投函者(三井千絵)

安川電機2

株主総会でインターネット配信の説明

2023年度の株主総会シーズンがやってきた。5月に入り「新型コロナウイルス感染症」の位置付けが5類の感染症になると、気温の上昇と共に街角や公共交通機関でマスクを外す人が増えた。多くの企業がオフィスへの出社比率を高める中での株主総会は、また新しい流れが見られている。今まで制限していた会場出席の割合を増やす一方、オンライン参加をやめてしまうところも出てきている。

株主総会のバーチャル出席や議決権のインターネット行使は、これまでも株主総会自体の合理化、株主との対話の機会拡充といった目的で議論されていた。それがコロナ禍で、加速度的に対応する企業が増えたのだが、2021年に産業競争力強化法において、会社法の特例として「バーチャルオンリー株主総会」が認められるようになったのは、コロナだったからではない。しかし一部の企業にとってはあくまでもコロナ禍による対応だったのか、会場出席があるのだからと、今年はオンライン参加の環境を用意していないことは残念だ。

 

安川電機のオンライン株主総会

2月決算の株式会社安川電機(以下、安川電機)は5月24日の午後、第107回定時株主総会を開催した。会場参加はもちろんのこと、株主に対してリアルタイムでインターネット配信も行った。配信を視聴するURLは、便利なQRコードもあわせて招集通知と一緒に送付され、株主総会開催後の6月1日からは、そのWebサイトでも一部のアーカイブが公開されている。(質疑応答部分はカット)

これは視聴だけができる方式で、このサイトから議決権行使を行うことはできない。事前に別のサイトで、インターネット経由で行使をすることは可能だ。筆者は開催されている時間にログインできず、のちにアーカイブだけ見たので、オンライン参加者でも質問ができたかどうかはわからない。それでもオンラインがあることは、安川電機のように株主総会を本社のある北九州市で開催するような場合には、全国の株主にとって会社を身近に感じることができ、とても有益と言える。

安川電機の招集通知には「当日、お土産の配布なし」とわざわざ記載されていたが、映像からはどうやら大きな会場にたくさんの株主が参加している様子が伺えた。まずは最近多くの会社が用意をするビデオによる「事業報告」が行われた。これは自社製品や広々とした工場などを映すことができ、会社のイメージを株主により伝える効果がある。そして安川電機の場合は「経営環境」、「当期実績」、「地域別の状況」、「事業の状況」、「当期の取り組み」、「当期配当」、「設備投資の状況」、「対処すべき課題」とまるで有価証券報告書等の目次に沿ったような説明で、12分程度で、グローバルなEV化で需要拡大、半導体市場の在庫調整、中国の経済活動停滞などをサクサク説明しとてもわかりやすかった。また注目されているロボットについて、市場全体のニーズを解説したのち、自社が取り組んできた設備投資とその結果の収益増について説明した。そして今期の取り組みとして、安川電機のソリューションモデルであるi3(アイキューブ)メカトロニクスについて開発力、生産力、販売力の強化を進めてきた、と述べた。

 

 中計について力説

ビデオ上映後、今年度からはじまった新中期経営計画“Realize 25”について、小川社長から直接説明が行われた。小川社長は「本日は私の思いを込めて、少々お話をさせて頂きたい」と切り出し、今年から2025年までの3か年の計画について力を込めて説明を行った。安川電機では10年ごとにビジョンをたて、現在は2016年から2025年までの10年ビジョンの仕上げの時期となっている。その最後の3カ年を”リアライズ”、としている。(最初の3年間はダッシュ、次の4年間をチャレンジと呼んでいる)コアはアイキューブ・メカトロニクスだ。3つのiはIntegrated、Intelligent、Innovativeの頭文字で、産業自動化をもって統合された生産現場、知能化された生産現場、革新的な生産現場を顧客に提供するということを目指している。2年前に設立した「安川テクノロジーセンタ」に技術を集約し、業界をリードする製品を出したい、そのために顧客やパートナーとも連携していきたいと熱く語った。そして成長領域をEV市場、バッテリー市場、半導体市場、食品市場と特定した。この最後の食品市場というのは意外だった。その後これらについても詳細を語り、農業分野の自動化、食品生産工程の自動化に力を入れていると語った。この分野は確かに成長分野であり、その対応は安川電気が得意とするところなのだろう。もう一つ意外だったのが、バイオメディカル分野だ。現在ゲノムの解析の自動化やiPS細胞の安定的な供給にデジタル技術を提供しようとしているそうだ。小川社長の話は25分。株主総会の中の半分近い時間を占めた。

 

QAはアーカイブなし

株主総会の見どころの一つ、質疑応答はアーカイブからは削除されていた。昨年はオンラインで視聴したが活発に質問が出いていたように思う。いくつかの株主質問は他の株主の会社に対する理解を助ける効果がある。たとえば株主だけがログインできるサイトであっても、少しでも他の株主の質問と、それに対する経営者の回答を閲覧できるようになれば、と毎年思う。

このようなオンライン株主総会の意義はなかなか高いと思う。これから6月総会シーズンだが、すでに6月14日に株主総会を開催するトヨタ自動車は、今年オンラインの視聴を用意していない。株主は豊田市にある会場に行かない限り、株主総会を見ることができない。今年気候変動への対応に関する株主提案が行われているが、オンラインがなければほとんどの株主にとって、その議論を聞くチャンスが減ることは、ある意味”損失”だ。せっかく広がったオンライン化への対応が、またもとのアナログな世界に逆戻りしてしまうのだろうか。コロナが収束し、実際に集まることができたとしても、株主総会においては引き続きオンライン対応を拡充し、株主とのコミュニケーションの場として、さらに発展をさせていくべきだろう。