報告書は、株主・投資家が投資判断に必要とする重要かつ十分な情報を提供することを目的とするものであり、上記の各種の情報の中で最も詳しい内容を有している。

したがって、有価証券報告書が提出された後に、株主がその情報を十分に読み込んだ上で、株主総会において経営者の選任・承認その他会社の重要な事項について投票を行うことが望ましいと考えられる。逆に、有価証券報告書の提出前に株主総会で経営陣の選任が行われてしまう現在の慣行は、株主が重要な情報を知らぬままに経営陣を承認してしまうという危険をはらんでいる。

2009年12月の開示府令改正により、有価証券報告書の総会前提出が可能となったが、実際には実務的な日程上の制約により、総会前提出を行っている会社はごく少数にとどまっている。また、株主が有価証券報告書を十分に読み込んで株主総会の判断の参考にするためには、総会日の2-3日前の提出ではあまり意味がない。少なくとも招集通知の法定期限である2週間前程度の期間が必要であろうが、旬刊商事法務「株主総会白書2015年版」によると、有価証券報告書を総会前に提出したと回答した48社(回答総数1,704社)のうち、総会日の10日前以前に提出した会社は2社しかない(7日前以前でも4社)。結局、株主が有価証券報告書の情報を十分に活用して株主総会に臨むためには、総会の開催自体を、有価証券報告書提出後の余裕を持った時期に行う以外に解決しないと考えられる。

なお、もし有価証券報告書が株主総会前に提出されるのであれば、会社法上、有価証券報告書を事業報告・計算書類等に代えることができるとする規定を設けることも合理的であるように思われる。また、もし株主への郵送負担が重いということであれば、有価証券報告書のウエブ開示も認められるとし、株主には要旨のみを郵送するということも考えられる。そうすれば、有価証券報告書の詳しい開示情報が株主総会で有効に利用されるとともに、企業にとっても総会提出書類作成の負担が軽減できるのではなかろうか。

◆まとめ―その他の問題点も基準日を決算日と切り離すことで解決できる

以上のほか、上記の問題点①~⑤であげたことのうち、③の総会で議決権行使をする株主の基準日と実際の総会日が大きくかい離する問題や、⑤の「配当落ち」後に実際の配当額が確定することによる株価形成のゆがみの問題については、指数の都合で詳細の解説は別の機会に譲ることとするが、いずれも、それぞれ議決権基準日、配当基準日を決算期末日と切り離すことによって解消できる。

以上のように、まず、株主総会の議決権基準日、および配当基準日を決算期末日と切り離し、株主総会は余裕を持って決算期後4~6ヵ月後に開催することとし、株主総会の基準日は招集通知を発送する日の直前すなわち総会日の1~2ヶ月前程度に設定して、基準日株主と実際の総会日の株主の乖離の縮小を図り、また配当の基準日は株主総会で配当を決議する日よりも後にすることにより、現在の株主総会の多くの問題点を解決できるものと考える。

政策当局等における株主総会日程に関する議論が、速やかに進展することを期待したい。

 

【参考文献】

浜田道代「新会社法の下における基準日の運用問題(上)(下)」 商事法務No.1772、No.1773(2006年)

田中 亘「定時株主総会はなぜ六月開催なのか」 『企業法の理論(上)』所収(2007年)

河合芳光「定時株主総会の開催時期に関する法務省のお知らせについて」商事法務No.1928(2011年)

豊田和美「定時株主総会の開催と招集通知発送時期の現状-日米英のスケジュールの比較を中心に-」 資本市場リサーチ2011年秋季(みずほ証券・日本投資環境研究所)