投函者(三井千絵)

 

3月は株主総会のミニ・ピークであるだけでなく、6月総会の企業が本決算や株主総会のシーズン前にESG説明会を開いたりする。事業環境やマーケット状況が非常に不透明になっていく中、企業の経営者たちはどのような説明を行っているだろうか。直近で筆者がみた事例をいくつか挙げてみたい。

 

ESGの流れは変わらない

三菱重工は3月18日にカーボンニュートラル説明会を開催した。常務執行役員 CTOが説明を行った。その説明は「日本企業の取り組みもここまできたか」と思わされるものだった。ひとつひとつの脱炭素の技術を説明するケースはよく見かけるが、三菱重工は脱炭素に向かう事業・経済サイクルを丸ごと作り上げようとしている。たとえば天然ガスを採掘すればそこで水素をつくり、二酸化炭素の貯蔵や固体炭素(素材)として再利用を同時に行う。ここで生成された水素をエネルギーとして供給する、エネルギーの地産地消という考え方を打ち出している。いくつかの事例を挙げ、中にはごみ処理を切り口に、生ごみからメタンを発酵させバイオガスを作り、Co2を回収してカーボンニュートラルを作るとか、回収したCo2から素材を抽出したり、SAF燃料を生成するといったサイクルを描いている。三菱重工は水素を利用することで既存のガスタービンやその設備をそのままカーボンニュートラルとして活用するモデルを目指しており、このガスタービンをEUタクソノミに準拠させると一足先に宣言していた。

三菱重工はこの新たなに築くサイクルと一緒に収益モデルも忘れずに示し2030年には収益3000億円を目指すと説明したため、アナリストからの質問はここに集中した。まずCCUSビジネスについては回収したCo2の蓄積の問題があるため、顧客はどれくらい見込まれるのか?という質問。CTOは「今はエンジニアリングをやっている段階だが、引き合いが来ている」とその手ごたえを語った。

次に新しい取り組みついて(おそらく新しい仕事に取り組む必要から)研究開発の人をどのように管理しているのか、KPIなどはあるかという流行りの問いに「アイディアを持ち寄り、自主的に取り組んでもらっている。KPIとかそういうもので管理していない」と答えた。(筆者はこの回答に好感を感じた)

CTOは「水素循環、Co2回収は全ての人にニーズがあるはず。多くの人がCo2削減にはコストがかかると思っている我々の考えは違う」と繰り返し強調した。最後のほうでウクライナなどの問題があり、今後のESGの流れが変わるのではないか、という質問があった。「現在起きていること、我々も社員の安全とか問題抱えている。不透明感は高まっている、さはさりながら、ロングレンジでエネルギー転換は変わるものではない。山登りにはいろいろな道があるが、道筋は外れることではない」とキッパリと答えた。

 

「人と人との有意義な時間は人類にとって不可欠」ウクライナへの寄付

3月総会のアサヒグループは3月25日株主総会を開催した。社長はよどみのない口調で、事業展開、酵母に対する知見で展開する新しい事業、サステナビリティ、目標収益などを説明。そして株主質問の時間になると、さすが消費財だけあって、次から次へと手が上がり、株主というより消費者という意見もみられた。

株主総会で質問するのはだいたい個人投資家だが、その質問内容には株主の意識を見ることができる。最初に質問をした株主は「今年パラリンピックが開催されたが、障碍者雇用とかどのように考えているか。グループ全体で平均より少し少ないようだが、雇用を増やしたり、障碍者雇用をしているところをサプライヤーに積極的に選ぶとかそういった取り組みはないのか?」と聞いた。これにCHROの執行役員は「最重要課題だと思っています」と回答した。

ある株主は「私は30年ぐらいアサヒビール株を保有しています」と言い、議決権が一番少ない取締役の名をあげ、その20倍は持っていると言った。買った時は1000円だったが、今4000円。でも10000円を目指してほしい。そのためには売り上げではなく、株主価値を上げて欲しい。具体的には配当性向を50%以上にして欲しい。またこんなに役員報酬を取らないでほしい・・・と質問した。社長は「まずそれほどの長期にわたって保有していただきありがとうございます」と御礼をいい、配当性向は40%を目指したい。しかし今の35%でも安定的に配当するほうを重視したい。なぜならいまDXやサステナビリティなど中長期に成長するために投資しなければならないことがたくさんある。その代わり企業価値をあげていくので、わかって欲しいと訴えたあと、催促されて2つめの役員報酬の質問については、下げることは考えていないと答えた。一方で「社員への還元はどう考えているのか?」と質問した株主もいた。これに対してはCHROから「報酬や働き方を改善しないと、いけないと思っている」と回答が行われた。

