投函者(三井千絵)

 

ISSB設立までの準備委員会TRWG

IFRS財団は10月7日、11月の国際サステナビリティ基準審議会(以下、ISSB)設立に向けた準備状況をWebキャストで発表した。Webキャストでは、準備のためのワーキンググループであるTRWGのメンバー団体を紹介し、ISSBへの提言内容を解説した。TRWGはIFRS財団がチェアを担い、TCFD、IASB(国際会計基準評議会)、IOSCO(証券監督者国際機構)、CDSB(Climate Disclosure Standards board)、IPSASB(国際公会計基準)、WEF(World Economic Forum)、SASB、IIRCで構成され、すでに過去6ヶ月間、議論に取り組んできた。

TRWGの目的はあくまでも準備で、ISSBが今後考慮すべきことを提言する。それは現時点で次のようになっている。

  1. Enhanced prototype climate standard
  2. Enhanced prototype presentation standard
  3. Digitisation strategy
  4. Architecture of standards
  5. Due process characteristics
  6. Conceptual guidelines for standard-setting
  7. Connectivity between IASB & ISSB
  8. Other items to inform standard-setting agenda

Webinarではそれぞれのメンバー団体からひとりずつ、この8項目についてコンパクトな解説を行った。

 

議論のたたき台、プロトタイプ

先頭は、TCFDのCurtis Ravenel氏だ。TRWGは昨年12月にTRWGの一部のメンバー団体などが合同で発行したプロトタイプ(Prototype climate-related financial disclosure standard)というレポートをベースに、これをエンハンスする議論をしてきた。プロトタイプは、TCFDの開示要件をもとにガバナンス、戦略、リスクマネージメント、メトリクス&ターゲティングについて、ISSBがたたき台にできるような情報を提供するために作成されたが、この内容をさらに発展させている。気候変動のリスクとオポチュニティはビジネスモデルや戦略にインパクトをあたえ、マネジメントの決定に影響する。そして財務状況に影響を与え、つまり企業価値に影響を与える・・・といった形で”非財務報告”としての体系にまとめ直した感じだ。そしてCDSBのMardi McBrien氏に引き継いだ。

Mardiは、このプロトタイプの中でも必要性を指摘しているプレゼンテーション・スタンダードについて話をした。IAS1は財務諸表のプレゼンテーション・スタンダード(開示基準)として、全体的な要件が記載されている。ISSBもそれにあたるものが必要と、このプロトタイプ中で提言している。これは全てのサステナブルに関わる情報を掲載する時の基準だ。どのようなコンテンツがあって、どのような構造で、どこに、どう開示するかを記載する。続けてMardiはデジタル化の戦略についても解説した。1点目にISSB自体の将来のタクソノミについて、そして2点目にステークホルダーのデジタル化の経験について挙げ、これらを考慮する必要があると述べた。現在IASB自身もデジタル戦略(IFRSタクソノミ)を持っているので、それがステークホルダーとどのように繋がっているかをみて、どのようなテクノロジーが求められているかを考察するのがいいだろうと述べた。

 

概念フレームワークの必要性

3人目はSASBのJanine Gullotだ。Janieはスタンダードの体系について話した。真ん中で上下に仕切られた四角い図を示し、下半分はさらに左右に分割されている。左はサステナブルに関する様々なテーマ(例えば気候)と書き、右には各産業と書かれている。その上にアンブレラのように開示基準を載せた図だ。テーマごと、産業ごとに、もっとも財務的に重要なことを取り上げるというのはSASBのスタンダードと同じ構造と言える。この産業ごとの考慮はIOSCOや多くの投資家から要望が出ている点だとJanineは語った。Janineは続けてDue Processについても話した。ここでも現在のIFRS財団がもつ透明性、公平性、説明責任などに加え、他のメンバー団体がもつ、“産業ごと”のプロセスを追加するべき、と提言している。

次のIASBのSue Lloydは、基準設定の概念的なガイドラインについて話した。まずISSBにとって、最初に重要なのは概念フレームワークをもつことだ、と切り出した。プロトタイプでは、同じIFRSの概念フレームワークを元にした体系が示されている。今の段階ではIASBの概念フレームワークを適用することが、初期の適用などで役立つだろうと述べ、後半の段階で全体的な概念フレームワークに発展させることができる、としている。TRWGは、ISSBに、IFRSの概念フレームワークと同じような役割を担う概念フレームワークを持つことを提言する。これは将来にわたって、ISSBが基準を開発する時それをもとにコンシステントな概念で作成することを助ける、と述べている。TRWGはIFRSの概念フレームワークも適用できる部分もあるが、サステナビリティに関する固有の概念がないか、またIFRSの概念を調整する必要がないか特定する議論を行ってきた。とはいえIASBとISSBのコネクティビティは重要で無形資産のように両方にまたがる問題があり、2つのボードはどのように協力して投資家に役立つ開示を開発していけるかが重要だと説明した。

最後はWEFのOlivier Schwab氏がその他の情報について話した。TRWGにおけるWEFの役割は、事業のサステナビリティにおいてグローバル企業からみた開示されるべき重要な情報などのインプットだ。差し迫ったテーマとして、水資源や生物多様性、ワークフォース、土地利用などの問題がある、と述べた。

 

11月についに稼働

現在までTRWGは、このような取り組みをしてきたわけだが、11月には新たに結成されるISSBに引き継がれる。今のところグローバルを代表する複数の団体が、互いの違いを尊重し、さらに一貫性のある開示基準を作るために尽力をつくしているようだ。今や開示の議論の中で、この話題が出てこない日はないほど期待が集まっている。これが出来上がった日には、日本企業もこの基準をもとに開示をする(かもしれない)という意識で、しっかりキャッチアップしていく必要があるだろう。