投函者(三井千絵)

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MITのあるボストン、マサチューセッツは独立13州のひとつ

資産運用立国実現プランのもと、アセットオーナー・プリンシプルと日本版EMPが導入され、新興運用会社の活躍が期待されます。しかし新興運用会社が確実に成長するためには、よりよい新興運用会社プログラム(EMP)が必要です。この連載では海外のEMPを少しづつ紹介していきたいと思います。

 

大学基金がもつEMP

米国ボストンにあるマサチューセッツ工科大学(MIT)では”A site dedicated to helping emerging manager stockpickers”という新興運用業者を支援するサイトを立ち上げている。

これはMIT Investment Management Company (MITIMCo)が運営するサイトだ。MITIMは、MIT基金の運用を担っている。一部の運用は過去10年で年間8.6%と高収益で、高収益の源泉は世界中の優れた外部マネージャーとの長期的なパートナーシップであると、他のページでも説明している。そしてこの新興運用会社サポートサイトでは、「世界最高のマネージャーの、最初のパートナーになることを目指している」と述べている。

ちなみにMITは最近、2025年の秋より年収20万ドル以下の学生の授業料を無料にする、と発表した。このような制度はこれまでも存在したが、その適用対象を大幅に拡大した。この費用はMIT基金の運用収益から支出されている。

MITIMCoはこのサポートサイトで、新興マネージャーに役立つリソースを作成したり、集めたりすることを目指している。そして「我々は風変わりで、型破りな新興マネージャーを支援することに関心がある」とアピールしている。彼らがそんな新興マネージャーを支援したい理由は、「我々は経験から、ハングリー精神、粘り強さ、投資の才覚を備えた人物であれば、気骨のある新興運用業者となれることを知っている。ほとんど実績がなくても、運用資産500万ドルでスタートし、長期間にわたって規模を拡大しながら優れた成果を上げてきた人々を数多くみてきた」からだという。このサイトではそういった人たちが低予算で会社を運営するための情報を提供したいと述べている。そしてMITIMCo自体は、プライベートエクイティ、不動産、ヘッジファンド、ベンチャーキャピタルとあらゆるタイプの投資家と協力しているが、このページについては、一、二人のスタッフで始めている株式を選択して投資するタイプのアセットマネージャーについてサポートしようとしている。

 

体験の共有

このサイトが提供する”サポート”のひとつは「体験の共有」だ。

たとえば、ファンド設立から5年を迎えたRobert Vinall氏が綴った「Independent Asset Manager」になることにあたっての考え、というエッセイを読むことができる。これは自分自身の経験から、次に独立アセットマネージャーを目指す人々へのアドバイスだ。運用の設計をどう考えるべきか、コストに対する考え、マーケティングに惑わされるな、間違ったタイプのアセットオーナーには”ノー”と言おう、といったことが語られている。また、成功した独立系運用者に対し、サイト運用者であるJoel Cohen氏からインタビューをしてまとめた記事も掲載されている。ファンド立ち上げをサポートするサービスの一覧も、米国だけではなくグローバルにリスト化されている。これらのサービスはCohen氏が「ツイッター(現・X)で調べた」と記されているところが少し微笑ましい。

ブログも掲載されている。その中でCohen氏は次のように語っている「株式選択ファンドを立ち上げ運用するのにあたり、多くの人は伝統的な方法だけが唯一の方法だと考えているが、非伝統的な方法は通常大々的な宣伝もなく、友人や家族、数人のメンターからかき集めた少額の資金で立ち上げる。我々はその道を照らすために、型破りな道を進んで成功した多くの人々の成功事例を共有し、それが実現可能であることを人々に知ってもらいたい」。

そして、ごくわずかなAUMからスタートし、口コミによる紹介を通じて辛抱強く成長したMITIMCoのパートナーを次々と紹介している。たとえば大学時代にファンドをたちあげたものや、アナリストをおかず、マーケティングもいっさい行わず単独で活動するポートフォリオマネージャーなどの成功事例を読むことができる。

 ”型破りな道”を目指す運用者、それがMITMICoが、新興・独立マネージャーに期待する理由のようだ。

 

新興運用会社ラウンドテーブル

 MITIMcoは2025年の春に、新興運用会社のラウンドテーブルを開催するそうで、参加者を募集している。どうやら毎年開催しているようで、2024年の春に開催されたラウンドテーブルの情報から、どのようなイベントか推測できる。

 対象はこれからファンドを立ち上げる”ロングオンリー”の株式投資家だ。昨年は参加者を6名程度に限定していたようで、参加条件は「上場企業に投資をしており、”must be long only or very long biased (95%+ net exposure)”」と強調している。(心が熱くなりそうだ)

 過去1年以内に立ち上げたか、これから4ヶ月以内に開始する計画があること、そして条件はさらに限定されていて「手数料を生み出す資産運用ビジネスの構築ではなく、長期のリスク調整後の複利収益を通じて収益を上げたいと考えていること」、「グループ内で多様性を実現したいため、非伝統的なバックグラウンドをもつ運用者も大歓迎」と記されている。

 どんなディスカッションになるのか、ぜひ覗いてみたいという気持ちになる。ネットであるイベントでこのJoel Cohen氏がインタビューを受けているビデオが見つかった。氏は司会の質問に対し、MITIMCoが新興・独立運用者に何を求めているかについて応えている。そこでは、MITはなんでも取り入れているわけではなく、ボトムアップ型のバリュー投資の基盤がある、色々な投資家と協力しているけど、本当に傾倒しているのは、1、2名で長期にわたって有料企業を保有しているような株式選択型のファームでそれがMITの競争優位性だ、と述べている。

 

これが本当にEMPが重視されてきた原点なのだろう。日本政府が日本版EMPを勧めてきたのも、このようなダイナミズムを取り入れたかったからだろう。競争率は非常に高そうではあるが、多様性を求めるMITIMcoのラウンドテーブルに、近い将来日本株運用を得意とする新興運用会社が座っていたら、と期待してやまない。