投函者(三井千絵)

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ゲルに宿泊できる観光用施設(キャンプ)。夜は満天の星

 

今年のGWはモンゴルで過ごそうと考えた。コロナ中に新空港ができ、今は成田から直行便でわずか5時間の距離だ。JALとコードシェアをしているモンゴル航空に乗り、機内誌の頁を開くと、モンゴルへの旅が急にリアルになる。ゴビ砂漠、恐竜の化石など広大なユーラシア大陸をイメージさせるページがあり、元(げん, Yuan)の歴史のページがあり、美しい湖のほとりのコテージの写真などに続き、モンゴルの経済界についてのセクションに目が止まった。

 

モンゴル経済を支える若いプレイヤーたち

足を組んで座る素敵な女性の写真が目に飛び込んできた。「Capitron BankのDeputy CEO、モンゴルの銀行セクターにおいてまだ少ない女性役員」と紹介されているのは、大阪大学修士課程を2013年に修了したという、おそらく30代のChandmani氏だ。

「30年前、モンゴルは中央計画経済から市場経済に移行し、それから急激に発展してきました。その成長に商業銀行のファイナンスやローンは欠かすことのできない存在でした。この間商業銀行はグローバルスタンダードに合わせて様々な取り組みを行ってきました。バーゼルIIIやガバナンス、リーガルコンプライアンス、そしてSDGs、デジタルトランンスフォーメーションなどです」とインタビューに答える形で語っている。以下はこの機内誌からの引用だ。

「銀行業は他の産業をサポートする責任があります。我々はモンゴルの道路の改善に貢献してきました。ウランバートルとダークハン道を2レーン増設する取り組みでは主要な役割を担いました。このプロジェクトはADBとEBRDから資金をえて2019年に着手し昨年完成しましたが、交通安全の向上と交通死亡事故の減少に大きく貢献しました」

確かにモンゴルにおける道路のプロジェクトは重要だ。モンゴルの国土は156万平方Kmで日本の約4倍もある。後に入国後、最初に向かったのはウランバートルから車で1時間のテレルジ国立公園内のキャンプ(伝統的なゲルに宿泊し、乗馬やアーチェリーなど設備をもった遊休施設)であったが、市内をでると凸凹の未舗装の道が続いた。そこをトヨタの乗用車がものともせず走っていく。(モンゴルを走る車はほとんどがトヨタ、多くが日本から輸入された中古車であり、右ハンドルで右側通行の道を走っている!)市内の歩道でも、ブロックが崩れているところも見られた。滞在中ホテル前の大通りはアスファルトの敷き直しがあって行政も頑張っているようだが、なにせ国土が広い。

記事は続けて、Capitron BankのDXへの取り組みとして、決済システムのサードパーティとの接続や、モンゴル銀行初のインターネット・バンキング、Alを活用した無担保マイクロローンなどを紹介した。そして女性起業家の支援とグリーンビジネス向けの補助金融資について挙げ「グリーンビルディング、グリーンビジネス、グリーンカー、グリーン消費財向けの低金利ローン商品など、グリーン経済の推進に貢献」と記載されていた。これを読んで、これから旅をする国の印象がガラリと変わった。

ウランバートル市内には市電や地下鉄がない。計画は時々話題に上るが、人口が少ないので収益化が難しいのだろう、と地元の人はいう。そのため市内は常に大渋滞で、それを回避する手段に、シェア・キックボードが大活躍している。みな乗り捨てられたキックボードを見つけると、スマフォを近づけ登録をし利用を開始する。街中にあるコンビニは日本と同じようにトイレを貸してくれて、イートインコーナーでスマフォの充電もでき、Wifiも提供している。筆者は現金を持たずクレジットカードだけで過ごせたが、地元の人はQRコードの支払いも活用している。この国のこういった経済活動はCapitoronのような銀行が支えているのだろうか。

 

モンゴルの市場環境整備

 そのCapitron Bankで社外役員を務めるB氏はグローバルなアナリストの資格であるCFA(Chartered Financial Analyst)を有している。モンゴル国内では30名ぐらいが資格を保有している。「50名になったら、ソサイエティ(国内で資格保有者が集まるローカル組織)が作れるんですけど」モンゴルの上場企業は250ほどで、人口300万人の国としてはかなり多い。そして他国でもみられたように、パンデミック中にネット証券が注目され、店頭取引も始まったそうだ。モンゴル証券取引所の株式時価総額は2023年12月時点で11.6兆トゥグルグ(5322億円)で、前年比4.7兆トゥグルグ(68.7%)増だ。今後CFA資格の需要も高まるかもしれない。

