(木村祐基)

◇集中日の分散は進んでいるが・・・・・
今年も「株主総会シーズン」がやってきた。日本の株主総会では、長年「集中日回避」が課題としてあげられてきた。
5月2日に東証が公表した資料「2017年3月期上場会社の定時株主総会の傾向について」によると、いわゆる総会集中日(今年は6月29日)における開催社数の割合は31.0%になり、2015年の41.3%、2016年の32.2%から引き続き減少傾向にある。1990年代には90%以上の会社が集中日に開催していたことを思うと隔世の感がある。
また招集通知の早期発送についても、総会日の3週間以上前(法定は2週間前)に発送を行う会社が26.6%と、2015年の19.5%、2016年の24.0%から着実に増加している。さらに、早期ウエブ開示を行う会社は85.2%にのぼり(2015年は38.7%、2016年は78.2%)、ウエブ開示日は発送日よりも平均3.05日早い。
このように、上場会社の株主総会集中日回避や招集通知早期開示の努力は着実に進められている。総会日を数日早めたり、招集通知の発送日を1週間早めるための関係者の努力は大変なものがあるものと推察され、敬意を払いたい。

◇「対話に基づく議決権行使」には程遠い
しかし、このような企業の努力は、残念ながら「企業と投資家の対話」と「個々の企業の実情を踏まえた適切な議決権行使」という、スチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードで期待されている目的から見ると、根本的な解決には程遠いと言わざるを得ない。
海外諸国と比較した日本の株主総会の本質的な課題として指摘されるのは、総会が「特定日」に「集中」していることというよりも、(1)招集通知・事業報告書の開示から総会日までの日数が短く、総会前に投資家と企業が十分に対話する時間が取れないこと、(2)もっとも詳細な年次報告書である有価証券報告書が株主総会の前に開示されず、総会に向けた対話に利用できないこと、である。

◇米英における株主総会日程との比較
はじめに諸外国における決算から株主総会までのスケジュールを、経産省がまとめた資料で確認しておこう。(経産省「持続的成長に向けた企業と投資家の対話促進研究会」資料)
米国の大規模企業の平均で、決算日から、決算発表まで32.5日、年次報告書が51.5日後、招集通知発送が81.4日後、総会開催日が124.4日後となっている。
英国の大規模企業では、同様に、決算発表44.3日、年次報告書開示66.7日、招集通知発送77.8日、総会開催日119.4日となっている。ドイツ、フランスなどその他の諸国もおおむね同じようなスケジュールになっている。
これに対し日本は、決算発表37.0日、年次報告書開示87.4日、招集通知発送63.9日、総会開催日が85.0日となっている。
米英と日本を比較した特徴をまとめると、①決算日から決算発表までの日数は1か月程度でほぼ同じ、②年次報告書(有価証券報告書)の開示は米英が決算日後51日、66日なのに対し、日本は87日と非常に遅い、③株主総会は、米英が決算日から約4か月後なのに対し、日本は3か月以内である、④そのため、招集通知発送から総会日まで米英は42~43日あるのに対し、日本は21日と短く、年次報告書の開示から総会日までは米英が50~70日程度あるのに対し、日本では総会終了後に年次報告書が開示されている。

◇根本的解決策は7~8月の総会開催
このように、日本の株主総会の問題点の第一は、招集通知の発送から総会日までの日数が短いために、招集通知に基づいて企業と投資家が十分な「対話」を行う時間的な余裕が乏しいことである。
インデックス運用を行っている国内の大手機関投資家は、6月中に1,500社程度の議決権行使を行っている。かつてはこの実務が6月後半の約2週間(営業日で10日)に集中していたので、1日平均150社程度(ピークの日には200社程度)の議案判断を行っていた。それが約3週間に伸びても、1日平均100社程度の議案判断を行わなければならない。このような状況では、内容を企業に確認したい議案があっても、企業に質問する時間も取りにくいのが実情である。企業にとっても、投資家に議案内容をしっかり説明して理解を得たいと思っても、その機会が得られないということになる。実際、6月に入ると企業との面談は原則行わない、としている大手運用機関もあるようだ。
結局、この問題の解決策は、株主総会の開催日を思い切って欧米並みに決算日から4-5か月後にずらすしかないと考えられる。
日本の株主総会の第2の問題点は、最も詳細な年次報告書である有価証券報告書が株主総会に間に合っていないことである。企業と投資家の「深い対話」には、有価証券報告書に基づいた対話が最も有益であることは言うまでもないだろう。金融商品取引法に基づく詳細な年次報告書が株主総会前に提出されないというのは、日本の特異な慣行であり、グローバル投資家には理解できないことである。この点からも、有価証券報告書の開示を早めるとともに、株主総会を後倒しして、有価証券報告書が十分に利用されるような環境を整えることが必要である。

◇よく指摘される問題点へのコメント
株主総会を7月以降に開催しようという提案に対して、企業側からよく問題点としてあげられることについて、触れておきたい。
第一は、総会が遅くなることで「経営陣の選任が遅くなり、新経営体制のスタートが遅くなる」というものである。これについては、いまでも事業年度の開始(4月)と取締役の選任(6月末)はずれが生じており、この3か月のずれが4か月になることでどのような問題があるのかわかりにくいのだが、それはさておき、近年、経営の執行と監督の分離という意識が浸透し、「取締役会」は監督、業務執行は「執行役員」が担う、という区分が浸透してきている。実際、執行役員の人事は4月に行うという会社も少なくない。そうであれば、「監督」を行う取締役の選任の時期が7月や8月でも経営上の問題が生じるとは考えにくいのではなかろうか。
第2に、配当の承認が株主総会で行われるので、配当支払い時期がさらに遅くなることで、株主にも不満が生じるのではないか、というものである。これについても、今でも3月期の配当を受け取るのは6月末~7月であり、これが1か月遅くなることが株主にとってどれほどの不利益なのか判然としない。その点は置くとしても、配当については、取締役会決議で行うようにすればよいと考える。会社法では、取締役任期が1年の会社が定款に定めることにより、可能である。株主が会社の決めた配当に不満であれば、株主総会で株主提案を行えばよいだろう。定款で、配当に関する株主提案を排除しない規定を定めておけばよい。
第3に、株主総会が7月になると第1四半期決算の発表と重なってしまうという指摘もある。海外では、株主総会の前に第1四半期の決算が発表されている場合が多く、別段不都合があるとも思われない。株主総会では、第1四半期の実績も併せて、事業の状況の報告を行ってもよいのではないか。

◇株主総会に向けた「対話」が最も重要
最後に、「企業と投資家の対話」は、株主総会の時期に限られることではなく、1年を通して継続的に行えばよいことであり、株主総会の時期にこだわる必要はないのではないか、という指摘もある。確かに「対話」は1年を通して継続的に行われるべきものである。とはいえ、①企業の経営を評価するパフォーマンスについての突っ込んだ分析は、詳細な年次決算の財務諸表の開示に基づいて行われること、②具体的な取締役候補者の氏名は招集通知を待たなければならないこと、③定款変更その他多くの会社の重要事項が示されるのは株主総会であることなど、株主総会での投資家の議決権行使には、普段の「対話」とは異なる特別の重みがあるというべきであろう。やはり、1年のうちでも、経営陣の信認を問う株主総会に向けた「対話」は特別に重視されるものといえるだろう。株主総会に向けた十分な時間と情報の確保こそ、「企業と投資家の建設的な対話」のためのキーになるものと考える。

以上