投函者(三井千絵)

IMG_4674

汝矣島セッカン生態公園は韓国初の生態系を保存するための取り組み

 

スタートレックのほとんどの歴代の艦長は宇宙船を発進させる時、目的地とワープ速度を言う。しかし1987年から放映されたシリーズのピカード艦長だけは「Engage(発進!)」という。我々がよく使うEngagementと同じ語源だ。

NPS(National Pension Service) は韓国におけるGPIFだ。運用額は 20259月末時点で135兆円(GPIFの約半分)と資産の大きさとしては世界第3位の年金基金が、2025年、2つの新戦略の取り組みを開始した。いずれも世界の脱炭素・気候変動対策に大きなインパクトを与える取り組みだ。

 

1.石炭関連企業のダイベストメント

 NPSは, 2024年12月に確定した戦略で、2025年から、発電用石炭の採掘および発電産業関連企業で、3カ年平均石炭売上⽐重50%以上の企業に対し、これから5か年トランジションを求めるエンゲージメントを行い、成果が見られない場合はダイベストメント(投資撤退)をするという戦略を決定した。株式・債券ともに対象とし、直接投資だけではなく、委託先運用にも適用する。海外資産は本年より、国内資産については国内のエネルギー事情などより、2030年からの施行となった。

 NPSが今回このように決定した背景は、NDC(温室効果ガス削減に向け各国で設定する貢献度)達成にむけノルウェー、オランダなどの年金基金や運用会社ではそのような投資戦略が取り入れられていること、米国でもカリフォルニア州で同様の取り組みがあることによる。しかしいきなりダイベストメントを行うのではなく、まずはエンゲージメントによって企業行動の変化を誘導する。NPSとしてこれは、脱炭素だけではなく、エネルギー安全保障と直結するととらえている。発電産業にターゲットをしている理由は、グローバル企業がこれまで脱炭素に対し努力をしてきているが、輸出企業は自己努力だけでは達成困難と判断したためだ。電力産業が脱炭素を達成すれば国内企業もおのずと脱炭素を進めることができ、グローバル投資家の国内企業に対する肯定的な意見形成に貢献したいという。

 エンゲージメントの内容は非公開とし、またダイベストメントについては、ベンチマークから除外をすることで事実上除外されるという運用を行う。NPSにとってこのようなダイベストメントは初めての取り組みだ。グローバルの年金基金の動きから見れば、驚くことではないかもしれないが、世界第3位の基金が新たにこれに取り組むインパクトは少なくないだろう。脱炭素とともに韓国の経済に対する姿勢がうかがえる。

 

  1. 海外株式に対するエンゲージメント導入

 NPSは2018年に受託者責任に関する原則を導入し、資金の長期収益に向けた取り組みを行ってきた。その中で国内株式においては、配当政策、役員報酬、収益、企業価値を毀損するようなリスク、株主利益を侵害する恐れなどについてエンゲージメントを行ってきたが、海外株式においては取り組んでいなかった。

 そこで、今後海外株式においても、他のグローバル基金のようにエンゲージメントを行うという戦略を20249月に設立した。これまで取り組んでこなかったのは、海外では韓国国内でみられないようなESGの課題があり、そのナレッジ上の課題などで踏み出せなかったようだ。そこで導入には段階を踏み、まず当初2年は、エンゲージメントサービスプロバイダーの活用を勧め、2027年からは調節的な対話を実施する計画だ。またNPSはこのエンゲージメントによってエンゲージメントと議決権行使の一貫した運用に力を入れる予定だ。

 前述の石炭事業と同年から始まるこの新戦略は、当然石炭事業に対するエンゲージメントの強化にもなるだろう。NPSの直接エンゲージメント、企業に対しそれなりのインパクトとなるのではないだろうか。

 

昨今、欧米のESGバックラッシュは、米国の訴訟リスクなどもあり資産運用業に暗い影を投げかけている。そのような中NPSの新戦略は、脱炭素に向けた投資の在り方を強く打ち出し、アセットマネージャーや企業にとって、Asset Ownerとして進むべき方向を明確に打ち出させる一助となるのではないだろうか。

今後のNPSの成果に期待したい。