投函者(三井千絵)

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株主総会は、会社と株主の対話の場

株主総会シーズンが終わって、1ヶ月たち、少し振り返る余裕ができた。

今年はコロナ禍によるロックダウン後4回目の株主総会シーズンだ。3年前の2020年には、あわててオンライン対応を行った会社もあった。その中の一部は今年、オンライン対応をやめてしまった。6月14日に開催されたトヨタの株主総会は、オンラインでは参加できず会場のみだった。

 

 さまざまなオンライン対応

株主総会のオンライン化はコロナ禍とは関係なく検討されていた。オンラインからの参加も可能とするハイブリッド化に加えて、コロナ禍直前に産業競争力強化法に基づき、場所の定めのない完全オンラインの株主総会が、制度として創設されていた。これが施行された年がたまたまコロナ禍と重なったこともあり、多くの企業が定款変更し、完全オンラインの株主総会も開催できるよう準備した。しかし完全オンラインまで取り組む企業はまだほとんどない。完全オンラインの場合は、質問、投票、動議提出など全ての株主の行為がオンラインで実現できなければならない。これに対しハイブリッドでは、3つぐらいのグレードが見られる。まず“完全ハイブリッド”と言うか、オンライン参加も現地参加と同じことが全てできるような機能を備えたシステムを導入しているケース。次にウェビナーのようにオンライン参加者は視聴のみだが質問はできるケース、最後にまるでTVでニュースを観ているようにライブ映像のみを提供しているケースだ。

いずれのケースでも、最近は質問を先に受け付ける会社が出てきた。それからこの株主総会をアーカイブし公開するケースもある。アーカイブには2種類あって会社側の説明だけを共有するケース、株主質問についても株主が話をしている場面を丁寧に切り取り、会社側の回答はビデオに含めるケースがある。それぞれ「できるだけ株主に理解して貰いたい」、と考えるか「なるべく小さくすませたい」と考えるのか、会社側の姿勢の違いが現れると言える。

 

Z ホールディングスのケース

Zホールディングスはコロナの前から、完全ハイブリッドの株主総会を開いている。株主総会のハイライトといえる株主質問では、先に寄せられた質問、インターネットからの質問、そして最後に会場質問の順で受け付けた。事前質問やインターネット質問からは、比較的汎用的な株価に関することや株主還元について、また役員のジェンダー・ダイバーシティについての質問が出ていた。これに対し会場質問は事業(サービス)に固有の質問、たとえば「出前館を今後どうするのか」とか「チャットGPTや生成AIで何か取り組まないのか」といった質問が多く出ていた。どの会社にも言えることだが、平日の日中会場まで行く株主には、その企業の事業のファンで顧客である割合が高いようだ。最後の方で、高齢の男性の声で「最近闇バイトなどの事件が起きているが、テクノロジーの力で若者や高齢者を守る取り組みはできないのか」という質問というか意見が出た。「(そういったことで)リーダーシップをとって欲しい」と質問者は訴えた。

 

ライブ視聴のみの株主総会

ソニーとゆうちょ銀行は同時開催だった。どちらもライブ送信型だったので2台のデバイスで並べて両方”参加”することができた。これもオンライン株主総会のメリットだ。ソニーは視聴だけではなくコメントを送ることもできるプラットホームだった。もう4回目だが、毎回その場で議決権行使結果の数字を掲載するのが特徴だ。ゆうちょ銀はYouTubeで完全に視聴だけだが、それでも株主とのインタラクティブなやりとりを見て理解を深めることはできる。ソニーは、ホンダとのモビリティの取り組みの状況やチャットGTPをどう思っているかといった質問があった。興味深いのは今年入社したばかりと言う株主(?)から、社外取りの役割について考えを聞きたいという質問があったことだ。取締役会は株主質問として丁寧に答えていた。

ゆうちょ銀行は同時に始まったソニーの総会が終わった後もずっと続いた。経営陣は最初から「本日の質問に対する答えは後にHPで公開する」と宣言していた。候補者が天下りだという理由で取締役専任議案に修正動議を出す株主もいた。会場で動議を出しても通ることはないが、反対の意思表示はできる。株主質問では、やはりサービスに関することもいくつか聞かれた。ATMの現金入金が有料化したことや支店の統廃合について反対の立場と思われる株主からの質問に、経営陣はなぜ今そうしてコスト削減しなければならないかを一生懸命説明していた。

ゆうちょ銀行は現在、流通株式数がプライム上場に留まる条件に達しておらず、今年の2月に株式の売り出しを発表したが、目的を達することができなかった。株主の一人がこの点について質問した。財務担当取締役は、直前にシリコンバレー銀行の問題があって株価が揺らぎ、わずか0.5%達さなかったと説明、再度タイミングをみて実施するので心配しないで欲しいと力説した。最後の質問者はマイナンバーカードのトラブルが聞かれるがデジタル化はどうなっているのかと質問、これに対し経営陣はランサムウエアの攻撃リスクについて話しだし、今の所頑張って対応していて被害はない、と回答した。質問者の質問とは合っていないようだが、おそらくその部分が経営者側の関心事項だったのだろう。

 

ソフトバンクグループ  – – – 孫さんのプレゼン

ソフトバンクグループも、完全ハイブリッドのプラットホームをコロナ前から導入している。動議も拍手も送ることができる。用意したビデオによる事業報告が終わると、毎年恒例の孫さんによるプレゼンが始まった。

「このままで経営者として終わるのかと泣いて、自分はやはりクリエーターになりたかったんだと気がつき、今は毎日発明をしている。この1年で1000件ぐらい発明した」と話しはじめた。複数の特許事務所を使うほどで、「大赤字を出して恥ずかしくて引っ込んでるのだろう」と言われてるかもしれないが、忙しくやっている、そろそろ反転だ、と孫さんらしく語った。今「人類とは何か。AIでその状況が変わる」と考えており、この1年ChatGPTを話し相手に夜な夜な発明をしているのだという。「将来は天災もなく、きつい労働もしなくていい社会がくる。その時の中核企業がARMだ!」と息巻いた。続けていかにARMに投資をしてきたことが正しかったかを力説した。投資をし始めた時は「お金をドブにすてた」と言われたが、こんなに大きくなった・・・話終わった時は(事業報告をいれて)1時間経過していた。

続いて株主質問となった。やはり事前質問から答え、続けて会場質問だ。「女性役員が少ない」と言う質問には「男も女も関係ない」と答え、「株価低迷、ファンド成績低迷責任をどう考えるか?」と言う質問には「2兆、3兆の上下は誤差のうち」と切り返した。しかし「Weworkの状況説明を」と言う質問には「これは全部自分の責任だ。何人にも投資を止められたのに」と潔く陳謝した。「(以前目指すと言っていた)2030年時価総額国内トップ10の目標達成は難しいのでは」という問いには「今は目先のことを考えていない、人類の未来を考えている」と答えた。

ソフトバンクではこの興味深いやりとりを(株主のプライバシーのため)、株主が質問する部分を切り取り質問の要旨を文字表示する形に編集して、全てHPで公開している。しかしこのやり取りをライブで見たいのでソフトバンクG株は手放し難い。同じように考える株主も少なくないのではないだろうか。この場合、オンライン株主総会は、新たな株主コミュニケーションの重要なプラットフォームとなった、といえるだろう。

(後編に続く)