投函者(三井千絵)
日本企業でまた、大規模な不正会計事件が発覚した。現時点で2000億円を超える売り上げの過剰計上があったと言われており、子会社とその子会社の間でおきた数年間におよぶ架空取引のためだったそうだ。当該企業自体は、開示もよくさまざまなアワードを受賞しており、ガバナンス的にも優良企業だ。半数が独立社外取締役で、監査役会設置会社であるが指名報酬委員会も取締役で構成し、委員長は社外となっている。その統合報告書などをみると「子会社のガバナンス」の強化に力をいれている。今回も発覚から速やかに調査をし、調査委員会の報告時期も公表している。それなのになぜこれを防ぐことができなかったのか、コーポレートガバナンスの実効性が伴わなかった・・・ということなのだろうか。
あいつぐグループ企業での会計問題
アジア各国の企業に投資する投資家をメンバーとする投資家団体Asian Corporate Governannce Association(ACGA)の日本インドリサーチヘッドのアヌジャ・アガルワルは、今年1月12日にACGAブログサイトで「Nidec governance: more form, less substance」という記事を投函していた。この記事でアガルワル氏は、「独立取締役の比率も高く監督基準が高く評価されていた」ある日本企業に昨年発覚した子会社の会計不正についてとりあげ、「形式基準はより多く適用していたが、実効性が足らなかった」と分析している。記事は(形式基準の必要性を否定するものではなく)実際に就任していた独立社外取締役のスキルなどに言及し、会計不正が見抜けなかった原因として「継続的な調整、セグメントデータの不一致、内部告発といった危険信号であり、財務に精通した取締役会と強力な監査委員会であれば、より深く調査できたはず」と、取締役に財務やリスク管理の専門知識の不足の可能性を示し、研修の必要性をあげている。
しかし財務の専門知識の取得で、独立社外取締役がこのような社内どころかグループの内側に及ぶ問題を事前に察知し対処できるものだろうか。取締役の役割はむしろインターナルオーディットの監督であり、具体的な帳簿のチェックをするというわけではないだろう。もちろんある程度の専門知識は必要で、研修はもちろんあったほうがよいと思うが、より重要なのは、独立社外取締役に適切な情報が上がる仕組みになっているのかどうか、そしてそれを問う場があるのかどうか、ではないだろうか。
ガバナンス体制と社外取締役の役割
どんなに今求められているガバナンス体制(形式基準)を適用しても、なお払しょくできないリスクがあるとき、経営者はどのような対応をとることができるだろうか。「現場で隠されたらどうにもならない」というのが本音ではないだろうか。筆者はアガルワル氏が指摘している内部通報をより掘り下げて考えるべきだと思っている。社内どころかグループ全体で何か不適切なことが起きたとき、それをすべて独立社外取締役が直接監督できるわけがない。しかし社内で何かを隠したり不適切な扱いをする場合、完全に関係者の目をさけるのは難しい。必ずそれを見たり、知ったりした社員がいただろう。そして良心の呵責にたえられず誰かに訴えたいと思った社員が行動に移すとき、アガルワル氏も指摘するようにそれは重要な情報源だ。問題はそのあと勇気を出して行動した社員やその情報を、独立社外取締役はどのように扱うことができるか、ということだ。
最近の統合報告書では、ガバナンスのページに内部通報制度について記載している会社も増えてきた。通報先として内部の監査役会(監査委員会)や法律事務所といったルートを常時設定し、匿名性を確保しその後どのように取り上げるかが記載されている。上がってきた件数を報告しているケースには、ある程度実践できていることが感じられる。
内部通報制度の重要性
しかし内部通報制度には、もしかしたらどこかスパイのような暗いイメージがあるかもしれない。それを払拭し実践力を高めることを推進するのは、特定の専門知識ではなくより社内や社員に対する理解かもしれない。
また内部通報者は通報時点から社内利害関係者から独立した環境で保護されるべきであろう。それゆえにそれが健全に機能するかどうかは、独立社外取締役の責任といえる。アガルワル氏は「内部告発報告制度の信頼性を高めるには、取締役会レベルで重大な苦情に関する議事録付きの議論が行われるべきである」と述べる。取締役会は外部監査を実施することも可能だからだ。当然ながらその内部通報者がどのように安心をして、かつ正当に扱われるかを、独立社外取締役は注意深く監督すべきだろう。彼らの情報の全てが正しいわけではないかもしれないが、それは独立社外取締役の仕事を助け、やがて会社を、企業価値をも救うだろうからだ。内部通報の対象者は最悪CEOである場合もある。だからこそ独立取締役の役割は重要だ。そのための環境や社内の意識を高めること、それも重要なコーポレートガバナンスの実効性の向上ではないだろうか。

