投函者(三井千絵)
新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言の中、決算・監査の遅延、株主総会の延期の議論が行われているが、それでは投資家側は今どのような状況になっているだろうか。
企業が株主総会を開催するということは、当然機関投資家側も議決権行使を行う。それに伴い、議決権行使の条件にもなっている決算を確認する。この作業がどういう状況になっているか、運用会社の議決権行使担当者にアンケートを実施した。アンケートには5月14日現在回答者数は11名で、少数なため全体の傾向とまではいえないが、少し現状が共有できるのではないかと思う。
テレワークは充実・議決権行使作業は継続
運用会社側も、現在はテレワークが導入されている。回答者中8名が完全テレワーク、3名が交代で出勤と答えた。これによって議決権行使の作業がいつも通り行えているか、という問いには、5月前半の回答として全員が“いつも通り”と回答した。数名は“やりづらくはあるが”、“いまのところは”、また“決算が遅れる企業分については遅れる”と注記をした。
そのため、その次の問い「企業に総会を延期してほしいと思うか」は「それほど思わない」と回答したのが過半数の6名だった。しかし再度数名は“招集通知がいつも通りなら”、“決算発表が行われるなら”と注記をつけた。また“それほど思わないが、分散化してくれたらありがたい”と今年に限らず、そもそも6月総会の議決権行使がタイトなスケジュールであることを思い出させるコメントもあった。またどちらでもない、わからないという回答が4名、企業に従いますという回答が1名であった。
決算短信があれば・・・
次に「今報じられている継続会方式は、役員選任議案に問題があるか?」という問いを設定した。アンケート計画時から比べて、ここ数日の議論の状況に鑑みると、配当議案など他の議案も問うべきであったが、継続会方式が検討される背景に当初“人事を予定通り決めたい”という点が挙げられていたため、この問いとした。これに対しては、「問題がない」と回答したのが1名、「決算短信があれば問題が無い」としたのが6名だった。実際、招集通知の計算書類ではなく、多くの議決権行使は決算短信を元に行われている。有価証券報告書が株主総会前に開示されない為だ。しかし日本では、決算短信の主要部分が有価証券報告書と同じになっており(少なくとも主要財務諸表は監査が行われるものと同等)、平行して行われる会社法監査のため、事実上監査がほぼ終わって作成されており、主要な数字の訂正はほぼ行われない・・・ということから実務上確定値のように扱われる。しかし今年は予定通り短信が出てもそのクオリティは異なるかもしれない、といった指摘があるためか、回答には「不安はある」、「いったんは問題がない見込み」、「数字がそろっていれば」といった注記がつけられている。その他の回答では「問題がないわけではないがやむを得ない」、「社内のコンセンサスを形成するほどの議論が十分にできていない、ケースバイケースで判断するしかない」、また「継続会方式にしても取締役選任議案は、計算書類が出てきた時(継続会の時)に決議すべき」という意見もみられた。
スチュワードシップコードの改訂も抱える中で
最後にその他の課題、不安な点などを自由記載してもらった。400銘柄議決権行使を完全なテレワークで行っていると回答した人でも「テレワークの状態で大量処理ができるかがわからない」と回答した。また「やむを得ないことも多いが、忠実義務と善管注意義務を背負っている投資家の負担が大きすぎる」という回答もみられた。1600銘柄を交代勤務でこなす回答者は、「未だ6月総会に向けてロジに不透明感がある」と回答した。一方100銘柄をこなすアクティブ運用の人は「コロナだからと言い訳する企業が多すぎる。大きく株価が下がっていれば他の要因もあるはず。減損は粛々としてほしい」と述べた。今までのように招集通知を紙でチェックできないので、オペレーション上の不安を抱えたり、短信を発表していても業績予想が書かれておらず、チェックする資料が増えそうだと不安を抱える人もいた。
また今年スチュワードシップコードが改訂されており、200-300銘柄を行使するある外資系アクティブ投資家は、「通常の行使のための社内外の対話のハードルは高くなっており、行使の正当な判断理由を開示せよと言われても、個別に判断する議案では、詳細な記載が難しい事例も出てくるのではないか心配だ」と述べた。
以上が緊急でアンケートを実施した、運用会社の状況だ。数は少ないが、状況の一部を企業の経営者、関連省庁などの関係者の方の今後の判断のために、共有できたらと思っている。