投函者(三井千絵)
昨年に続き、今年もオンラインで株主総会を行うところが増えた。6月は総会が集中するのでオンラインが増えることはとてもありがたい。6月24日の10時からは自分のカバーしている企業で4社同時に試聴・参加した。机の上にPCやスマフォを並べ、議案の冊子を四冊並べて、それぞれにメモをした。株主と対話をしようとする経営者の顔を少しでも多く見ることができが、新たな課題にもつきあたった。
格段に増えたライブ配信
オンライン総会のやり方は大きくわけて3種類。一番しっかりした対応は、①オンライン接続で完全な“出席”となり、質問も議決権行使も試聴と同一システム上で行うことができるもの。動議を提出したり、拍手を送る機能も備え付けられている。次に、②株主総会はライブで映像を視聴するしかできないが、事前に質問を受け付けるシステムを、別途提供しているもの。最後に、③ライブを視聴することしかできないところだ。①の機能を提供する会社は多くない。筆者は今年6月に総会を行う17社をみているが、そのうち4社だけが少なくとも2020年から①方式を採用している。残り13社は、昨年まではこの中の半分もライブ試聴も対応していなかったが、今年は11社がライブ配信をおこなっており、事前に質問を受け付けない(つまり③方式)のはうち3社のみ。つまり8社は②方式で事前に質問も受けつけていることになる。これは大変なプログレスだ。もっとも受け付けた質問の対処には各社に差がある。「時間の関係もありますので・・・」と言い、よく聞かれるような質問を3題だけ取り出し、事前に用意した回答を読み上げ、総会を1時間以内に終わらせるケースがある一方で、似たような質問を何題も読み上げ、それぞれ社長などが一生懸命答えているケースもみられた。それぞれの取締役が株主との対話をどのように捉えているかの差を感じることができる。(或いは、事前に質問がほとんど来なかった企業もあったかもしれないが)
ところでこの数字は、たまたま筆者が注目している企業なので、上場企業全体でライブ配信を始めたところは、もしかしたらまだ余り多くはないかもしれない。それでも昨年より増えたのは確かなようだ。
オンライン株主総会の意義
オンラインになって、以前より株主総会というものを通して企業をより知ることができた気がする。株主の一年に一度の権利である株主総会を、取締役はどのように捉えているか、早く終わらせたいと思っているか、できるだけ株主の声を聞こうとしているか、という点は少なくとも感じることができる。もちろん会場に赴くより得られる情報は少ないかもしれないが、逆にオンラインであっても、どれくらい株主に説明しようという姿勢をもっているか、については知ることができる。質問の扱い方も一つだし、株主総会の様子を後にホームページで公開する企業もある。これは出席できなかった時大変ありがたいだけでなく、より多くの株主や投資家に対しオープンであるという姿勢の現れと思う。
ある企業では、業績が昨年に続けて悪かったなどから、役員選任議案に反対を入れ議決権行使を済ませた後、ライブで株主総会を視聴した。社長らは株主の質問を、急かすことなく全てとりあげ、2時間を超えて対応していた。気候変動リスクへの対応についても、Co2排出量を減らすためにある事業を取りやめたことを責める株主に向かって「気候変動対応は企業の社会的使命です。しかし我々は取りやめた事業についてもきちんと企業として責任を果たしていきます」と答える様子をみて、「このシステムが試聴だけではなく、ここで議決権行使もできるシステムだったら、賛成票をいれたのに・・・」と少し残念に思った。
コロナ禍になって株主総会がオンラインで行われるようになったばかりの頃は、このように株主IDを入力してログインし、リアルタイムで総会の様子をみながら、議決権行使も入力できるというシステムは、きっと費用もかかるのではと思ったが、いまやZOOMやTeamsなど高機能のオンライン会議システムの利用に慣れ、しかも他社で対応しているところがあるとなると、「なぜライブ試聴だけなのだろう」と疑念に思う。
事前締め切りの壁
しかし今年、昨年までになかった(筆者はたまたま出合わなかっただけかもしれないが)問題に直面した。昨年まで①でオンライン参加していた企業の一部に、今年”オンライン参加事前締め切り”を導入する企業が現れたのだ。17社も扱っていると、一社一社封筒を開けて丁寧に見ない。議決権行使用のハガキと一緒に同封された総会議案や資料は薄く、連結財務諸表も含めた情報はHPに掲載されている。日時だけメモをしておき、株主総会の時間になってアクセス先のQRコードを取り出すためによく見ると、「オンライン出席は事前申し込みが必要です」と記載されており、締切日が4日も前というところがあった。せっかく質問も用意していたのに、ログインができなかったのだ。
今年、ライブ試聴だけのところの多くが事前に質問を受け付けていたが、その受付締め切りが早いのは、なんとなく納得した。それでも締切を1週間ぐらい前に設定している企業には、いかにも”質問をしないでください”というようなメッセージを感じ、嫌な気持ちになったが、解答をつくるために仕方がないのかなとも思っていた。しかし、オンライン出席に事前申し込み締切を設ける理由はまったく思い当たらない。同じ(ような)システムで、昨年はそのような締切は必要なかったわけだから、接続数の上限の心配といったシステム上の都合ではないだろう。
コロナ禍になってから、リアルの株主総会では先着順で入場を制限したりするケースもみられ、感染症の対策であれば仕方がない、と受け止められてきた。しかし本来株主総会は株主がより出席できるよう、企業は最善を尽くすべきだ。オンライン接続であれば、混み合って感染リスクが高まるわけでも、お土産が足りなくなるわけでもない。妥当な説明もなく、いきなり4日前になどに「締切です」と小さな文字で書いてあれば、これは「できる限り株主に参加して欲しくない」意図があるのではないか・・・と勘繰られることは避けられない。
全ての株主にオープンに、積極的に声をきくべき
多くの企業にとって株主は、特に株主総会にやってくる個人株主は、消費者であったり、地域社会のステークホルダーだったりする。また元従業員も多い。聞いていると株主から発せられる意見や質問は、長く株を持っている個人や従業員、サプライヤー等その企業になんらかの思い入れのある人々によるものが多い。それらの株主にできるだけ参加をして欲しいという態度を示さないことは、企業にとっても本来大きな損失だと思う。
今年、オンライン参加の事前締め切りを導入した会社は、その理由を少なくとも説明して欲しい。去年できたことがなぜ今年できないのか。株主総会のドアを閉めてよいのは、決議が始まった時だけのはずだ。
来年に向けてさらにオンライン総会は増えるだろう。しかしオンライン総会が参加をしにくくしたり、意見を言いにくくするのであれば、何の意味もない。企業にとってもプラスにならない。ぜひ前向きな対応を望みたい。