投函者(三井千絵)

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ロンドン郊外(写真はハートフォージャー近く)

 

資産運用立国実現プランのもと、アセットオーナー・プリンシプルと日本版EMPが導入され、新興運用会社の活躍が期待されます。しかし新興運用会社が確実に成長するためには、よりよい新興運用会社プログラム(EMP)が必要です。この連載では海外のEMPを少しづつ紹介していきたいと思います。

 

欧州の新興及びブティックマネージャーのためのイベント

2025年2月の最終週に、ロンドン郊外のハートフォードシャーに欧州の新興、また新興に限らずブティックと呼ばれる運用資産10億ドル未満のファンドが集った。今年で第8回となるヘッジファンドマネージャーヨーロッパの新興・ブティックマネージャーサミット(以下、サミット)が開催されたためだ。主催は、With Intelligenceという、ネットワーキング専用のプラットフォーマーだ。居並ぶスポンサーをみると、同業界の関係者で、BlackRockのような大型資産運用会社や、ケイマンに籍をおきアセットマネージャーを顧客とする信託管理会社Harbour Trust、またバックオフィス業務などの代行サービスを提供しているCentralis Groupといった様々な業態の企業が資金面から支えている。イベントの目的は、新興・ブティック型運用会社(参加資格は10億ドル未満)のネットワーキングである。

主催者は「このイベントは、ヨーロッパで最もダイナミックで、革新的な新興、あるいは中小規模のファンドマネージャーのためのサミットである」とうたい、ファンドマネージャーと業界関係者が知るべきアジェンダとそれを”深い洞察”をもって議論するためのスピーカーを招聘している。参加者はそれらのセッションで違いに意見交換をしたり、アイディアを得たりする。新興マネージャー(以下、EM)にとって最も重要な参加目的は、人脈の構築である。すぐれたEMを探しているアセットオーナー、大型資産運用会社、コンサルタントなどと出会うことで、未来の運用資金の獲得を目指す。

イベントの紹介・登録ページでは、昨年の参加者を一部公表しイメージを伝えている。みると確かにEMだけでないことがわかる。先頭からAcer Tree investment management(2019年設立)、Aaro Capital(2018年設立)といった比較的若いところに続き、L1 Capital (2007年設立)、Castellain Capital(2009年設立)、Connection Capital(2009年設立)、Enko Capital(2008年設立)と、少し”年長”のファンドが並ぶ。ただし参加者であるということは10億ドル以下のブティックファンドだろう。長く運用していても常に運用資産が大きいことだけが良いことではない。ここでは参加者が”ダイナミック”で”革新的”であることが重要で、その手法は小さい方が取りやすい。そのための一つの閾値が”10億ドル以下”ということなのだろう。

 

プラットフォーマーの存在

このように特徴をもつファンドマネージャーを探している人と、資金提供者を探している人をつなぐイベントは、そのニーズの高まりがあってか、昨今様々なところで開催されている。

ではこのサミットを主催するWith Intelligenceとはどのような団体なのだろうか。サイトを見ると、ターゲットは新興マネージャーに限っていない団体であることがわかる。まずは直近のヘッジファンド業界の状況ついて、数値をもとにした分析レポートを提供している。続けて、ファンドレイズのための助言のビデオが掲示され、大まかに分類すれば”支援ビジネス”なのだと理解できる。そして全てを自らのサポートサービスだけで支援しようというより、様々なプレイヤーをつなぐ場として”プラットホーム”を提供し、自分たちで支援できるところは支援し、そうでなければそれをサポートする団体が、サポートを求めているファンドが知り合うことを目指しているようだ。あるいはこのようなプラットフォームは、スポンサーフィーや何らかの手数料、会費を収入源とすることもできる。重要なのは、ここに集うのは”アセットオーナー”と”EM”だけではない。EMを支えるのは数々のサービスも集まっている。それらが互いに知り合うことで、新たなビジネスが構築されていくのだろう。

米国西海岸で、やはりEMにフォーカスしたプラットフォームビジネスを営むG氏は、EMがファンドを立ち上げる道を見つけるには、ネットワーキングが欠かせないと考えている。新興マネージャープログラム(EMP)を持つ公的年金にいきなりチャレンジする道もあるが、市場にはさまざまなサポートサービスやコンサルタントがいる。そういうコネクションも助けになるだろうし、市場の状況やEMへの期待について関係者と議論をする機会がふえれば、プレゼンテーションのスキルを高め、目的のEMPでチャンスを得やすくなるかもしれない。

 

新興マネージャーの道

前述のG氏は、最近米国では、新興ファンドマネージャーがファンドを立ち上げるには3つの道が一般的だという。まずはスピンオフ。大手運用会社で働く間に機会を作る。そして公的年金などのEMPに応募する、最後はFunds of Fundsとして大手運用会社などの支援をうける。道が平坦ではないのは、米国も同じだという。米国の公的年金や大学基金が提供するEMPは非常に魅力的だが、誰もがその機会を得られるわけではない。みな様々な道を探っている。

公的年金などが提供するEMPを別としても、このようなイベントをみるとその参加者数から、プレイヤーが多く多様で、層が厚いという点が日本との違いだと感じる。(もちろん日本でもプレイヤーが増えつつある)サミットでは35のセッションが設定されており、いくつかをみてみると、大学の投資クラブとしてはじまったあるファンドマネージャーの経験の共有や、2025年の市場の状況と資金調達の見通しに関するもの、ファンドのマーケティングについてと、さまざま内容をカバーしていた。このマーケティングのセッションでは、”新興マネージャーはまず3年以上の実績が必要”と解説しており、EMの苦労は何処も同じなのだと感じさせた。

少し変わったプログラムが目についた。朝の6時半から5キロ走るチャリティイベントだ。朝の空気の中で走りながら互いに知り合うことは、より結びつきを強めるかもしれない。このようなイベントが繰り返し開催されているというのは、やはり効果があるからなのだろう。新興やブティックファンドの強みは、ファンドマネージャーの顔がみえることだと、日本橋バリューパートナーズの高柳氏は語る。「大手であれば異動もあるが、新興運用会社ではそれもない」

人と人が知り合い、そこにビジネスが生まれるという世界が、この新興・ブティックファンドではより可能だ。これこそが、EMとなることの大きな魅力のひとつかもしれない。