投函者(三井千絵)
6月総会シーズンが終わって二週間たった。少し今年の株主総会を振り返ってみたい。オンライン開催が増えたおかげで、以前より株主総会を実際に見る機会が増えた。株主からの質問をどのように取り扱っているか、社長や取締役がどう答えるというのは、その会社を理解する大事な情報源だ。
質問の扱い方にみる取締役の姿勢
オンライン株主総会とはいっても、ライブで視聴するだけというシステムを提供しているところが圧倒的多数だ。つまりオンラインで質問を入力したり、説明を聞いた後でリアルタイムで議決権講師をおこなったりすることはできない。それでも事前に質問を受け付けるシステムを併設したところが増えた。質問を入力した後株主総会を視聴すると、会社側が代表的な質問を2、3選び、それに応えるだけでがっかりしたケースも少なくなかった。たとえ的外れなものであっても、どんな質問が他の株主から出ていたのかは知りたいところだ。都合の良い質問だけを選んでいないか、会社の態度を窺い知ることができるからだ。
トヨタは、質問を入力する専用サイトにアクセスすると、それまで登録された全ての質問をみることができる。似た質問がすでに出ていれば、そこに「いいね」を付与できる。どんな質問が出ていて、どの質問が人気があり、答えるべきであるかなどが明確になっている。筆者がアクセスした時にはすでに膨大な質問が登録されており、多くの「いいね」を集めている質問もあり、今から何を登録しても注目されることは難しいと諦めた。会社に取り上げてもらいたければ、来年は招集通知が来たら真っ先に入力をしなければ。
株主総会がせっかくオンラインで開催されても、他の会社と重なってみられないこともある。後日ビデオを公開してくれるところはあまりない。JALは数少ない後日アーカイブをHP上で公開した企業だった。しかし事業報告の部分だけで株主との質問・回答はカットした。これはとても残念だ。ビデオを公開しなくてもQAのサマリーを公開しているところはあった。これらは株主のプライバシーに配慮しているようだ。ただ取締役の解答はみなが聞く権利がある。たとえば質問部分はナレーションに置き換えても、経営者の解答は公開して欲しいと思う。
質問にみる株主の思い
株主総会で質問するのは基本は個人投資家だ。個人の場合は利害関係も少なく、質問は時に機関投資家より容赦はない。Zホールディングスでは、毎年オンラインで接続した株主がそのシステム上で議決権行使も株主質問もできるという、いわゆる“参加型”システムを提供しており、質問も活発だ。株価が下がっているのに役員報酬を上げるのか、役員のスキルマトリクスをみるとXXが弱いのではないか、監査等委員会は経営者としかるべき距離を保てるのか、また特定の事業について今後どうするのかといった質問だ。とくに役員報酬については厳しい。株主還元を上げないで役員報酬だけ上げるのか、といった質問に対し、経営者は「成長が重要なので、株主還元を上げないのはご理解いただきたい」と答えた。
日立の株主総会では、事前に受け付けた質問から会社側が3つだけ選んだ。その回答に続けて、来場した株主の質問が始まった。印象が強かったのは「日立の協力会社で働いていて仕事が多く体を壊し障害が残った。今御社と裁判中だ」という発言。その中で誠意がないと受け取られる対応があったようで、株主は冷静にかつきっぱりと会社の姿勢を問うた。経営陣は今働き方の検証もしている、裁判も誠意をもって対応していくと解答した。一方「改正高齢者雇用法が施行された。国をリードするような会社として、しかも“貧困をなくす”をゴールの一つとするSDGsをかかげる会社であるのに、60歳になったら突然非常に低い給料で、65歳からは希望しても雇用しない、というのは良いのか」という質問には冷たく「今の対応を続けます」と回答した。
三菱ケミカルの株主総会では、石油化学セクターを切り捨てる方針に、何人かの株主が声を詰まらせて発言した。「三菱レーヨン、三菱樹脂時代からの事業の切り捨ては寂しい。社長の考えもう一度聞きたい」、「三菱グループは国家のためにやってきた。本当に石油化学を辞めて良いのか」株主というより会社を愛した元従業員の声だ。どんな質問も開口一番「いいポイントです」と肯定的に受け止めてから、説明するギルソン社長はこの質問も丁寧に受け「それでも日本は今、脱炭素しないといけない、石油化学はいまオーバーキャパシティです。カーボンニュートラルに向かっていかなければならないのです」と力説した。