後半になるとだんだん商品の話になった。「スーパードライという主力商品、2月になぜリニューアルしたのか?」とある株主が問うと、社長は自ら新しいスーパードライの“のどごし”を力説した。他にも三ツ矢サイダーを気に入っているが置いている店舗があまりない、小売店とのコミュニケーションしっかりやってくれとか、新宿の居酒屋が最近元気ない、居酒屋でアサヒスーパードライを飲みたいからなんとかしてくれというのものもあった。

そして会社の収益か、スーパードライの値上げへの心配からか、麦の値上がりや、円安による材料費の高騰などに対する質問も複数出た。「麦の値上がりは我々も注意を払っているが、実はグループで60%以上が海外売り上げなので、円安は実は悪くない」と社長は回答した。

最後に少し声を詰まらせた男性が「ウクライナの悲劇を毎日みて胸が痛い。アサヒは何か企業としてしているか?」と問いた。これに対し社長は「当社は人と人との有意義な時間は人類にとって不可欠だと思って事業をしています。ポーランド、チェコ、ハンガリーなどに展開する人道的支援のボランティア団体に寄付をしており、既に100万ユーロ寄付をしています。当社としてできることは全てやっていきたい」と答えた。

 

「企業価値を高めていきたい」

電通国際は、BtoBビジネスであり、株主総会でもにぎやかな消費者のような株主からの質問は期待できない。ここ半年は下がっているが過去10年株価は堅実に伸び、配当もそこそこ良く、下手をすると何も質問が出ない株主総会となる。

実際、3月23日の株主総会も、淡々と進んだ。オンライン参加は質問も入力できない閲覧のみで、株主質問の時間が来ても何もできない。電通国際は決算説明会や株主総会の録画配信を行なっていない。資料も2,3色に色分けした文字だけが並び、製品・サービスの写真を満載した他社のものと比べるとシンプルだ。広告業の親会社とは全く逆のイメージで、昨今であれば「開示に消極的な会社」と杓子定規に言われても仕方がないかもしれない。

ITソリューション事業を中心とし、コロナの影響も原材料やガソリンの高騰などの影響も受けにくい業種といえるだろう。株主も取り上げる話題が見つからないのか、このまま終了かと思われたところで、誰かが挙手をした。明らかに年配の方と思わせる声が聞こえた。

「今日は、質問ではなくお伝えしたいことがあって来ました」とその株主は話し始めた。「私は今日、お礼を言いたくてきました。実は経営していた会社で何年も取引をさせていただきました。とてもいい会社だと思います」あまり話し慣れていない口調だったが、社長はせかしたりもせずじっとして聞いた。

「その逆の会社もあります。やはり取引をしていたある会社では、役員が社員の声をきかず、何か言うと”おれの役員の任期は2年しかない、その間に利益をだせ”と言う感じで社員が”この会社は終わっている”と言っていました。社長にお願いがあります。長く勤められると、どんな人でもだんだん意見を聞かなくなってしまいます。それにだけお気をつけください」

社長は一呼吸おいて、顔を上げ「ありがとうございます。社会人としての先輩のご意見、拝聴いたします。そして企業価値を高めていきたい」と答えた。

 

今ウクライナ・ロシア情勢、為替、物価の高騰、燃料費・ガソリン代の上昇、アフター・コロナの生活の変化、気候変動や人権への考慮など、様々な経営者が考慮すべき事項が押し寄せる。そして経営者は「ちょっと待って」ということはできず、語り続けなければならない。それでも日本の経営者は、しっかりと揺らがないあるべき姿をみて、頑張っていると言えるのかもしれない。

 

(注)電通国際の株主総会はそのHPで公開されていません。筆者が株主として参加しました。