投函者(三井千絵)
金融庁は4月21日、4回目の「資産運用業高度化プログレスレポート」を発表した。
一新されたコンテンツ
2020年に初めてこれが発表された時は、資産運用業のパフォーマンスやガバナンスに光をあてたことは衝撃であったが、年に一度発行されるこのレポートは、その後も毎年そのコンテンツを増強させてきた。2021年には、私募投信、VC/PE、ESG投資の状況をまとめ、課題を提起した。その翌年(2022年版、つまり昨年)は、資産運用会社の経営・運用に関する章と並んでESG投信の問題に大きくページを割り当て、まとめとして「ESG投信を取り扱う資産運用会社への期待」が掲載された。
その半年後、“ESG投信の監督指針“が別途発表され、今回の2023年版のプログレスレポートの公開となった。そのような流れから、最初に意外に感じたのは、単独でESGに関する章がないことだった。毎年章立ては変更され続けてきたが、今回も構成は大きく変わった。まず大項目として、資産運用業の高度化の章に加えて、アセットオーナーの章、DCの章がそれぞれ別々に独立して設置された。資産運用業の章では、一つ目に資産運用会社の経営者など体制の状況と課題の提起、二つ目に運用体制や運用者の開示など各ファンドの状況と課題の提起、この中には保有銘柄の開示の問題にも光を当てている。三つ目の販売会社の問題では、手数料とアドバイスやファンドラップの付加価値について言及したり、販売チャネルの少なさにも触れている。そしてその次は運用の付加価値に切り込み、スチュワードシップ活動の実効性評価に踏み込んでいる。
第2章のアセットオーナーの部では、日本のDBがGPIFのような巨大なアセットオーナーがいる一方で非常に小さいDBが多く、総資産100億円以下のDBが70%を占めており、十分に運用に人もあてられず、また資産運用会社にとっても取り組む意欲を持ちにくいという現状を取り上げている。第3章は今年NISAの拡充が話題となっているDCだ。ここでは商品選択や加入者の金融教育について触れている。この2つの章では、DB、DCともにESG投資をどのように感じているか、多くのインタビューもふまえて分析をしている。
以上のように今回のレポートは資産運用業の問題を、年金資産の運用まで含めて統合的に分析している。
数字が物語る日本の現状
レポートが用いたデータを集めたハイライト集も発表されている。これを眺めるだけでも色々と考えを深めることができる。
まず最初に経営の透明性確保と銘打ち、日本の大手の運用会社ではトップの在任機関が異常に短いこと、またP4では就任前の資産運用業界の経験がほとんどないこと(世界的には異例)であることがハイライトされている。これだけでも非常に興味深いが続けて、P5では、運用者の名前が開示されているケースが他国に比べ、これまた異常に少ないということが一目でわかるようになっている。P6にはファンドの保有銘柄開示の頻度がやはり日本だけ飛び抜けて少ないことが示されている。P8ではプロダクトガバナンスについて、「大手の資産運用会社では体制整備が進んでいる」と評価しつつ、「実効性の確保は道半ば」として、ファンドの抽出基準が未設定であること等を挙げている。
P10には、信託報酬の分配がアクティブでもパッシブでもあまり変わらないことが示されている。信託報酬は当然アクティブの方が高いがその配分がいずれも半々である。これは意外といえる。代行手数料はアクティブとパッシブで変わるということなのだろうか。P11にはリテール向けの販売チャネルが、米国に比べ日本では非常に限られていることが示されている。またP18では日本がいかに独立系の資産運用会社が少ないかが示されている。
運用関係者に評価する声も
このようなレポートに対し、まだ発行後三日目だが、資産運用関係者の中にはポジティブな反応が広がっている。
ある資産運用関係者はレポートをざっと眺め「たしかに日本では、トップが運用を理解せずテーマファンドをたてまくるところがある。そしてESGもテーマだと思っている」と苦笑する。また外資系資産運用会社のESGアナリストは、「アメリカだと、おそらくEUでもファンドボードというファンドを監督する組織があり、独立性や顧客利益を見ているのですが、日本にそれはないのでしょうか・・・」という疑問をもったそうだ。
一方ある日系大手ファンドマネージャーは「運用会社ガバナンス問題は根が深く、前回指摘から改善取り組みしているところと、そうでないところの差も出ているのかもしれない」と語る。コンテンツを毎年追加してきたこのレポートは、ガバナンスについては2020年から一貫して取り上げている。
資産運用業高度化プログレスレポート2023は、今の日本の資産運用業のさまざまな構造的問題を、数字をもとにわかりやすく説明している。ひとつひとつの問題を取り上げ、課題を共有し、改善に向けて取り組むのは簡単ではないかもしれない。しかしまずは金融庁の手で、このようなレポートがまとめられたことはとても意味がある。このレポートが投げかけた論点に、ぜひさまざまな形で取り組みを行い、日本の資産運用業界が前進することができることに期待したい。