投函者(三井千絵)

 

サステナブルな開示に向けたEUの取り組み 

欧州委員会は4月21日、非財務開示指令(以下NFRD, Non Financial Reporting Directive)の既存の報告要件を修正した新しいコーポレート・サステナビリティ・レポーティング・ダイレクティブ(企業持続可能性報告指令、CSRD)の提案を採択した。この提案には、

  • 対象を拡大し、すべての大企業およびすべての上場企業(上場零細企業を除く)に適用される。
  • 報告書に記載される情報には監査(保証)が求められる
  • EUで義務付けるサステナビリティ・レポーティング・スタンダードに従ったより詳細な報告要件の導入
  • 報告書をタグ付け(XBRLフォーマット)し、EUキャピタル・マーケットユニオンアクションプランで計画されているヨーロッパ単一アクセスポイントへ提出する

ことが含まれている。

現在IFRS財団が、グローバルで比較可能なサステナビリティ・レポーティングの基準開発に向けた新しい審議会の立ち上げを議論しているところだが、並行してEU加盟国とそこで活動する企業に対しサステナブル・レポーティングの提出の義務化に向けた議論がスタートした。

この議論は上記の4つの点が特徴だ。まずEUで報告要件を定めること、次にほぼすべての上場企業が対象であること、そして監査・保証が求められること、最後にタグ付をするということだ。

 

High-Level Conference開催 

5月6日、欧州時間13時から、4時間にわたりこのCSRDについてのカンファレンスが欧州委員会のもとオンラインで開催された。質問はツイッターに特定のタグを入れて送信することで受け付けるという画期的な方法だった。最初のKeynote speechは欧州中央銀行総裁クリスティーヌ・ラガルド氏、続けて行われたパネルでは、欧州委員会のメンバーや、ESMA等関連諸機関、PRIのネイサン・ファビアン氏などが登壇し、このEUの新しいダイレクティブについて議論した。

ほとんどのパネリストはサステナビリティの開示の重要性を繰り返し説いたが、特徴的だったのは、何名かが“データの必要性”を強調したことだった。そしてEUで直接基準を定めることは、EUが何を考慮しているかが示せる点が良いという指摘や、実際多くのESG投資商品はEUで作られており、EUはESG大陸であるということが強調された。

特にデジタル化については、NFRDを導入した後も開示要件が国ごとにまちまちであったため投資家の使い勝手がよくないとか、比較可能性が高まらなかったといったことが背景にあってか、共通のフォーマットについて何度か話題にあがった。そして現在EUでは投資家側も開示の強化が求められているが、すべての投資対象の分析データをベンダーから購入しなければ成り立たないことに対する不満が高まっており、EUでデジタルプラットホームを提供し、データ入手のためのハードルを下げるということも同時に真剣に議論されている。その為EFRAG(European Financial Reporting Advisory Group、欧州における企業開示の諮問機関)では投資家が利用できるインディケーターについても議論されているようだ。

またここでは上場企業となっているが、今EUでは同時にサステナブル・コーポレートガバナンスという取り組みが行われており、そこではSME(Small and medium-sized enterprise, 中小企業)も含む義務化されたレポーティングの議論があるため、SMEのために相応の開示の基準の必要性も話題となった。

 

グローバルなサステナビリティレポーティングの議論への影響

この4時間にわたるカンファレンスの最後を締め括った欧州委員会のダイレクターは、CSRDはグリーンスワンに対する対処であり、今求められているのはパラダイムシフトであると語った。登録者は全世界から2300人を超えていたそうだ。

このEUの新基準の議論は、IFRS財団のサステナビリティレポーティングの基準策定や、日本の企業開示に、今後どのように影響を及ぼすだろうか。EUは自らこそがこれまでもESG投資の取り組みでリーダーシップをとってきており、IFRS財団の議論とも調和させていくというスタンスだ。IFRS財団側でもワーキンググループの活動が始まる。これらの動きについて日本からも注目していく必要があるだろう。