投函者(三井千絵)
資産運用立国実現プランのもと、アセットオーナー・プリンシプルと日本版EMPが導入され、新興運用会社の活躍が期待されます。しかし新興運用会社が確実に成長するためには、よりよい新興運用会社プログラム(EMP)が必要です。この連載では海外のEMPを少しづつ紹介していきたいと思います。
2024年9月、日本でアセットオーナープリンシプルが最終化されたころ、米国メリーランド州退職年金制度(以下、MSRPS)ではそのEMPプロジェクトを拡大する発表を行っており、Emerging Manager Monthly、Buyoutなど関連する複数のサイトで報じていた。
筆者がこれに気がついたのは、Emerging Manager Monthlyだ。米国にはこんな専門情報サイトがある。それだけでも、いかに新興運用会社の数が多いかをうかがい知ることができるが、その10月号のヘッドラインに”Maryland To Add Private Markets Investments To Emerging Manager Program”を見つけた。
テラ・マリア
さっそくMSRPSのHPを見つけて、新興運用会社プログラム(emerging managers program (以下、EMP)がどのようになっているかを探してみた。MSRPSでは2007年にEMPを導入し、それを翌年テラ・マリアと名付けた。
テラ・マリアの投資先は現在、パブリック・マーケットとして、
- 米国のスモールキャップ
- 米国以外の先進国
- 米国以外の先進国でスモールキャップ
- Fixed Income
の4つと、プライベート・エクイティの5つで構成されている。冒頭の記事はこのプライベート・エクイティに新たにアロケーションを増やすというものだ。しかしもともとテラ・マリアは、プライベート・マーケットへの拡大を目指していた。それは、この新興運用会社プログラムのスピリッツに基づいた、パフォーマンスの管理に根ざしているのだそうだ。
上記の記事らによると、今後5年間でテラ・マリアのプライベート・エクイティに2億5,000万ドルを追加投資する計画を発表したということだ。他にもバイアウトファンドは大型を減らし中小型のを重視するとか、成長分野への投資を進めると言ったことも報じされている。
アクティブ、パッシブ、テラ・マリア
次にMSRPSのアニュアルレポートを読んでみた。MSRPSは17万人以上の退職者と受益者を抱え、資産総額は652億ドル。そのうちテラ・マリアは公開市場では現在24億ドル、プライベート・エクイティについてはマイノリティおよび女性が運営する企業のマネージャーの育成に16億3000万ドル割り当てている。テラ・マリアのマネージャーは基本はアクティブ運用で、公開市場の24億ドルのうち75%はエクイティ、25%が債券となっている。
アニュアルレポートを読み進めると、アセットクラスごとにその運用ごとの配分が記載されているが、面白いことに気がついた。
このように、パッシブ、アクティブ、テラ・マリアと分類されている。テラ・マリアはどうやら独立した運用形態のようだ。
文中にテラ・マリアは「有望な中小型の運用会社や、発展途上の運用会社を特定することを目的とする」とある。つまり、もうただの”新興運用会社”だけではないようだ。まずは中小型の運用会社をパッシブやアクティブとは分けて、ひとつのグループとしてみていること、また発展途上の(こちらは広い意味で新興運用会社を含めようとしているのだろう)ということで、運用会社の育成も目的に含んでいるのかもしれない。
プライベート・エクイティ
アニュアルレポートによると、テラ・マリアのプライベート・エクイティの一部はマイノリティおよび女性が運営する運用会社に割り当てているとあった。以前このブログで紹介した「ニューヨークの新興運用会社プログラム」(EMPシリーズの1)では、ダイバーシティをパフォーマンスの源泉においていた。
一方前述のBuyoutの記事では今回の発表の背景として、実はプライベート・エクイティ部門でテラマリアの成績が少し良くないことに触れている。ダイバーシティだけでは難しいのか、今後拡大部分でどのような戦略を実現していくのか気になるところだ。(記事では今後は中小型への強化と更なるダイバーシティの実践と読みとれるが)
プライベート・エクイティの分野は特に競争が厳しいのかもしれない。新興運用会社として採用されたあと「非・新興」として継続して採用されるケースが、プライベートエクイティでは現在1/4ぐらいであるという。プライベート・エクイティはパフォーマンスを強みとする領域で、期待値も高いのだろう。これからメリーランド州ではどのようなプレイヤーが登場し、ダイバーシティとパフォーマンスをどのように実現していくのか、興味深いところだ。
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