投函者(三井千絵)
夏休みの終わりに、今日はいつもと少し違った話題を・・・
ここのところ反ESGとか、ネットゼロ脱会、気候変動対応の見直し等のニュースを頻繁に見かけるようになった。当初は政治的な議論と捉えられてきたが、事業でも投資でも、補助金のカット等、レギュレーションに関わる財務面へのインパクトが見込まれると、確かに継続は難しい。収益性の再評価などをせざるを得ない状況もあるだろう。これまで築き上げてきたESG(特に気候変動関連)は、2025年確かに曲がり角に立っている。
とはいえこの夏は、疲れ果てるほどの猛暑だった。いつか我々は、今の子供世代から、この暑さの中でまだ反ESGなどと言っていた「バカな世代」と見下されるのではないだろうか。
そして暑いだけではなく、夏を楽しむことが少しづつ難しくなっている。筆者は登山を趣味としているが、ここ数年山にも変化がみられている。
山岳地帯の経済と気候変動
北アルプス北部、白馬岳の名物「大雪渓」を通るコースは、雪渓表面を撫でた冷たい風を浴びながら登ることができ夏は人気の登山道だ。だが過去2年、気温上昇によって生じたクレパスや雪解けによる一部崩壊によって通行止めとなっていた。もう2度と登れないのかと案じたが、作冬は雪が多かったため、今年3年ぶりに開通し多くの登山者が白馬を目指した。しかし今度は登山口までの林道が、雪崩等で壊れ登山バスが入れず、地元も「海の日」に間に合わせる!と対応に力を入れ、無事三連休には800人もの登山者が押し掛けたそうだ。
その少し南の北アルプス表銀座(燕岳から大天井岳、槍ヶ岳につながるコース)の入り口である中房温泉へ伸びる林道は、路肩崩落によって通行止めになり、登山口までたどり着けない状況が8月まで続いた。北アルプスは登山可能な期間が短く、登山客が入ってこれなければ地元も経済的に打撃となる。「山の日」までになんとしても開通させる!と宣言、地元関係者の努力により8月8日に開通した。
そこからずっと南にある、南アルプス北部では芦安村から名峰北岳を含む白峰三山への登山口広河原まで伸びる南アルプススーパー林道が7月15日、突然の台風によって通行止めになり、多くの登山者が広河原で立ち往生した。台風に伴う雨量の増加で、通行止めになるのは過去にもあったが、それが激しくなっている実感がある。それだけでなく、登山口までの林道をより脆くしている可能性もある。前述の中房温泉は売り上げが昨年比の30%に落ち込んだそうだ。
動物たちの影響
また今年は、例年以上に多くの山小屋で熊の目撃ニュースを聞いた。8月中旬、筆者を乗せた登山バスが立山の室堂に着くと「昨夜、みくりが池で熊が泳いでいた」とアナウンスがあった。同じ日にそこから少し南の薬師岳山荘では「熊が出たから、できるだけ単独で行動しないように」と宿泊者に注意を促していたそうだ。
室堂と薬師岳山荘の中間にある五色ヶ原山荘で、筆者は実際登山道で熊と鉢合わせたと言う登山者の話を聞いた。無中で何かをあさっている熊に気づかれないようにそっと歩いたそうだ。「もう”熊ベル”なんかでは熊の対処できないんじゃないか」気温の変化が、熊の行動を変えているのではないだろうか。
ここ数年、北アルプスでは雷鳥が羽の色を白に変えるタイミングに雪が降らず、本来は保護色になるはずなのに目立ってしまうようになった。生態系に影響を与えないわけがないと危惧してならない。
登山と気候
例年強まる台風や大雨の影響は登山道にも現れる。南アルプス北岳の大樺沢は沢沿いに登る気持ちの良いコースだった。8月にこのコースを下山路に選ぶと、登山靴を脱いで冷たい沢に足をつけて休むのが楽しみだった。しかし台風等で登山道が崩れるようになり、数年前から通行止めになった。もう地元は修復を諦めたと噂を聞く。
そして、今年は例年にまして、滑落のニュースが多く聞かれた。前述の北アルプス五色ヶ原山荘に筆者が泊まった日、「数日前、すぐそこの鳶山で滑落死発生」と聞いた。地図からは想像もできなかったが、行ってみて登山道が荒れており、足場が安定しない箇所も多々みられた。40年登山をしていて筆者も初めてこの山域で滑落を経験した。(幸いにも周りの登山者に登山道に引き上げてもらいことなきを得た)
登山は、別に生活にとって必須ではない。しかしこれらは登山道・林道と呼ばれる山岳地帯の特定の地域で起きているだけではない。世界的にみても気候はますます凶暴になり、台風による土砂崩れや河川の氾濫で犠牲になる人は年々増えている。
次の次の世代は、自然と親しむことができるのだろうか?登山は人生を豊かにし、若い世代にももっと親しんでほしいと思ってきたが、はたしていつまでそれを安全に楽しめるのだろうか。低山なら安心というわけではない。熊は低山でも出没し、今や熱中症の心配もある。
投資家であろうと、事業に取り組む企業であろうと、このような環境を次の世代に残して良いのかどうか真剣に考えなければならないように思う。
連日の猛暑で都会でへとへとになり、その上週末や休日自然の中で心身ともに癒すことも難しくなっていけば、生産性も伸びず、経済への悪影響は累積して大きくなる。今我々は、”反ESG”などと言っている場合ではないのではないだろうか、短期の収益性で評価をして良いのだろうか、ESG投資の原点はなんだったのだろうか・・・・そんなふうに強く感じた夏だった。