投函者(三井千絵)

英国の開示規制当局であるFRCは、7月21日新型コロナウイルスによるパンデミック発生以来初めてとなる企業報告に関するレビューを発表した。

 

企業によるコロナ禍の影響の開示のレビュー

“CRR COVID-19 Thematic Review”(以下、レビュー)というタイトルで、企業は新型コロナウイルスの業績等に与えた影響について投資家が理解するために十分な情報を提供していると述べ、投資家にとってはより広範な開示が役に立っていた、といった評価を総論として述べていた。

このコロナ禍が始まってからFRCは企業開示について様々な取り組みをしてきた。3月26日には他の関連当局と共同声明を発表し、市場の流動性を損なわないための望ましい開示についてガイダンスを発表した。これに先立ち投資家の意見も集めた。今回のレビューで取り上げたのは、会計上の見積もりの仮定や、その不確実性、財務諸表とその他の開示の一貫性等で、今年日本でも金融庁やASBJが力を入れてきた点でもある。早くも評価レポートをまとめたスピードに、驚きを示した国内の開示関係者もあったが、12月決算企業が多い英国ではこのタイミングで期末の開示を行った企業がそもそも少ないのか、評価対象に選ばれたサンプル企業は17社で、うち13社が年次レポート、4社が中間レポートを用いている。銀行や保険会社は12月決算で、中間決算がこのレポートの公表後に開示されるので、ここには含まれていないと断っている。17社の内訳は、一番多いのが不動産業の5社、うち1社は中間決算のレポートを用いている。他には、通信と小売りが3社ずつ、消費財2社(うち1社は中間決算)、航空会社、投資法人、レストラン、建設業(中間決算)が1社ずつとなっている。

レビューは、全体のサマリー、スコープとサンプル、そして個々のキーファインディングという構成になっている。チェックした項目は、“Going Concern”、“Viability statement”、“現金、流動性やコベナンツの遵守”、“配当と資本政策”、“Strategic Report”、“代替業績指標”、“主要財務諸表”、“予想信用損失引当金”“重要な判断と見積もり”、“公正価値測定”、“非金融資産・その他の減損”、“確定給付年金”、“引当金及び不利な契約”。いずれも投資家にとっては特に今年は注目したい点といえる。

FRCは、COVID-19の影響は小売、旅行などソーシャルディスタンシングルールや、潜在的な消費者行動の変化によって大きな影響を受けている特定のセクターにとってより重要であると考え、それらの企業の開示が改善しているかどうかに注目をしたようだ。

 

実際の開示事例上に示されたコメント

続く個々のキーファインディングでは、上記の13のポイントの一つあるいは複数の点に関連した実際の開示資料の特定の箇所を切り出し、レビューに掲載してコメントを付与している。たとえばGoing concernとViability statementでは、Britvicという会社の中間決算から記載の一部を取り出し、吹き出しに評価を書き込んでいる。たとえば「開示はCovid-19に照らしてモデル化された、最も感応度の高いシナリオについて説明しています」とか、「開示は、流動性を改善するために導入された期末の対応策を説明しています」といったコメントが見られる。

事例だけでなく、いくつかのレポートからみられた傾向や重要なポイントについてもまとめられている。たとえばViability reportでは有益な開示に含まれるべき点として、「不確実性の影響を受けることが強調された領域と、不確実性を軽減する方法」「取締役会が流動性を改善するために取ることのできる緩和行動と、これらの緩和行動に関する進捗状況を特定」といった具合だ。

FRCの期待が見られる点もある。たとえば“配当と資本政策”で事例として選ばれたBTについては、吹き出しに「開示では配当は停止されると説明しています」と記されている。続けて「開示は、会社が配当金支払いを回復すると予想する時期を説明しています」そして「開示は配当停止の理由を説明しています」最後に「開示は、COVID-19に照らして資本政策がどのように修正されたかを説明しています」と細かくコメントが付されている。

Strategic Reportについての評価は何ページにも続く。「主要なリスクと不確実性」、「従業員、サプライヤー、顧客に関する情報」などがある。前者では別の会社の開示の一部分を引用し、それが良い理由として「開示は会社がどのようにリスクを管理するつもりであるか述べています」としている。後者では別の会社の開示を引用して「開示は、自宅で仕事ができない従業員の安全を確保するために会社が取った物理的な手順を説明しています」といったコメントが差し込まれている。

“予想信用損失引当金”“重要な判断と見積もり”についても事例とコメントだけでなくFRCが開示分析から得られたどのような説明が望ましいかといった解説も何ページも記載されている。そして、それらがどのように一貫した説明でなければならないかと言った点も強調している。ハイライトは減損だ。特にのれんの減損等について事例を指し「会社は、割引率が見積もりの不確実性の主要な発生要因と特定しています」といったコメントを行っている。

 

日本企業にとっても参考になるコメントや事例

今回だけではないがFRCのレポートの特徴は、どうすれば良いかについては特定の企業名を出さずに十分に解説したうえで、良い事例については具体的に良い点を指摘しながら実名で掲載している点だ。また挙げられているコメントをみると、これらの開示の重要点は日本企業にとってもほとんど変わらないように見える。

レビューは最後に次へのステップを記載している。「優れた開示の多くの例を見ましたが、改善の余地があります。今後の年次報告書や会計報告での開示を準備する際には、このレポート内の調査結果を検討することをお勧めします」としていくつかのチェックリストを示している。なかなか厳しい点もあるが、いずれも投資家の健全な評価のためには重要な指摘だ。今年は日本でも金融庁やASBJは再三、経営者による会計上の見積もりの仮定の開示や、リスク、MD&Aの開示の改善を求めてきた。一通り重要な開示を行うことができたと思う場合でも、是非このFRCのレポートを見てみることを勧めたい。更なる改善に向けた新たな気づきが見つかるかもしれない。