投函者(三井千絵)

カンファレンスは自らの主張を発表する場であり、共感を得たり顧客候補と出会う場(写真はイメージです)

カンファレンスは自らの主張を示し、共感を得たり顧客候補と出会う場(写真はイメージです)

資産運用立国実現プランのもと、アセットオーナー・プリンシプルと日本版EMPが導入され、新興運用会社の活躍が期待されます。しかし新興運用会社が確実に成長するためには、よりよい新興運用会社プログラム(EMP)が必要です。この連載では海外のEMPを少しづつ紹介していきたいと思います。

 

ブティック運用会社がもつEMP

1971 年に設立された ユニジェスチョンは、ジュネーブに本社を置きグローバルに展開するブティック資産運用会社で、同時に独自の新興運用業者促進プログラム(EMP)を持って新興運用者をサポートしている。

定量的なアプローチに基づいたアクティブ運用を、ESGの要素を組み入れた成長重視の戦略で実施している。顧客は年金基金や財団、ファミリーオフィスで、株式、プライベートエクイティ、債券オルタナティブ投資や不動産にも投資を行っているが、このオルタナティブ投資の分野で、ユニジェスチョンは新興運用者をサポートしている。運用機会を与えるという意味で、ユニジェスチョン自体が運用を行っていることから、形としては外部マネージャーあるいはファンズ・オブ・ファンズのような形になるのだろう。オルタナティブ投資の部門においては、日本の運用会社でも同様の取り組みはあるが、特徴は彼らのプロモートもしている点だ。政府がEMPを政策の一つとして取り組むようになった今、ユニジェスチョンのケースを取り上げてみたい。

 

先輩運用会社としての”若手”育成

ユニジェスチョンがサポートするのは、収益を産む可能性があるのに規模が小さくリソースが得られない、そのためにアセットオーナーへ直接アクセスすることがかわなないような小型のアセットマネジャーだ。ユニジェスチョンのホームページで公開されている説明によると、アセットマネージャーを選ぶ時、特にニッチあるいは専門的な戦略をもっているかどうかに重点を置いている。例えばニッチな地域や、セクター固有の戦略を持っている、または革新的な投資戦略を持っているといった点をみるそうだ。

運用する資本以外にも必要に応じて支援をしている。たとえばインフラやバックオフィス業務、コンプライアンスプロセスの構築だ。これは製造業の事業会社が、自社製品に必要なパーツなどを優れた技術力で提供する新興企業を買収するのではなく、自らの決定で取り組みたいその企業で働く人々を大事にするために、製品を購入し、かつ事業がうまくいくようオペレーション支援する・・・といったモデルと例えることができるかもしれない。

ユニジェスチョンの場合は他にも、彼らがアセットオーナーに直接アクセスできるように支援したり、場合によっては投資戦略そのものの改良に対しアドバイスをすることもあるそうだ。それはこのホームおページでも次のように紹介されている。「プログラムに参加するマネージャーは、運用および戦略に関する洞察を活用できます」逆に言えば、優秀な若手を雇用せず自分で事業をやらせながら、なお自分の中で育てるということで、ユニジェスチョン側にもメリットがあるのだろう。

しかしこのプログラムに選ばれるためには厳しいデューデリもある。運用能力やチームの構成、そして長期的な実現可能性が評価される。特に長期にわたってユニジェスチョン自体の目指すもの、投資の方向と一致する必要がある。(ユニジェスチョン自体が運用会社なのでそれは当然といえるかもしれないが)

 

優れた新興マネージャーをプロモート

またユニジェスチョンは、4年前から新興マネージャーのためのカンファレンスを開催している。そしてこのカンファレンスで、今年の最優秀新興マネージャーの表彰を行っている。

ユニジェスチョンは10月23日、第4回目になる今年の新興マネージャーのカンファレンスで、年間優秀賞を米国部門と欧州部門として2社に与えたことをプレスリリースした。このアワードの審査員は、新興マネージャーの分野で活躍するインターミディエイト(エージェントなど)とアセットオーナーによって構成されている。米国部門で受賞したのは、テクノロジーに注目した投資を、欧州部門で受賞したのは気候ソリューションに注目しているのは地域性が出ている。

9月にパリで開催された第4回ユニジェスチョン新興マネージャー会議で授賞式を行なった。前年の2023年にはこのカンファレンスの目的を伝える短いYouTubeを作成した。新興マネージャーの可能性、強み、どうやって違いを見せるかなどを語っている。ユニジェスチョンはアワードについて「我々の調査でも、新興ファンドは、困難な市場環境でも既存のファンドよりも優れたパフォーマンスを発揮しながら、より多くの利益をもたらし、より少ない損失リスクを回避できることがわかった。過去の投資に縛られていないため柔軟性があり、成功への強い欲求を持っている」と上記のプレスリリースで話している。

 

これらの新興マネージャーはアワードを通して市場に知られることになり、それを次のステップに繋げることができるだろう。このプロモート効果を目指し、ユニジェスチョンはさらにクオリティの高い新興マネージャーを引き寄せることができる。このようなEMPは新興マネージャー側だけではなく、既存のアセットマネージャーそしてその先のアセットオーナーにとっても、大きなメリットとなっている、といえるだろう。