(木村祐基)

企業会計審議会監査部会において、「監査報告書の透明化」(いわゆる長文監査報告書の導入)についての検討が進められている。会計監査プロセスの透明性を高め、監査報告書の内容を充実することは、投資家としても大変歓迎すべきことで、ぜひ前向きな議論をすすめてほしいと思う。

さて、監査部会の議論を傍聴していて、監査報告書の内容そのものについてではないが、あらためて大きな課題と感じたことがある。それは、会社法と金融商品取引法(金商法)による2つの財務諸表・2つの監査報告書が存在するという問題である。

監査部会の議論の中では、「透明化」の対象を、会社法監査と金商法監査の双方を対象にすべきかについて取り上げられていた。本来は当然両方の監査が対象になるべきものだと思うが、現実の課題として「会社法の監査報告書の提出時期が早いため、KAM(Key Audit Matters)の記載に係る企業との議論・調整の時間が十分に取れず、KAMの記載がボイラープレート化する懸念がある」との指摘があり、ある委員からは、まずは金商法監査のみから始めるのが良い、との意見も述べられていた。

しかし、同じ会社の同じ決算期の財務諸表について、一方の監査報告書は簡素な定型的なものであるのに、もう一方は詳細な「透明化」監査報告書が提出されているという状況は、会社法監査が十分な検証プロセスを経ていないもののように見えないだろうか。しかも、会社法による財務諸表と監査報告書は株主総会に報告されるものであり、株主からの質問があれば、詳細な説明をせざるをえないであろう。さらに、会社法で求められている監査役による監査報告が金商法では求められていないという問題もある。監査役は、「透明化」監査報告書についてどこまで関与すべきなのか。

そもそも、監査報告書の改善を進めるについて、「どちらの監査報告書を対象にするか」ということが議論になるということ自体が、海外の投資家には理解できない議論だろう。

会社法と金商法の財務諸表を一元化することに大きな問題があるとは考え難い。この機会に、あらためて財務諸表・監査報告書の一元化についての検討を進めるべきであろう。