投函者(三井千絵)

英国3当局による共同声明

英国で市場に関わる3つの行政当局FRC(Financial Reporting Council)、FCA(Financial Conduct Authority)、PRA(Prudential Regulation Authority)は3月26日、共同声明を発表した。企業経営者へのメッセージだ。

”今は前例のない状況であり、英国政府および中央銀行は様々な対策をとっている。同時に企業においては、Successfulでサステナブルなビジネスとして社会に対し雇用を提供し、経済と社会を支え続けてほしい。また株式市場、債券市場はこれらのビジネスに資金提供を続け回復を支えてほしい、そしてそれを実現するのは、タイムリーな開示である”、と冒頭で強く訴えている。

3機関はこの共同声明で、継続して投資資金が市場に流れ続けるように、一連の行動計画を伝えた。FCAからは監査済み年次財務報告書の提出期限を2ヶ月遅らせると発表、FRCからは監査法人に、監査におけるエビデンスの取得といった問題をどう克服するかのガイダンス、PRAからは金融機関に対しIFRS9号の予想損失引当金の評価についてのガイダンスを提供、そしてFRCからもうひとつ、このような不確実な環境で財務諸表を作成する企業へのガイダンスが公表された。

 

情報を求める投資家の5つの質問

この企業開示に向けたガイダンスは一枚の表で、簡潔にキー・メッセージがまとめられている。5つのセクションにわかれ、「Resources」と名付けた2セクション、「Action」として2セクション、最後のひとつは「Future」となっている。Resourcesからみていくと、セクション1は“How much cash does the company have?” そして、現在流動性資産がいくらあるかは投資家にとって重要な情報だと説明している。セクション2は“What cash and liquidity could the company obtain in the short term?” 短期の融資契約や支払いの変更の可能性や、クレジットライン、関連企業や他のステークホルダーからのサポートの有無、関連する契約などの情報を挙げている。次のActionの最初のセクションは、“What can the company do to manage expenditure in the short-term?” として、配当方針の変更を予定しているか、設備投資系の支出の性質やタイミング、フレキシビリティがあるかどうか、遅れるかもしれない支払い、仕入れ、出荷に関するファイナンススキームを上げ、次のセクション4では “What other actions can the company take to ensure its viability?” として政府のサポートや、ストレステストの情報、そしてボードのモニタリングがどのように行われているかを説明するべきとしている。

最後はFutureだ。このセクション5では “How is the company protecting its key assets and value drivers?”として、短期長期の収益とコストに対するシナリオ、企業のブランドや人材といった長期の企業価値のドライバーになるアセットに対し、短期的にどのような影響が考えられるかの詳細、従業員へのサポートの状況、顧客へのサービスでどういった対応をしているかといいった情報を挙げている。

 

取締役へのメッセージ

FRCは冒頭の共同声明の中でも、企業の取締役に対し、事業や従業員、そのビジネスパートナーの利益を守るためのメッセージを送っている。

”取締役は、この状況を鑑み効率的であるよう工夫が必要ではあるが、引き続き重要な子会社やジョイントベンチャー、関連企業と、事業の将来のために重要な情報、とっくに財務の状況については継続的に共有できるよう考慮を求める・・・”、といったものだ。そしてFRCが用意したガイダンスは、今投資家が見たい情報として投資家から集めたものであり、ぜひこれを活用して、投資家に適切な情報開示を行うよう求めている。

 

とはいえ、この一覧表の特にセクション4やセクション5で挙げられている内容は、対応も開示も簡単ではないだろう。しかしここに挙げられていることは、事業を守り、引き続き企業活動を継続するために必要な事項ともいえる。

リスクとオポチュニティは常に背中合わせであり、このような状況を乗り越えることは、逆に競合と差別化し、企業価値を高めるチャンスにもなるかもしれない。しばらくは予測できない大変な日々が続くが、ぜひ日本企業にもしっかりとした取り組みと、投資家への説明力を発揮してほしい。