投函者(三井千絵)

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一年に一度の株主との真剣対話

大雨の中、“お詫び”で始まる株主総会

6月18日10時、大雨のなか日本航空株式会社(以下JAL)が有明ガーデンシアターで株主総会を開始するのと同じ時、西の愛知県豊田市ではトヨタ自動車(以下トヨタ)がその本社の大ホールで株主総会を開始していた。筆者はトヨタの株主総会を見ていたためJALはアーカイブを視聴した。冒頭から鳥取社長が1月2日の海上保安庁機との衝突事故をはじめ、安全上のトラブルがあいついで発生し、国土交通省より厳重注意を受け再発防止策を提出したことを報告した。その頃トヨタも、株主総会が始まる10時まで、認証試験の不正問題についての“お詫びビデオ”を上映していた。定刻になり、佐藤社長がはじめてとる議事もお詫びから始まった。そして同日の午後1時に、雨脚が強まるベルサール高田馬場で開催されたLINEヤフー株式会社(以下ヤフー)の株主総会は、冒頭から出澤社長による個人情報流出のお詫びで始まった。役員報酬の一部返上を行ったと深々と頭を下げた。

 

「会社は大丈夫なのか?」と問う、個人株主

トヨタでは、認証不正問題に関連する質問が半分を占めた。その他の質問もダイバーシティや人材確保、安全技術などに関する対応について説明を求めるものだった。「日野自動車の問題、ダイハツの問題と出てくるたびにトヨタ本体も色々チェックをしていたはずだが、あとから国から言われてトヨタ内部のことが見つかったようにみえる。振り返ると最初が甘かったのでは、と思わざるを得ない」、「ニュースを聞いたとき、ショックを受けた。ガバナンスが不全なのではないか」といった株主からの指摘に対し「現場で様々な工程を見直していった。想定以上に多くの人が関係していた」、「ガバナンスとは、支配や管理ではなく、各自が判断して動けるような会社であること」と、取締役会も真剣に答えていた。興味深かった質問で「これだけの利益をあげて、ステークホルダーには(従業員やサプライヤーには)どのように利益を分配するつもりか」と、経営者の考え方を問うものもあった。

ヤフーでは、情報漏洩問題に対する対処策であるセキュリティコミッティに関すること、安全性などについての質問に加え、オークションの違法な出品、ラインを使った投資詐欺・勧誘行為などに対する経営者の姿勢を問うものがみられた。また先のトヨタと異なり、株主還元や業績に関する厳しい質問も数多く出ていた。(これはひとえに二社の業績の違いによるものだろう)ヤフーは事前質問、インターネット質問、会場質問について時間の許す限り全てに応えようとする姿勢が感じられた。ヤフーは、ハイブリッド株主総会として、オンラインで参加している株主も動議を提出でき、総会中に質問も可能だ。(多くの株主総会は、ライブ中継を視聴するだけで質問は事前に送る必要がある)インターネット参加者からの質問の一つに「引き続きプライム市場を目指すのか?だとしたらなぜなのか?」という重い質問があった。出澤社長は表情を引き締め「目指します」と答えた。

 

厳しい質問にも経営者ははっきりと答える必要性

6月19日は打って変わった晴天で、パレスホテルで日本郵船株式会社の株主総会が行われた。こちらでも、事業報告の中で環境問題に対する対応が紹介され、アンモニア船、バイオ燃料船の導入計画や、洋上風力発電の作業員輸送船の取り組み、パナマの問題から、乗組員の健康についてまで幅広く説明した。これに対し株主は、従業員への賃金(適切な賃上げをしているのか)、一株当たりの価値は今後どのように向上するのか、配当性向をもっと上げないのか、という還元に関わる問題、そして紅海の今後の状況とビジネスの見通しについても質問を行った。経営陣は原油価格と市場の推移、コンテナ船と物流問題、ハマスとイスラエルの問題まで幅広い観点から回答を行った。一方、客船のサービスが悪いというような質問もあった。質問の根ざすところは、昨今あちこちで不正が頻発しているが、業員のモチベーションや、教育はどうなっているのか、という懸念であったようだが、一見サービスに対するクレームのようにも聞こえた。これに対し社長は「全員がスーパーマンではない」ときっぱり述べ、社員ができるようにするのが自分の仕事だと答えた。

同日19日の午後は、完全オンライン総会を実施している株式会社LIXILの株主総会だった。最初に「議決権行使は総会中いつでもできます。通信障害対策にもなりますので、早めにお済ませください」というのは、良いやり方だ。しかし株主総会が始まると市場状況も業績も良くないため、なかなか厳しいやり取りが続いた。瀬戸社長は「世界的にも金利が高いと住宅需要は減ってきて、人口も減る日本は逆風」と述べた。とは言え欧州市場の伸びの中断は一時的であろうとか、国内の新築市場の縮小は予想されていたが、予想以上であったといった解説が続いた。株主質問もすべてオンラインで行われるが、たとえば「取締役で株を持っていない人がいる」とか、「瀬戸さんの報酬は業績や株価をみて適切か」といった厳しめのものもあった。これらについて瀬戸社長は時折、担当役員を指名しながら、きっぱりと自らの方針について説明を行っていた。

