(木村祐基)

米運用会社RMBキャピタルは、東証1部上場のオプトホールディングが3月25日に開く株主総会で、同社の「監査等委員会設置会社」への移行提案に対して反対することを表明し、他の株主へ同調を呼びかけた。RMBキャピタルは、オプトホールディングの株式の5%超を保有している。

RMBキャピタルは、反対する理由を以下のように説明している。

  1. コーポレートガバナンスの核心は、経営陣の選解任等の人事権を通じて経営陣が株主価値の向上に努めるよう担保することだと考えるが、オプトの計画する監査等委員会設置会社は指名・報酬委員会を欠き、コーポレートガバナンス改善の方策としては極めて不十分であると考える。
  2. 監査等委員会への移行に際し、従来の監査役がそのまま取締役として監査等委員に就任するという、いわゆる横滑り人事が行われている。これまで常勤だった監査役が非常勤となり、また単独での監査権限がなくなるため、監査機能がかえって低下し、株主にとって不利益となる可能性がある。一方で、移行後も社外取締役は全取締役8名中3名と過半数に満たないため、監査機能の低下と引き換えに取締役会での議決権を付与することの効果に疑問を持っている。
  3. RMBキャピタルは、(1)指名委員会等設置会社に移行するか、あるいは(2)現行の監査役会設置会社のまま、任意の指名・報酬委員会を設置することを提案している。

なお、オプトホールディングは開示資料において、指名・報酬委員会の設置について議論を重ねており、今回は見送るが、引き続き検討していくとしている。

 

さて、監査等委員会設置会社制度については、社外取締役の導入を求める声が高まる中、監査役設置会社が社外監査役(2名以上必要)と別に社外取締役を採用することは、特に中小規模の会社にとっては社外役員採用の負担が重く、一方、委員会等設置会社(現指名委員会等設置会社)に移行するハードルも高いのではないかということで、従来の監査役制度に代わり「2名以上の社外取締役による監査委員会」を置くことになったものと理解できる。

この監査等委員会設置会社については、制度創設当初から、主に以下の3つの課題があるのではないか、と投資家から指摘されてきたところである。

  1. 社外監査役と監査等委員である社外取締役とは、求められる役割が同じではないので、もし単純に社外監査役を社外取締役に横滑りさせるとすると、人材の資質という面で問題がないのか?
  2. 常勤監査役がいなくなることで、監査機能がむしろ弱くなってしまうのではないか?この対応として、内部統制・内部監査機能の強化や、監査等委員との連携を強化する必要があるのではないか?
  3. 監査役が監査等委員に置き換わるだけなら、むしろ監査役制度のまま社外取締役を採用するほうがコーポレートガバナンスの強化になるのではないか?特に、コーポレートガバナンスの要として投資家が期待する経営者に対する指名・報酬の監督機能が明示されていないことは失望が大きく、この制度を入れることで、むしろ日本のコーポレートガバナンスの後退と受け止められないか?

上記のRMBキャピタルのオプトホールディングに対する意見は、まさにこのような問題点を指摘したものと言えるだろう。

もちろん、社外監査役が社外取締役に代わることで監査機能やガバナンス機能が低下することが無いように制度上の工夫は設けられている。例えば、監査等委員である取締役はそれ以外の取締役とは別に株主総会で選任され、任期は2年であり、業務執行取締役を兼ねることはできず、取締役として取締役会での議決権を持ち、株主総会において他の取締役の選任・報酬等について意見を述べることができる。したがって、制度設計として、監査役設置会社と監査等委員会設置会社のどちらがより良いコーポレートガバナンスにつながるかは、一概には言いにくい。

結局、どんな制度を採用するにしろ、コーポレートガバナンスが向上するかどうかは、各企業の取締役・監査役が、各々の役割を十分自覚し、その権限を活用して実効性のある活動をするかどうかにかかっているということになるだろう。

監査等委員会設置会社に移行する会社は順調に増えており、東証のコーポレートガバナンス情報サービスで検索すると、3月17日時点で257社が監査等委員会設置会社になっている。そのうち東証1部上場会社が125社、東証2部・新興市場上場会社が132社で、相対的に中小型企業が多いと言えるだろう。今年移行を表明している会社を含めると300社を超えるとのことである。

この移行の理由が、単に「社外取締役の人数を揃えるのに簡単だから」では困る。投資家・株主は、この移行が企業価値向上につながるものであることを企業が十分に検討した結果の選択であるのかを、しっかりと評価する必要があるだろう。

理想的にいえば、スチュワードシップ・コードを受け入れた機関投資家は、個々の企業との「対話」を通じた深い理解に基づいて、各企業の取締役会・監査等委員会の構成や人選、その運営の実態などを評価して、議決権行使などの判断をすべきだということになる。とはいえ、特にインデックス運用などで広範な上場会社に投資している運用会社の場合、全ての会社と「深い対話」をすることは実際上不可能である。このため、一定の公表された情報に基づいて判断していくことにならざるを得ない。

従って、制度移行を検討している上場会社には、上記のような投資家の疑問に答えるような、十分な情報開示・説明に努めていただくことを期待したい。