投函者(三井千絵)

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学校法人の資産運用もより収益が必要に

2月11日、JPX、日証協はICMAと共催で、第15回日本証券サミットをロンドンで開催した。そこで金融庁から登壇した三好金融国際審議官は日本のアセットオーナープリンシプル(以下、AOP)への署名者が337団体になったことを語った。この数の多さに驚いた地元投資家から、筆者にも確認のメッセンジャーが届いた。もちろん、アセットオーナーは母数が大きいというのがある。企業年金の規約型も含めれば、潜在的には1万以上の対象者がいる。とはいえ短期間に署名者が337にも達したのは、やはり驚くべきことといえるだろう。

 

AOP受け入れ団体337中31は学校法人

内閣官房のHPでは、受け入れを表明した団体を見ることができる。この中でひとつの注目すべき点は大学ファンドや学校法人がサインを始めていることだ。2025年11月現在で31団体が受け入れを表明している。大型の公的基金や企業年金は話題になるが、大学基金らがすでに受け入れ団体の1割を占めている。

もちろん海外では、大学基金といえば、アメリカのハーバード大学、イェール大学、スタンフォード大学などが有名で、いずれも数兆円規模のファンドを運用しており、パワフルなアセットオーナーとして知られている。以前このブログで紹介したMITでは、運用利回りから家計が約3000万円以下の学生に授業料をサポートしている。日本の学校法人では、これほど大きなファンドを運用しているケースはみられない。長く学校法人は資産運用どころか設備投資の資金調達方法も限られてきた。ごく一部の大学でいわゆるエンダウメントファンドが生まれたのは2000年以降のことだ。しかし少子化のなかでより魅力的な研究・教育を自由度高く実施していくための収益が必要となり、徐々に余剰資金の運用に力をいれるようになった。

資産運用立国実現プランのもと、内閣官房においてAOPが策定されると、大学基金もその受け入れを行うべきか議論がはじまった。政府は2022年から10兆円ファンドを運用しており、その運用益から国際卓越研究大学と認定された大学への助成をはじめた。AOPの受け入れは認定の条件の一つとなった。原則を受け入れ、ガバナンスを受け入れることで、しっかりとした運用体制や運用方針を持つことを求めたのだ。

 

私立大学VS国立大学

”国際卓越大学になりたければ、AOPの受け入れをしなければならない”・・・というのは確かに良いインセンティブだ。政府としてもしっかり運用ができるところに資金を投入しなければならないだろう。しかしAOP受け入れ表明した大学名をみていくと、半分以上は私立大学であり、受け入れのモチベーションはそれだけではないようだ。今回のことがはじまる以前から、原則が求めるような取り組みは行っていた基金もあった。たとえば上智大学は2015年にPRIにサインをし、2021年にすでにスチュワードシップコードを受け入れており、自らの議決権行使基準も策定している。もともと制度の違いにより、私立大学のほうがいざ運用をしようとすれば規模の大きい運用ができる。国立大学では運営費交付金などの余剰金と寄付金だけが運用可能だが、私立大学では、学費など収入のタイプによって制限がなく内部留保を運用することができたからだ。そのような大学にとっては「AOPが求めることはアセットオーナーとして当然のことばかり」で、受け入れない理由はない、という。

(※国際卓越研究大学認定の応募は私立大学も可能だが、その条件は国立大学のほうが有利と言われている)

 

大学基金の運用目的

AOPを受け入れた大学はその表明のページを内閣官房のサイトにリンクをする。そこから見ていくと各校の考えを見比べることができる。原則1の運用目的については、大学のサステナブルな運営、奨学金、購買力の維持などがあげられているが、財務リターンだけではなくESGのコンテキストで社会へのリターンを上げるケースもある。立命館大学は事業会社でいう中計のようなものを持ち、その事業計画を勘案した運用目標を定めるとしている。

 私立大学の場合は日本私立大学連盟 私立大学ガバナンス・コードを受け入れているケースがある。昭和女子大学ではその遵守状況報告を先に掲げており、AOPの受け入れ説明でも体制などガバナンス面の説明がほとんどを占める。実際受け入れ表明にはその運用体制についてのみ記載しているケースは多いが、一部の基金はポートフォリオノアロケーションや目標リターンについて触れている。東北大学は詳細な運用報告書を公開している。京都大学も同様だ。3%ぐらいを目指しているところもあれば、5%を目指し半分がオルタナで運用しているという基金もみられた。

 

原則5の対応

ある基金が他はともかく原則5の対応をどうしたら良いか困っている、という話をしてくれた。よく聞くと複数の基金が悩んだようだった。原則5は、スチュワードシップ活動の実施を求めている。前述のように金融庁のスチュワードシップコードにサインしているケースもあるが、運用がSDGsの実現を目指している、ということをあげている基金も複数みられた。企業年金連合会加盟基金では、企業年金連合会が設置したスチュワードシップ連絡協議会に加盟し活動していることを記載したところがあったそうだ。10年まえにスチュワードシップコードが導入されたとき筆者らはスチュワードシップ研究会の設立に参画し、一部の運用会社はやはりそれをスチュワードシップ受け入れ表明に記載していた。今大学基金にはそのような業会団体がない。その分この原則5の回答には、各校工夫をしているようだ。

 

学校法人は、実際は事業会社と変わらず”経営”をしている。ガバナンスも、資金運用も重要だ。その使途も、奨学金であったり、当該大学初のベンチャーなどへの資金提供もあるだろう。教育機関・研究機関であることからも、ある意味ESG運用にせよ、インパクト投資にせよ、新たな取り組みに積極的になるインセンティブも強いかもしれない。これらの資産運用が今後より活発に行われていくことが、日本の資産運用全体を活性化するドライバーとなるのではないか、AOP受け入れ状況をみて、いまそんな期待を抱いている。