(投稿者 木村祐基)
3月24日、日本電信電話(NTT)とトヨタ自動車は、スマートシティビジネスの事業化に向けて業務資本提携を行うことを発表した。日本を代表する優良企業同士による新時代に対応した共同事業であり、この業務提携が成功することを期待したい。

しかし、投資家の立場から疑問に感じるのは「資本提携」である。両社の開示資料によれば、「価値観を共有し、・・・パートナーとして、スマートシティビジネスの事業化が可能な、長期的かつ継続的な協業関係を構築し、・・・・・・スマートシティの運営を共同推進するための資金を調達するために、・・・相互に株式を取得します」と説明されている。
具体的には、それぞれが第三者割当による自己株式の処分により、相互に約2000億円ずつの株式を取得するとしている。NTTはトヨタ株式の約0.9%を、トヨタはNTT株式の約2.1%を保有することになる。
しかし、相互に2000億円ずつの株式を取得することは、2000億円の資金が両社の間を行き来するだけで、「資金を調達する」ことにはならないので、「資金を調達するため」という説明は間違っている。
では、相互に出資し合う意味は何か? 上記の開示資料の説明を読むと、「価値観を共有し、パートナーとして、長期的かつ継続的な協業関係の構築」に繋がることを目的としているように見える。しかし、相互に株式を保有することが「長期的な協業関係の構築に繋がる」という説明は、まさにいま批判が高まっている政策保有株式の保有理由そのものであり、「株式持ち合い」ということだ。株式持ち合いのために両社合計4000億円もの資金を固定化してしまうことに、合理的な説明ができるだろうか? この資金をスマートシティの研究や投資に投じるほうがはるかに有効ではないだろうか。

本来、業務提携は、お互いの技術やノウハウを利用することでビジネスを発展させるもので、どのような技術・ノウハウをどのように提供するのかを「契約」で定めるべきものであろう。株式を持ち合ったからといって、提供する技術やノウハウが保証されるわけではなかろう。
一方、資本提携は、資本を必要とする会社に資金を提供すると同時に、株式保有による議決権を通じて相手方の経営に影響力を発揮しようとする(資本を受け入れた側からすると、経営に影響を受ける)というものである。
しかし、NTTやトヨタが相互にその経営に口をはさむ・はさまれるという関係を望んでいるとは思われない。そもそも1%、2%の株式保有で経営に影響するほどのものとも言い難いし、他方でもし提携関係を解消しようとするときには足かせになる可能性もないとはいえないだろう。もし、スマートシティ構想に限ってお互いに影響力を発揮したいのであれば、共同出資による合弁子会社を作るという方法もあり得る。株式を持ち合うことが「信頼のあかし」といった情緒的な理由は、貴重な株主の資本を投じる根拠にはなり得ないと考える。

「スマートシティ構想」という、両社の広範な事業の中の一分野における業務提携にあたって、巨額の資金を投じてお互いの会社の株式を持ち合うことの合理性を見出すことは困難である。両社は、コーポレートガバナンス・コード原則1-4で示された政策保有株式に係る規程を踏まえて、今回の2000億円相互出資の意味を、株主に納得のいくように説明する責任があるのではなかろうか。