投函者(三井千絵)

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AIは言われたことはできる、言われないことは?

 

 スチュワードシップ研究会はメンバーに向けた新春勉強会として、”投資家が知るべき「AIで今できること」”というタイトルの勉強会を行った。講師は野村総合研究所の金融AIプラットフォーム推進部の田村光太郎氏。先日もグローバルの大手運用機関が議決権行使判断をAIにまかせ、プロキシーエージェントの利用をやめるという報道があったが、それだけでなく企業分析や運用判断はどこまで託せるのか、それにはどのようなリスクが潜んでいるのか、また投資先企業のAI利用の可能性やリスクを判断するために必要な知識はなんだろうか。参加者数は通常の勉強会の1.5倍程度となり、機関投資家の関心の高さを伺わせた。

 

”AI”の基本

講演ではまず、昨今”AI”と言われているものについて、言葉の整理から行った。現在一般に”AI”と呼ばれているものの多くは、ここ2,3年盛り上がりを見せている「生成AI」を指している。これは2022年ごろChatGPTなどによって世に広まったが、それは一般の人々がデスクトップ(あるいはスマフォ)で利用できるようになったためだ。AIと呼ばれるものは、それ以前の2018年ごろから浸透をはじめたが、多くは特定の目的にあわせて専用に開発されていた。それ以前のソフトウエアなどと異なり自ら与えた情報を識別できるようになったことだ。それ以前に比べて大量のデータを自ら分類できるようになったが、依然として専門家が目的別に専用のデータを整理して準備する必要があり、導入にはコスト的負担も大きかった。そしてこれに比べて生成AIと呼ばれるものは、要求を与えると図やビデオ、文章といったコンテンツを自ら作成できるようになった。(さらに専用にデータを整理しなくても既存の情報を読み取れるようになった)そしてテキスト情報を膨大に読み込む(このロジックを大規模言語モデル=LLMと呼ぶ)ことで、例えば一般のニュースやレポートを読ませて、その”要約”をコンテンツとして作り出しすといったことができるようになった。

こうしたモデルは現在、様々なところで開発され利用されている。情報ベンダーや金融機関も、アナリストレポートや金融ニュースを読み込んで投資判断に用いるよう日夜取り組んでいる。

 

機関投資家のAI利用例

続けて講師は、AIの利用例について取り上げた。

まずは、情報収集だ。前述のグローバルの大手資産運用会社もそうだが、有報、統合報告書、決算資料、ニュース、Webサイトなどを読み込み、あらかじめ決められた条件で分類したり、レーティングをしてアナリストやファンドマネージャーの仕事の軽減することは、生成AIが登場する前から試みられてきた。しかし網羅的情報を検索し要約して文章で出力できるなど、利用価値は高まっている。またさらに、情報を出力するだけでなく、アナリストや投資家に対して人間のアシスタント的な業務を担う可能性も考えられる。

筆者もソフトバンクの株主総会でここ数年孫正義社長が、AIと対話をして事業のアイディアを産んでいると情熱的に語っていたのを思い出す。今回の講師も、アシスタントで留まらない可能性に触れた。過去のデータを読み、顧客の投資嗜好を聞きアドバイスを行うことに取り組む事例もあげた。

一方で多くの人が、実際ChatBOXなどAIヘルプデスクにイライラさせられた経験があるだろう。本当にAIが作成した要約や受け答えを信じていいのか、まだおもちゃ程度なのではないかと評価に迷うのが本音のところではないだろうか。

 

AIがまだうまく”できないこと”

機関投資家は同時にAIのリスクも知っておく必要がある。講師はリスクについても最後に伝えた、AIがより正確に振る舞うには膨大な正しいデータが必要だ。AIはネットのどこかにウソが書いてあっても、それがウソだと見抜けない。つまり専用ロジックでも入れない限りAIは「まにうけ」てしまうのだ。

不十分な学習データによって動作し、誤った情報や不適切な情報をアウトプットすることを”ハルシネーション”と呼ぶ。十分なデータを読み込ませればいい、といっても自分が教えた情報はそのまま共通の知識にされてしまうというリスクがある。また生成AIが”作り出した”コンテンツも、誰かの作ったものをそのまま一部コピーしてしまい、著作権を侵害するリスクもある。一方、社内の情報だけで学習させればAIも”いの中のかわず”になる。これらのジレンマを乗り越えていかなければならない。

いろいろ課題はあるものの、ひとつ誰もが生成AIの成長ぶりを感じられるのは翻訳アプリだろう。筆者はこの年末年始に、西安で乗り換えてウズベキスタンを旅行した。西安の空港では国際線のインフォメーションデスクに、英語のできない係員がいた。いきなりスマフォをつきつけられ、翻訳アプリで会話した。ウズベキスタンでも「トイレはどこか」といった会話を翻訳アプリでこなした。矢継ぎ早に国際的な緊張が高まる年明けに、何のストレスもなく他国の人々と会話を楽しめた。新年の日に”ユニバーサル・トランスレーター”が世界を少しでも癒すことを願った。