投函者(三井千絵)

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紅葉に輝くソウル

 アジア地域に投資をする投資家が加盟するアジア・コーポレートガバナンスアソシエーション(ACGA)は11月12日−13日、韓国ソウルで第24回アニュアル・カンファレンスを開催した。韓国は日本の「コーポレートガバナンスアクションプログラム」のあとを追い、急速に取り組みを見せている。銀杏が黄色に色づき、青い空に絢爛豪華に輝く中、250名を超える投資関係者がソウルに集った。

 

1.指数を前面に出す韓国当局

   カンファレンスでは最初に、韓国の国会議員で「 KOSPI 5000特別委員会」で委員長を務めるGi-Hyoung Oh議員から講演が行われた。KOSPI 5000とは、韓国版の「コーポレートガバナンスアクションプログラム(2023年からの金融庁の取り組み)」といえるだろうか。KOSPI指数は現在4000前後(2025年11月)だが、企業価値向上を達成しこれを5000に引き上げようというイニシアチブだ。

 この政策は一見、政府が株価指数を目標とするのかと驚いたが、中身は日本の金融庁の取り組みのように、「コーポレートガバナンス改革によって企業のバリューアップを目指す」というものだ。R&Dや人的資本への取り組みも求めているようだが、政策が具体的に力をいれているのは株主還元や株主総会・議決権行使の環境整備など、企業に株主・機関投資家重視のようだ。

 

2.財閥がいる国のコーポレートガバナンス

 アジア各国にはそれぞれ固有のコーポレートガバナンスの課題がある。日本は持ち合い株、いくつかの社会主義国には前国有企業、東南アジアではファミリー所有企業、そして韓国では財閥だ。いずれのケースも少数株主の利益を優先するという姿勢に立ちにくい。しかし少数株主(特にグローバル機関投資家)が信頼し、企業価値向上を期待して投資をしてくれてこそ、その国に資本がもたらされる。「財閥」の場合ファミリー所有企業と同じだがもっと複雑だ。創業者一族や身内が株主として占める割合は、その企業の規模からすると(日本から見ると)ちょっと驚く。そこで韓国政府が取り組んでいるのは配当の減税だ。経営に影響を及ぼす創業者一族に最もメリットがあるため、配当のインセンティブが高まり結果的に少数株主の利益となる。

 韓国も独立取締役の導入に取り組んでいる。今年は商法を数回改正し(11月現在その途上)、そのうちの一つでは「社外取締役」から「独立取締役」と独立性要件を強化、その比率も1/3に高める方向だ。韓国では2009年より資産総額2兆ウォン以上の上場企業に監査委員会の設置を義務付け、監査委員会の社外取締役に対する投票を最大株主およびその特別関係人が行使できる議決権は合算で3%に制限してきたが、今回これを強化し、すべての監査委員会の取締役にこれを適用、少数株主の決定力を高めている。

  しかしパネリストの一人は「監査委員会の取締役は会計の知識があることが求められている。しかし実際に取締役会で疑惑があると発言したり、それを決議に反映できないケースもある」と日本でもみられる課題を述べた。

 

3.排出量の野心的な設定

 ACGAのカンファレンスが開催される直前の11月11日、韓国政府は新しいNDC目標を発表した。それは2035年に2018年の排出量に対し53%から61%削減するという野心的なものだ。(現行は2030年40%削減)カンファレンスでは、気候変動に関するセッションもあり、パネルではその話題が取り上げられた。セッション後、筆者はまわりの参加者に、「どのように達成するつもりなのだろう」と問うと、そこはまだまだ弱いと感じているようだった。

 韓国企業もサステナビリティ開示の導入に向け、KSSBを設置しISSBに準拠した開示導入について議論がなされてきた。委員会を設置し議論を行ってきたが、委員会から当初提案された2025年から導入するという案は採用されず、現時点では2026年度以降を目途に検討中とのことだ。

 

  1. e-Voting

 韓国も議決権行使の電子化に力をいれている。日本と同様議決権基準日は現在総会の3ヶ月前の決算日となっており、日本と同じだけエンプティ・ボーティングの問題も想定される。しかし一方で、議決権の電子化については進んでいる。

   日本では議決権基準日後、委託を受けた信託銀行などで株主名簿を策定する。韓国では日本のほふりに当たる韓国預託決済院(KSD)が、システム的に管理されている名簿(株券が電子化しているため、電子的管理されているデータを元に作成。生成に5日必要で株主総会繁忙期はさらにかかっているとのこと)を提供することができるそうだ。KSDは同時にプロキシーボーティング・プラットフォームを提供している。KSDでは名義株主と実質株主を紐づけており、その提供が義務付けられている。企業がKSDが提供するプラットホームを利用するとすべての議決権行使を閲覧することができる。議決権行使結果は会社側がカウントするのではなくKSDが収集し、企業に送る仕組みがあるそうだ。時間は少しかかるそうだが、それができれば、集計に第三者による透明性が確保できる。(注:インタビューを元とした執筆。集計方法について文書等による確認はできず)確かに証券を保管振替している組織が直接議決権行使システムも提供するのは合理的だ。しかし韓国ではKSDがこのサービスを提供する前に、既存サービスがあり、すべての企業が同じシステムを利用しているわけではないため今はまだ色々制約があるようだ。いずれにせよ、日本より一歩進んでいるようで興味深い。引き続き詳細を調査していきたい。(注:11/28 一部更新)

 

 現在日本でも実質株主の透明化について議論が行われている。隣の国韓国の制度も学ぶべき点が多いのではないか。現在日本でも日経225が5万円を超え注目されているが、実際KOSPIの年初来上昇率は66%(10月現在)と日経225の約22%に比べても急上昇している。ダイバーシティや独立性では似た問題を抱えている。そのような中、韓国の取り組みを知ることは、日本でもできること見つける早道かもしれない。

 

Special Thanks, Wakaba 🙂