投函者(三井千絵)
コーポレートガバナンス・コード改定の議論が進むが、どんな業種であれガバナンスの原点は、やはり公明正大な会計監査を経た財務報告だ。しかし時折、大規模な不正会計事件が発覚し、突然株価に影響を与える事件が絶えない。様々な要因分析や対処が必要だが、その中で当該企業、あるいは投資家が、独立監査人の重要性をどのように捉えてきたかについても、考えてみることができたらと思う。
監査は、問題が起きれば「監査人は何をしていたのだ」と見られがちだが、その手続きにリソースは足りていたのか、はあまり話題にならない。監査費用は監査対象企業に課金するため、なかなか微妙なビジネスだ。監査法人関係者にきくと、日本では一社当たり監査をするのに、時価総額などで同レベルの米国企業に対し、人数が半分ぐらいであったりして、大変な労働集約的な作業になっていると聞く。その状況について外から見ることができる数字で考えてみたい。
監査報酬の日米の違い
JICPAなどの調査によると、現在日本の上場企業が払っている監査のコストは、売上高1兆円以上の企業で、約2.6~3.3億円、売上高5,000億円~1兆円未満は約1.0~1.5億円だそうだ。調査のタイミングなどによって多少異なってくるだろうが、全上場企業平均は、約5,000万円〜1億円と言われている。 これを高いとみるか、安すぎるのではないかと懸念を抱くかは人によるだろう。ちなみに米国では、大企業(時価総額7億ドル以上)の平均的監査費用は約600万ドル、つまり約9億円ほど。S&P500企業だと約1,000万ドル(約16億円)となり、日本の大型企業と比べると3倍から10倍ということだ。 SEC登録企業(約6,656社)の平均監査費用は270万ドル(約4.1億円)で、 中小型企業が平均に入るため低めになるが、それでも日本から比べるとかなり大きい。もちろん現在の円安もあり、数年前に比べて1.5倍ぐらいに感じるところはある。しかしそれでも米国のほうが高く、一人当たり公認会計士のコストの差があったとしても、単純計算で倍以上の人数のチームで監査にあたることができると考えられる。
監査のコストの位置づけ
人数が多いから監査の質があがるということではないかもしれない。しかしもし監査費用が3億円である場合、はたして何人をその企業に張り付けることができるのか。監査は人件費だ。毎年のように改定がある会計基準や、サステナビリティなど新たな教育にかかるコストやAI投資などを割り算して、各公認会計士に稼いでもらわなければならない。そう考えると日本のトップ企業の監査に、監査法人はいったい何人割り当てることができるのだろう。
ちなみに、日本企業は広告となるといくら割り当てるかをざっとみてみた。時価総額1兆円以上の日本上場企業の平均的な広告宣伝費は、開示資料からざっくりみると約200~400億円前後とみることができる。もちろん産業によって金額は変わり、消費財・エンタメ・小売などでは1,000億円超もみられる。監査と広告を比較するのは乱暴かもしれない。小売り、消費財における広告は売上高と表裏一体だ。しかし一方で監査は株主のための説明の質を高めるものであり、個人投資家を含む自社を支える重要なステークホルダーへのエンゲージメントという点は似ている。
監査が守るもの
監査の数億円が高いかどうかはもうひとつ、不祥事が発生した時に株主が失う企業価値と比較するべきだろう。数千億円の利益が見直され、数兆円の時価総額が蒸発することもある。株主利益を守るために、企業はどれくらいの投資をするべきなのだろうか。
またもう一つ比較ができると考える数字がある。CEOの報酬だ。現在日本企業は、売上高1兆円以上の企業では、CEOの報酬は平均3億円ほどのようだが、グローバルにCEOの報酬は、その年の企業の収益に紐づいている。監査はその正確性を高める。もし監査が間違っていれば、CEOの報酬も見直されるべきだろうか。その支払われた額にみあうだけのコストをかけるべきだろう。
財務諸表が信頼できなければ、いずれ誰も投資できなくなる。そしてその監査は人的リソースに頼っている。日本市場のエコシステムを考えたとき、監査が引き続き十分に、高品質に行われるよう、十分な監査報酬が支払われているのかを、市場は注意すべきではないだろうか。特に投資家も、そのコストの意味を理解し、時に必要なだけ支払われることを支える必要があるだろう。
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