 

気候変動株主提案

初めて今年気候変動に関する株主提案を受け取った日本製鉄が株主総会を行ったのは21日の10時であった。ここでは最近めずらしく「事業報告」がビデオ上映ではなく社長自らの言葉であった。USスチール社の買収を成功させ、インドもあわせて1兆円ビジネスを目指す、と述べ、労働人口減少や、人材の流動化などの課題について語り、中国からの安い輸出と原料高でディカップリングが起きているといった。続けて他社のように脱炭素への取り組みを話した。まず鉄鋼のカーボンニュートラルとは何かについて解説した。排出量は鉄鉱石を還元する部分が大半で、生産プロセスの革新もあるがそれにはグリーン電力、或いは水素の安定供給などが必要、つまり国の整備が必要で、これらを予見して投資計画を立てなければならない、と述べた。

決議に入り 議長は株主提案について紹介し、提案株主が出席をしていたら補足説明を希望するか?と問うた。投資家グループの代表が挙手して説明を行った。まず説明する機会を得たことと、これまでの対話で誠実に対応してもらったと謝意を述べた。そして、日本製鉄はグローバルの気候変動への取り組みに重要な役割を果たしている、日本製鉄の取締役の考えもっと公表する必要があると考えている、従って開示を更に進めていただきたく今回株主提案を行ったと述べた。(たとえば排出量の開示が国内だけで海外のものが含まれていない等)また役員報酬を成果に連動させてほしいとか、日本製鉄は関連委員会の委員でもあるので、日本の政策に影響力のある立場にあり、ロビー活動の開示も行って欲しいということを提案している。

取締役会の意見は記載の通り提案に反対である、と述べながらも議長は「気候変動は経営の最重要事項だと考えている、今後も開示を取り組んでいく」と述べた。

 

国の政策に対しリーダーシップを求める株主

会場株主の質問では、まず気候変動関連の質問がいくつかあった。グリーン電力ということで、原子力発電についてどのようにみているかとか、カーボンフットプリントについて問う意見があった。

また機関投資家(法人で株式を取得し参加)からの“株主質問”もあった。やはり海外事業の脱炭素についての取り組みの開示があまりない、というもので、これから一兆円事業を目指し海外事業を増やしていくのであれば、脱炭素についての開示が必要で、できない部分は何が障害になっているのかといった問いだった。

それぞれに対し取締役会は、今取りまとめが勧められている第7次エネルギー基本計画では、AIや自動化で電力需要が増えていることを政府はよく認識するべきで、更にコストが国際的に競争を行っている産業界にとって十分かという検証もする必要があると述べた。そして次にグリーン電力、水素などのサプライチェーンが産業インフラとして整備される必要性をあげ、今なお何も明確な道筋がない中で、多様な選択肢を用意する、不確実な中でも前に進めなければならないと主張した。現実問題としてGXという国際競争が既に始まっており、遅れをとれば大打撃だと述べたところ会場から拍手が沸き起こった。

ある株主が、「40年前から株をもっている。先般トヨタに価格改定の申し入れをしてくれた。ぜひ、いいものは安く売らず、株主に還元してほしい」と述べた。また別の株主はUSスチールの買収を懸念し、設備や労働者の状況などの心配点を挙げた。すると経営者は現地に何度も行き、その懸念は小さいだろうと答え、「当社が世界一に復権していくためにはどうしてもアメリカで事業をやっていく必要がある」ときっぱりと述べると再度会場から拍手が起きた。

 

PBR1倍超えを求める個人株主

ある株主はプライム市場に上場している企業としてPBRは無視できないのではないか、と聞いた。これに対し経営者は「PBR自体に意味があるのか疑問に思っている」と切り出し、「成長のために色々な取り組みをしている。PBRは株価の指標だと思うが、鉄鋼業は収益が安定していないなど、なかなか難しい」と心中を述べた。しかしその後議長は「PBR1倍をクリアしようとして自社株買いを行うのはいかがないものかと思う。今は日本の企業が再度輝きを取り戻す正念場だ。今は国内で設備投資をしなければならない」と強く訴えた。

もしその資本が将来輝きを取り戻すのであれば、それはもちろん今すぐ株主に還元する必要はない。経営者がその計画についてしっかりとした説明を行い、それが市場に理解されれば、株価は向上するだろう。日々投資家と対話をしていても、株主総会のような大きな舞台で、大勢の株主の前で説明をするというのは、経営者にとってまた違った緊張感をもたらすだろう。これらの株主との対話が、経営者自身にとって決意を強く胸に抱く機会となるといえるのではないだろうか。

(後編に続く)