投函者(三井千絵)

金融庁は5月21日、「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」という文書を発表した。3月決算企業の決算が次々と発表され、有価証券報告書提出が近づくなか、あらためて今年の開示について金融庁の考え方を示したものだ。文中で金融庁はこのパンデミックの事業に対する影響を、できるだけ適切に投資家に説明する重要性を伝えている。

 

会計上の見積もり

まず文頭、企業会計基準委員会(ASBJ)が4月のはじめと5月のはじめに発表した「会計上の見積もりを行う上での考え方」について触れ、今年の決算を行うにあたり、(業績予想ではなく)資産等に反映するマネジメントの事業の将来に対する見積もりを行うにあたり、望ましい取り組み方を再度強調している。

どのように難しくとも、財務諸表を作成したということは、保有する事業に収益をもたらす資産の評価や引当金の設定でなんらかの見積もりをしたはずである。ASBJは、その時においた仮定を詳しく説明することを求めている。特に当年度の財務諸表に対する影響の重要性が乏しくても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合は、追加情報を開示することが望ましい、と述べている点を金融庁も強く訴えている。

 

リスク開示

金融庁は続けて、今年から適用される改正内閣府令においても、連結財務諸表作成にあたって用いた会計上の見積もり及びその仮定を開示することが求められていることについて再度強調し、また他にも事業のリスクにその影響や対応策、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)」にそのための資金繰り等への影響や経営戦略の見直しの有無などを説明することを求めている。

最後にこれらは有価証券報告書のレビュー対象であることも明確に指摘している。

 

パンデミックを乗り越える為に、なぜ開示が重要か

すでにいくつかの決算説明会で、CEOからそういったメッセージを送っているケースも見られたが、上記で金融庁が説明している開示は投資家だけでなく全てのステークホルダーにとって重要だ。既に3ヶ月を超えて通常の事業活動ができず、今後もその影響がしばらく続くであろうと思われる中で、投資家だけでなく融資、社債の引き受けを行っている金融機関はさることながら、関連企業や、サプライヤー、顧客、従業員においても、現状と経営者が今後をどう考えているか正確に知る必要がある。

「ほんとうは危ないのではないか」という疑いからは、事業活動の再開に向けた思い切った対応はけっして産まれない。上記の金融庁が指摘している点は非常に基本的で、重要な点といえる。ぜひこの考え方を、投資家、企業の双方が念頭にいれた開示を行い、決算説明会やその後のエンゲージメントでも生かしてほしい。