投函者(三井千絵)

AGM2

オンラインでも、経営者の姿勢を知ることはできる

前編に続き、今年の株主総会について幾つか取り上げる。

 

グローバル企業と地元の株主

武田薬品工業(以下、武田)もオンラインには動画の配信のみで、質問は事前に提出する方式だ。大阪の帝国ホテルで開催された会場には、映像から推測すると相当の参加者があったようだ。(武田の株主総会はコロナ前には1000人を超える参加者があった)質問者が発する関西の発音に、これだけ事業が国際化しても、地元の株主の存在を感じる。最初に退任する岩崎真人代表取締役日本管掌からの挨拶があった。「以前は日本にフォーカスすればいいと考えていた。しかし少子高齢化などもあり、今はグローバル化が必須になった」このフレーズは、今年の総会を通して何度が出てくるキーワードとなった。

まずはウェーバー社長のプレゼンがあり、その後株主質問の時間となった。事前質問が9件あったが全てウェーバー社長のプレゼン中に回答したと説明があり、逆に9件しか質問がなかったのかと意外に感じた。そしてすぐ会場で参加している株主からの質問となった。

最初の株主は、ウェーバー社長に「武田は日本の企業で、日本人の株主が多い。日本語でコンニチワでもなんでもいい、メッセージを」と要求した。ウェーバー社長は10年もいて日本語でプレゼンができず申し訳ないと言い出し、武田は確かに日本の会社だが、同時にグローバルの会社だと語った。そもそも市場規模も、日本が4%しかなく96%は海外なのだそうだ。そして驚くことに90%の職員は海外だそうだ。株主は満足せず「日本に関心がないとみた」と叫んだ。係員が静止したようだが、その部分も翻訳されたようでウェーバー社長も負けずに「日本を愛しています!」と叫び返した。

次の質問は、脱炭素対策をしていると思うがたとえば中国製の太陽パネルなどは使ってないか、その場合ウイグルで作られたものが多いと思うが人権問題などどう考えているか、という質問だった。ウェーバー社長は、まずネットゼロについてはクレジットを買っています、と説明し、またこれに限らずサプライヤーについてはよく検討している、どこの国に関わらず人権などの問題がないかを注意している、と述べた。

次は「昔は負債なく事業ができていたのに、ウェーバー社長がきてから有利子負債が増えた。負債はいくらでいつ返すのか」という質問が出た。社長は、負債は悪いことではない、それによってこんな投資ができるのだと説明した。次は「売り上げの前年度比が日本だけ落ちているが、現在の株価をどう思っているか」と言う質問。社長は日本の製薬市場が難しいことを告白。毎年薬価の引き下げがあって、政府も高齢化で苦しんでいると思うが、世界で最も難しい市場だ、と述べた。

次に「日本人の従業員が10%と聞いたが他国と賃金差はあるのか、日本では21世紀になってほとんど賃金が上がっていない、それをどう思うか」という、いま最も注目されている質問が出た。回答は今80カ国で事業を展開しているが、報酬体系は国によって違う、それは各国で競争をする必要があるからだ、と回答した。そして日本の問題は、経済が伸びていないから、と述べた。非常に腹落ちする回答だった。別の株主が「グローバル企業だというなら、いつまでも”武田薬品工業”でいいのか、英語風の名前にしてはどうか」と聞いたが、社長はキッパリと「タケダという名前はすでにグローバルブランド、世界中に浸透している」と答えた。

 

映像のみライブ配信だが、公開する姿勢

ANAホールディングス(以下、ANA)もオンライン参加には、ビデオの映像配信だけだ。現地には多くの株主が参加していたようで、「第2会場の方・・」という呼びかけが聞こえ、つまり少なくとも会場は1つでは足りなかったことを想像させた。株主総会のビデオを後に公開する前提で、開会時に注意事項を説明していた。「質問される株主様の様子を伝えるべきと考え、映像を会場内モニターで共有します。しかしこれはオンラインへは共有しません。また後でHP等で共有されたくない方は質問時にその旨を申し出てください・・・」といった具合だ。

そして最初の質問は「配当はいつ頃から可能か」であった。今年ライバルのJALは復配している。回答は「早くそうしたいが、未だ利益がマイナスであり、財務の基盤回復を急ぐ」であった。次の質問は「三菱スペースジェット解約後の代替え機は?」ANAは15機購入予定だったが、発注の時と事業環境が変わり、この15機がなくても影響がない、という答えだった。その次の質問は、コロナが終わってインバウンドは戻っているようだが、アウトバウンドは回復しない。”需要回復の起爆剤に”日本どこでも7000円のような格安航空券の海外版を作ってはどうか、という意見だった。回答に女性の執行役員が立ち上がった。丁寧に質問へのお礼を述べ、「アウトバウンドが回復していないのはその通り。グローバルな経済発展の為には双方向でないとだめ。ANAでもハワイ路線で利用しやすい価格を設定、家族で旅行にいけるよう子供料金の設定もした、今後も努力したい」と淀みなく答えた。この後、似たような航空券に関することや、航空需要についての質問が続いた。たとえば「A380を3機持っているはずっだが、採算はとれているのか」、「アウトバウンドの話が出たが、株主に無料のチケットを配ったらどうか」、「無配なら無配で仕方ないが、空いている席を株主に配っては」といった具合だ。

