9月24日、金融庁で開催された「スチュワードシップ・コード(以下SSコード)及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」を傍聴した。以下、感想文です。

冒頭、金融庁の池田総務企画局長のあいさつでは、両コードがコーポレートガバナンス強化の取り組みのスタートであること、形だけではなく実質が求められること、企業価値向上につなげることが重要であること、などが述べられた。また、東証の静常務は、これまでガバナンスの議論というと社外取締役を入れるべきかどうかをさんざん議論してきたが、いまは「社外取締役を入れた取締役会は企業価値向上に役に立つのか」という問いになっている、との問題意識を述べていた。コード策定当局が、両コードの実効性確保、企業価値向上への意欲をもって臨んでおり、このフォローアップ会議に実効性ある提言を期待しているという姿勢が伝わってきた感じである。

第1回の会議ということで、事務局からの資料の説明と、各メンバーがそれぞれ所信を述べて時間となってしまったが、各メンバーの発言の中から印象に残ったものを紹介したい。

まず企業側のメンバーからは、「経営トップの選解任がガバナンスのキーである」ことがあげられた。トップ人事は、数年に1回の会社にとって最も重要な意思決定であるにもかかわらず、「日本のトップ人事ははっきり言って不真面目だ」との指摘があった。すなわち、前社長や会長が内輪で指名して、それが失敗だったとしても誰も訂正できない(解任できない)というのはマズイ。日立製作所では、社長交代の1年前に候補者3人を選び、本人と取締役会に公表して、その後1年間取締役は候補者の人物を見極めたうえで最終決定するとの事例も紹介された。それでも、最初の候補者3人を選ぶところから社外取締役が関与したいとの声があり、どう運用するか検討しているとのことだった。

CGコードへの企業の対応に関しては、一部の企業にはコードを自社のガバナンス見直しの契機にしようという前向きの対応が見られるものの、多くは「コードの文面だけを見て形式的にすべてを遵守する」ことにとらわれて実質的な対応・開示説明ができていないのではないかとの指摘が複数のメンバーからあった。CGコードは、欧米における経験の積み重ねから「こうすれば企業価値が向上するだろう」というベストプラクティスを踏まえたものなので、これを経営に取り込んでいくことが大事だ、との指摘は適切だろう。そうすると、日本的経営のあり方を大きく変えないと、実質的な対応を行ったことにならないので、これまでの経営の何を残し,何を変えるか、企業には大きな課題だとの意見もあった。また、自社の成長戦略のためのガバナンスという視点からは、企業の中に「ガバナンスを考える部署」を置く必要があるとの意見もあった。

次に、投資家側の課題について。ある経営者の発言として紹介されたのは「質の高い投資家との対話は経営者に気づきを与える。こうした質の高い投資家は海外投資家で、日本にはいない」という残念なコメントであった。これに対しては、投資家フォーラムの活動などで国内投資家も見識の向上に努めていることも紹介された。

日本ではインデックス運用が多く、公的年金などでは運用コストを引き下げることに注力してきたが、近年はパッシブ投資家もβを高めるという意識が高まっている。インデックス保有の銘柄に対する議決権行使やエンゲージメントについて、そのコストの負担のあり方をきちんと議論していくべきとの問題も指摘された。

また、議決権行使助言機関の問題として、社外取締役候補者の所属企業が相手企業とごくわずか(0.1%以下)の取引があるというだけで「反対推奨」されたという事例から、助言会社も形式基準ではなく実質的に企業経営に貢献できる人材かどうかをきちんと判断してほしいとの意見や、助言会社を利用する機関投資家は、その助言の妥当性を検証する必要がある、との意見もあった。

また、日本のコーポレートガバナンスに関しては海外投資家の関心が非常に高いことから、この会議の議事録の英訳の早期公表や、企業のCG報告書の英訳の促進を希望するとの意見も複数のメンバーから出されていた。

以上、全てを紹介しきれないが、当会議のメンバーには現場をよく見ている人が多いことから、今後実質的な議論が展開されることを期待したい。また、今後、当会議では今後広く意見を募集するとのことなので、我々も積極的に提案をしていきたい。

最後に、私からささやかな提言。

①企業はCG報告書において「実施している原則」について詳しく説明してほしい。それが投資家との「対話」の基礎となる。

②企業はCG報告書を提出したら、投資家向けの説明会を行ってほしい。決算説明会の時にガバナンスについての説明を加えるという方法でも良い。説明することで投資家の関心と理解が高まり、企業の評価向上につながると思われる。説明しないことは関心を持ってもらいにくい。

木村祐基