投函者(三井千絵)
CGコードが導入されてからの3年間、日本企業のガバナンス上の問題点として常にクローズアップされてきた事項の一つに、「政策保有株式(持ち合い株)」がある。機関投資家の意見を聞かず、株主総会議案に反対しない“身内”で株式を保有しあう行動は日本企業特有のものと言われ、国内外の機関投資家は「投資家との対話を最初から受け入れない姿勢の表れ」と、その解消を求めてきた。
この問題は、何年も取り組んでいる投資家や関係者は少なくない。そこでここでは”少し異なる角度”から考えてみたい。誤解をさせてしまうかもしれないが、問題の根源は「株式を持ち合うこと」ではないように思う。
問題は経営者が「機関投資家の声を聞かない」ということだと思う。
問題の根源となっている意識を変えない限り、持ち合い株を解消しても、個人株主を増やすとか別の方法で投資家による議決権の力を弱めようとするだけかもしれないし、一方株式の持合い自体には、共同で行う事業の結果責任をともに分かち合うといった経済合理性を感じているだけで、投資家の意見を聞く意欲が十分にある経営者もあるかもしれない。
コードは経営者に、自社のガバナンス向上のために“マイノリティ・シェアホルダーの意見を聞く”ことを求めているはずだ。だから仮に持合いがなかったとしても、「議決権の過半数がとれなければよい」と投資家の意見を無視するのであれば、そこにあるのは対話どころか“対決姿勢”となり、ガバナンスの向上どころではないだろう。
”少し異なる角度”から考えるため、現在英国FRCでコンサルテーションが行われ、今年改定が予定される英国のCGコード改定案を見てみたい。
実は最近英国でも、役員報酬について業績や成果が本当に伴っているのか納得できず議決権を行使して反対しても、なんら対応をしない企業が増えていると問題視されている。報酬ポリシーも複雑で機関投資家がエンゲージメントで問いただしても、いろいろと言い訳をされてしまうそうだ。そこで次のCGコード改定では、役員報酬議案について20%以上の反対があった場合には、経営者は株主のメッセージをどのように理解したかを開示し、翌年に向けた対策を開示するといったことが提案されている。
この部分は日本でも取り入れることができないだろうか。たとえば役員選任議案で20%を超えた反対を得たらなんらかの意見表明をする、それを株主総会決議結果と併せて報告する。そして臨時報告書と共に開示したり、東証のサイトで開示するといった対応を求めるのはどうだろうか。そうすればマスコミ等がからも意識されることとなり、経営者の姿勢を社会的に問うこともできるかもしれない。
またそうすることによって、従業員や事業における関係者たちも問題を知ることとなると、経営者も真摯に考えざるを得なくなり、ガバナンス改善へのドライバーになるかもしれない。
これまでガバナンス改善議論では、持ち合い株の解消をはじめ、取締役会に独立取締役の増加、株主総会の日程の分散など、どちらかというと”日本企業特有の慣習を変えさせていく議論”が多かったと感じる。これらは重要な議論ではあるが、同時にこれらの慣習が機関投資家との対話やガバナンス向上にとってなぜ問題なのか、と常に一歩戻って考えてみると、また別のすべき対応や課題も見えてくるだろう。時価総額の大小や異なる事業の3700社のガバナンスの向上を同じやり方で実現することは難しい。時にはあえて少し違った角度で考えみること有益ではないだろうか。
普通の機関投資家は基本的には“マイノリティ・シェアホルダー”だ。50%ではなく20%の反対で、経営者は真摯に取り組みその開示を義務付けるという形でのガバナンスの改善策は、日本でも一度検討してみる価値があるのではないだろうか。