投函者(三井千絵)

アジア企業に投資する投資家団体、ACGA(Asian Corporate Governance Association (本部香港))は、2年に1度CG Watchというアジア国別コーポレートガバナンス達成度・ランキングを公表している。シンガポールと香港がトップを競っており、2016年は(注:オーストラリアを除いたランキングで)トップがシンガポール、2位が香港、続いて日本が3位、台湾が4位となっていた。 今回はオーストラリアを加えたランキングで、日本は7位に後退した。

CG Watch 2018: Hard decisions

このCG WATCHの結果を常に意識しているアジアのレギュレーターは少なくない。

 

10月中旬に台湾金融庁が主催したコーポレートガバナンスフォーラムでは、主催者は、直前に今年のランキングが発表されないかハラハラしていた。2年前の4位というランキングが既にいくつかのスピーチで引用されており、今年の結果が大きく下がっていたら内容を書き換えなければならないことを恐れてだ。また11月前半に、マレーシアで開催されたOECDのアジアン・コーポレートガバナンス・ラウンドテーブルでも、ホストであったマレーシアセキュリティコミッションは、今年の発表が気が気でならなかった。今このCG WAtCHは、アジア各国のガバナンス達成度の励みになっている。

今年のCG WATCHは新しい評価・フレームワークが導入されている。評価ポイントが95から121に増えており、これまでの評価の見直しも行われた。新しいフレームは7つのカテゴリから構成されている。
「1.政府、公的機関のガバナンス」、「2.金融規制の状況(制度面)」、「3.CGルール、関連ルール(制度面)」、「4.上場企業のガバナンスの状況」、「5.投資家(エンゲーメントなど投資家のガバナンス改善に関する活動)」、「6.監査、監査監督関」、「7.市民社会、メディア」となっている。
つまり、企業のガバナンスに対する対応だけではなく、規制当局の対応や制度、社会全体のガバナンスに関する考え方などが評価される。今年は特に、投資家の対応や、金融制度が追加になっている。

しかし日本がランクダウンしたのは決してあたらしい評価項目が足を引っ張ったというわけではない。むしろ「5.投資家」の点は高い。

11月13日、14日に北京で開催されたACGAの年次大会での休憩時間に、ジェイミー・アレンACGA代表は「日本企業は財務諸表の注記を、統合レポート等英文で用意されている報告書で、ほとんど開示していない」と苦言した。台湾では上場企業のうち外国人投資家比率が高いといった約300社に英語開示を義務付けることになった。シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムでも英語開示上位100社の開示資料のスコアリングを毎年行っている。そういった中で英語開示が圧倒的に少ない日本は見劣りするだろう。実際4の上場企業の点は低く、また6の監査のセクションでは、アジアの多くの国で既に導入されているKey Audit Mattersの開示が、まだ行われていないことも指摘されている。顧問の開示も始まったとはいえ、”開示しない”という選択肢があるほどだ。日本の開示は優れているとはいい難い。

 

日本企業のガバナンス改革は本当に前進しているのだろうか。日本企業の海外からの評価は、株価だけではなく、長期的には日本経済全体にも影響があるだろう。この7位への転落を重く受け止め、今後どのように対応してくことができるか、日本市場の評価向上に向けて官民力をあわせて取り組むべきではないだろうか。

 

(注:CG WATCHは過去オーストラリアをランキングに加えていなかったため、はじめてオーストラリアもレーティングした2016年には過去との比較のためオーストラリアを除いたバージョンと加えたバージョンが、場面にあわせて用いられていた。しかし2018年はフレームを変更したため、オーストラリアを含むランキングに統一された)