住友商事の株主総会も株主が納得するまで応えようとし、2時間を越えた。株主質問はやはり業績から取締役の選抜方式(執行役員で中途採用がいないことへの追及)、業績が悪いのに役員報酬が増えているように見える、という厳しいものがあった。一方「仙台のバイオマスの施設は、本当にカーボン減らせるのか?」といった質問もあり、会社はそれがなぜ有効だと考えるかを一生懸命説明していた。
ソフトバンクの株主総会は毎年、まずは孫社長の1時間にわたるプレゼンを聞くことができる。その後も質問にも一つ一つ長く答える。株主との対話を楽しんでいるようだ。結局今年は2時間41分かかった。業績や配当に対する指摘が多いが、孫社長は「1社か2社あてれば取り返す!」と跳ね返し、どんなに株価が下がっても上場来のトレンドは上がっているとグラフを示して力説する。しかし株主質問も負けていない。「長い目で見ろといっても、あと何年待てばいいのか?」これには流石に孫社長も「厳しい。面と向かって聞けないだろう(オンラインだから書き込めるのだろう)」とこぼした。一方来場していた株主が、質問の冒頭に「私は21年ソフトバンクを持っています」というと顔をほころばせ「すごいね・・・迷いはなかったの?うちの宮内だって迷いはあったと言っているのに・・・」というと宮内氏は後ろから「迷いだらけだ!」と声をあげ、会場は笑いに包まれた。
ソニーの株主総会では、新しい事業に関するものが印象的だった。ある株主がホンダとの提携について取り上げ、「車はゲームとは違う。テスラもヒュンダイも事故を起こしている。大型リコールがあったり、訴訟が起きた時、ホンダとソニーのどちらが前面に立つのか?ちなみに私は同じ質問をホンダの株主総会でも聞いた。ムズカシイ質問だと言われた」。別の株主はドローンについて取り上げ「先日幕張の展示会で高い評価を受けているのを見た。ぜひ力を入れて欲しい」と述べた。またやはり気候変動に対する対応についての質問があり、会社は熱心に答えていた。
三菱重工の説明はカーボンニュートラル一色だった。自社の社会的なミッションだと考えている、という。しかし出席株主からの質問はいきなり韓国の徴用工問題についての発言だった。「当事者はお金を受け取っていない。払ってあげてはどうか?」会社は日韓請求権協定で解決している問題であり、韓国大法院の判決は遺憾です、と答えた。また「ウクライナの問題などを見ていて思う。もっと防衛の研究開発に力を入れるのか」「宇宙開発どうするのか」と、政府に聞いたほうが良いのでは・・・というような質問が続いた。気候変動関連では、何年か前に風力発電を売却してしまったが今需要が高まっているのではないかとか、再生エネルギーについては今後どうするのかといった質問が聞かれた。
武田薬品。社長は「武田史上初めて営業利益が一兆円にいった」と強調したが、株主は厳しく「これから金利が上がるのにこんなに負債があってどうするのか」、「今後もまだM&Aやる気か」「無形資産の償却費多いんじゃないか」と畳み掛けた。最後に手をあげた株主は元従業員で、研究者だった。「社長のプレゼンで核酸医薬に取り組むという話を聞いて嬉しい。2000年頃、抗体薬で後れをとり後悔したことがある。核酸はライバルが大きなベンチャー投資をして力を入れている分野で重要だ」ウェバー社長は両手を広げて「今でも研究のことを考えて下さっていてとても嬉しい」といい、R&D担当役員も「どうかこれからも見守ってください」と頭を下げた。
今後の株主総会のあり方
今後企業はオンライン株主総会をどう生かすべきだろう。コロナはいつか終息するだろう。しかしオンライン株主総会は会場費などのコストの削減にもつながる。なるべくオンラインで参加してほしいと考えれば、オンライン参加者を不利にしない工夫が必要だ。事前質問を絞ってしまったりすれば、「やはり会場に行かなければ」ということになる。オンライン株主総会とその透明性を図ることは、企業にとってもメリットがあるはずだ。より多くの人がそれを聞き、自社を理解する機会となる。手を焼く株主質問があっても、会社側があくまでもきちんとした対応をすれば、逆に理解を高めるだろう。株主総会の様子を公開すれば、株主質問も礼儀正しくなるかもしれない。
なによりもオンライン株主総会は、経営者の生の声を広く伝える場となりうる。重要なのはその場で個人株主の質問にシナリオなく自分の言葉で答えることだ。個人株主は、けっして素人ばかりではない。元従業員や取引先、地域の住民、顧客など重要なステークホルダーが含まれる。そして場合によっては機関投資家よりずっと長く保有しているケースがある。これらの株主に答え、その答えを広く伝えることは自社の理解者を増やすことになる。そして一つ一つの質問や要求を深く考えてみることは、企業の将来価値の向上にもきっと役立つだろう。