一方、ある株主は声を震わせて「平子副会長の選任に反対したい。彼は社長の時、一度も配当をしなかった。それなのに今退任にあたり副会長になり、事業報告書をみると担当もないではないか」と詰問した。会場からも拍手が出た。続けて、社長の報酬が2億5千万から3億5千万に値上げされている、これはどういうことだ、といった厳しい質問がでた。質問者は「CAは80%しか戻っていない。こんなこと人として許されない」、と声を張り上げ「柴田社長に退任動議を出す」というとまた会場から拍手が起きた。議長(本人は)業績連動報酬は支給していないこと、役員は役職に応じた減額をしてきたこと、2000人近いCAを職場に戻したが、出向先との期限などもありまだ全員ではない、と静かにと答えた。

次の株主は、人手不足のなかで整備の人など足りていないのでは、これについて対策をしているか、と質問、会社側は問題認識をしていると回答した。また買収した日本貨物交通について厳しい質問をする株主があった。これはコロナの間に貨物が増えたから買ったのかもしれないが、この会社自体は債務超過だ、いくらで買ったのか、すると議長は、価格はまだ議論中なので言えない、ANAは貨物をもっておらず今後も貨物は重要と答えた。

 

事業の撤収を赤裸々に語る

三菱重工もオンライン参加者はライブ配信を見るだけだった。しかし驚いたのは、三菱スペースジェットの開発を辞めた経緯の説明に長時間割いたことだった。2020年の秋にはもう取り組みを辞めていたと思ったが、最終的な経営的決断は今年の2月だったそうだ。そしてこの株主総会で2002年まで遡って話すことになった背景は、「今後も開発を続けて欲しい」という株主の声が少なからずあったからだそうだ。

その解説によると、2002年に経済産業省が30席から50席の環境適応型小型ジェット開発のプロジェクトを立ち上げ、開発業者を募集、三菱重工がそれに選ばれた。しかし2005年までに「50席程度では収益性が望めない」ということで計画は変更され、「50席から70席」の飛行機を作ることになった。2013年にやっと初号機をお披露目した。「この間、事前に規制当局との調整不足、仕様変更(複合材から金属に変更)などで苦労した」と、泉澤社長は語った。2015年に初飛行を行い、米国で販売を考えていたため、米国で「型式証明」の取得の活動を始めたところ、米国の最新の仕様に適っていないことがわかったそうだ。あわてて外国人エキスパートなどを導入し、試験飛行時間確保のために米国で飛行試験センターも開設したが、初号機の引き渡しは2017年から20年に延期せざるを得なかったようだ。

2020年に、飛行時間は3900時間を超え、型式証明は70%ほど提出したが、残りを取るためにはさらに数年かかる。そこで2020年に立ち止まって、事業性があるのか見極めることにしたそうだ。その結果、さらに5年かかって1000億かけて、北米で何台売れるのかを考え断念することを決意、2023年2月正式にこの事業は中止と決めた、泉澤社長は淡々とした声で「認証プロセスに対し知見も経験もなかった」と語った。

三菱重工はもともと1990年代に、ビジネスジェットを開発していたので、その経験が生かせると思ったそうだ。しかし航空機の電子制御化が進み、安全性要件が想定したより高まっていた、ということだ。開発プロセスでも、初飛行を優先して開発の手戻りを多く発生させたと正直に語った。サプライヤーとのコミュニケーションも不足していた、と述べコストを抑えようと汎用品を導入したら、それらが最新の安全基準を満たさなかったという目にもあったそうだ。ここまで赤裸々に断念したプロジェクトについて、株主総会という場で語ることに驚きを感じた。

泉澤社長は、それでも今回最新のレギュレーションなど多くの経験を積むことができた、と前向きに話し、これをもって我が国の航空機産業の発展に貢献したいと述べた。「株主のみなさまからも、ここで諦めるな、次こそ頑張れ、という励ましの声をもらっているが現在次の完成機の計画はない」と結んだ。

 

オンライン株主総会への期待

今年株主総会でオンライン対応を行った多くの企業はいまだ視聴のみで、完全な株主出席機能やせめて総会中の質問を可能とするプラットホームの導入はほとんど増えていないようだ。しかし少なくない数の企業で、会社の姿勢や株主との対話を、少しでも透明性高く伝えようとする姿勢は感じることができた。さらにアーカイブを提供してくれる企業もある。これは名義株主でない為株主総会に出席することができない機関投資家も見ることができる。義務付けられているわけでもないのに、株主の質問シーンを丁寧にカットし、会社側の説明は誰でも閲覧できるようにしているケースもある。

前編・後編であわせて7社の事例をあげたが、他にもJALは23日の株主総会の日の夕方にはHPでビデオを公開、IRメールを送付した。住友商事も、丁寧に株主が質問しているところをカットして、質問を箇条書きにした図に置き換えて回答はそのまま流している。三菱ケミカルは昨年までは株主質問も無修正で提供しており株主総会の様子が非常に良くわかったが、今年は残念ながらビデオは事業報告と、ギルソン社長のプレゼンだけで、別途質疑応答はメモが掲載されていた。

いずれにせよ、オンライン株主総会をみて総じて思うことは、個人を中心とした株主の質問が真剣なものが多いことだ。オンライン化し多くの人が閲覧できるようになったことも影響しているだろうか。そして有難いのは、それに応える会社側の姿勢が手に取るようにわかることだ。株主の理解を得るため、経営上の困難や業績の問題、リスクについても真摯に語る姿も見られた。オンライン株主総会は企業にとって、いまや株主や社会との対話のための新しいプラットフォームとなったと言えるのではないだろうか。引き続き多くの企業が、株主総会のオンライン化に対応していくことが望まれる。