モンゴルは旧ソ連とともに社会主義国であったが、その後市場経済に移行し、過去20年は他のアジア諸国と同様、上場企業の株式市場に関するさまざまな環境整備を行ってきた。

JICAが2018年に発表した調査レポートによると、モンゴルは鉱物資源開発に牽引され、2006 年から 2013 年までに一人当たり GDP が4 倍近くにまで拡大した。しかしその後、鉱物資源価格の下落や輸出の8割を占める中国経済の成長鈍化などからやや苦戦しているようだった。そしてその後コロナ禍とグローバルな脱炭素の流れの影響を確実にうけただろう。

そんなモンゴルも1999年、コーポレートガバナンスのコンセプトが当時の企業法に規定された。2007年にはOECDコーポレートガバナンス原則を土台とした“コーポレートガバナンスコード”が策定・施行され、2011 年から適用された。2015年規制当局FRCがコードの遵守状況を年次報告書に開示するよう企業に求めた。国際金融公社(IFC)は 2014 年、FRC によるコード作成時に協力、コーポレートガバナンス関連の調査レポート、ガイドライン等をモンゴル語で発行している。地元のNGOであるCGDCは毎年 “Annual Report Award (ARAM)” を開催し、年次報告書の改善に取り組んでいる。これらは日本がコーポレートガバナンスコード導入を行った時期より少し早い。そしていまは、前述のCapitoron Bankのように銀行業はグリーンファイナンスに向けて力をいれている。

テレルジ国立公園の有名なチンギスハーン・テーマパークを観光していた時、欧米から来たグループを英語でガイドしていた方が(こちらは個人旅行なのでうしろで話を聞いていたが)360度広大な大地に設置された風力発電設備を指差し「政府は再エネの利用を促進するようさまざまなサポートをしている」と語っていた。

 

砂漠の国の水のプロジェクト

OECDのコンサルタントであるO氏は現在、水のプロジェクトに取り組んでいる。その中で、リーダーシップ的な存在であるGolomt Bank について話してくれた。Golomt Bankは持続可能な開発をサポートし、顧客のグリーン・ローンの利用可能性を高めることを目指している。SDGsのNo6、“きれいな水と衛生の実現”に向けた資産運用会社WaterEquity (国際的に著名なNGO、Water.orgによって設立された資産運用会社)からのファンドをうけて、水に関わるローンなどを展開する。技術的な評価はWater.orgから受けているそうだ。給水・衛生に関わる事業者、パイプ、タンク、側溝、トイレタリー、処理薬品、またそれらのサプライヤー、流通業者、輸入業者、小売業者、廃水の輸送などをカテゴリし、家庭、中小企業などに、水と衛生へのアクセスを増やすバリューチェーンをサポートする取り組みとしてグリーンローンを提供している。

O氏は「未だいくつかの地域では下水が整備されていない。この国では綺麗な水へのアクセスは最も重要なプロジェクトだ。」という。今はO氏自身も水問題の調査レポートを作成していて、もうじき発行されるそうだ。またO氏は国際機関で働くやはり30代の女性として、「モンゴルの女性活躍もまだ遅れている。議会はわずか17%、地方政府でも30%未満だ。民間部門は40%」と話した。ここでふと思った。この数字、日本よりはるかにましではないだろうか。O氏は「それでも変化はおきている。将来にはポジティブだ」というが、筆者は日本はここでも置いていかれるのだろうかと少し悩んだ。

 

ところでこのGWは市内やキャンプで他にも日本人観光客をみつけた。地元の人はウランバートルの中心にある国会議事堂の前のチンギスハーン広場に面する朱色のビルの写真をとっていく日本人を、最近よく見かけるという。それはTBSドラマVIVANTでバルカ中央銀行に扮したビルだ。他にも市内には、チベット密教のお寺や、19世紀末のモンゴル王朝のボグド・ハーン宮殿、市内外一望できる高台の戦勝記念碑などが市内から徒歩30分ほどで回ることができる。ウランバートルは標高1300M、とその近隣のテレルジ国立公園は1600Mほど、夜は東京の人間にはまさに襲いかかるように星が見える。これからますます夏は酷暑となる日本からみると観光としても魅力的だ。

モンゴルは地理的には“東アジア”に属している。資源国であるにも関わらずグリーンに取り組み、日本より女性活躍も進んでいそうな隣人から、もっと刺激を受けるべきではないだろうか。・・・短い滞在ではあったがそんなことを感じた旅だった。