投函者(三井千絵)

株主総会の集中シーズン真っ只中だが、今年の株主総会には大きな変化を感じている。いくつか筆者自身が参加した感想と、今後への期待を述べてみたい。

 

オンライン株主総会の時代がやってきた

昨年も議論にあがりながら、実現まで進んだところは多くなかった株主総会のオンライン対応だが、今年は保有している銘柄で6月末に総会を行う16社中、なんらかのオンライン対応を行なったのは13社に及んだ。これまでは出席など考えたこともなかったが、オンライン開催となると「よし、リアルタイムで見てみよう」という気になり、そうして改めて同じ時間にいくつも開催されていることに気付かされる。テレワーク中の部屋のあちこちに置いた携帯端末やらPCやらで、それぞれ別の株主総会にログインし、眺めて回った。

いくつかのタイプがある。完全に視聴だけのもの、質問は事前に送ることができるもの、議決権行使もできる本格的な“オンライン出席”が可能なもの。自分の質問が取り上げられると嬉しくなったり、他の株主の質問とそれに答える経営者の態度に感心したり、怒ったりと様々な学びがあった。

 

オンライン出席可能な株主総会

オンライン出席可能と筆者が呼ぶのは、視聴するだけではなく出席者と認められ、その画面上で“株主質問”を行い、議決権を行使できるようなシステムを提供しているケースだ。筆者が出席したのは6月26日までで、Zホールディング、ソフトバンク、LIXIL。

Zホールティングの1号議案は来年から完全オンライン総会を開催できるようにするための定款変更。これまでオンライン出席を可能としてきた実績を述べ、「定款変更したからといってオンラインのみにすると、決めたわけではありません」と丁寧に説明する。事業報告はあらかじめ作成したビデオを上映し、会場の株主から先に質問を受け付ける。会場の質問はヤフーのサービスに関わることが多く、オンライン出席者の質問はLineとの統合の今後など経営に関することが多かった。比較的質問のハードルが低いオンライン出席者からの質問は、似たようなものをまとめていると思われたが、筆者の質問も採択された。

ソフトバンクでは配当議案について株主から修正動議が2件出された。たしかにその機能も画面上に表示されている。会社提案が賛成多数で、こちらを投票する機会はなかったが、入力画面はどうなるのか期待していた。完全オンライン総会になれば当日いきなり修正動議に投票する機会もでてくるだろうか。

今回はソフトバンクでもLIXILでも筆者の質問は取り上げられた。おそらく似たような他の意見とマージしていると思われるが、やはり質問ポイントはしっかり入っており、それぞれの経営の状況や経営者の考え方がより理解できたように思う。

 

視聴だけの株主総会でも満足

当初は「見るだけなら後で録画をみても同じ」と思ったがそれは間違いであることがわかった。他の株主がどう考えているか、またそれにどう経営者が答えるかも、リアルタイムで聞くことが理解に及ぼす力は大きいと再認識した。

TCFD開示に関する株主提案が提出された住友商事。同時開催がZホールディングであったため、前半はあまり注意を払えなかったが、Zホールディングが1時間ほどで終わったのにくらべ、住友商事は2時間以上かかった。株主の質問は、気候変動に関する株主提案ではなく、ほとんど業績についてであった。総会で質問するのは基本は個人投資家だが「これだけの特損を出しながら取締役全員再任とは何事だ」「報酬を減らしたと言っているが金額も書いていない」と経営陣にたたみかける厳しさは機関投資家に負けていない。これに対応する役員らの様子は実に会社の考え方や状況を表している。また「新任の取締役候補一名の姿が見えないがなぜ欠席なのか?」と候補者の姿勢を問うような厳しい質問もみられた。

ゆうちょ銀行では、会社法をよく知らないと思われる株主の質問にも丁寧に答える様子に好感がもてたが、一方ゆうちょ銀行から送られてきたというアンケートを(おそらく)手にして「個人情報の管理はどうなっているのか?」という株主からの質問に、コンプラ担当の役員がなんとか回答する様子はなかなか興味深かった。

伝統的に、株主の質問がどこか組合の団交のようになる日立製作所。オンラインになっても揺るがない。三菱に売却された事業について、工場に並ぶ三菱のマークに無念の思いを語る“株主”や、直前に売却が発表された日立金属について別の“株主”は、第2次世界大戦まで遡る歴史にふれ国家に貢献してきたはずと語った。これに対し経営者は「その通りだが、日立金属はこれからグローバルに発展するだろうし、我々にはその精神が残っている」と力説した。

 

あらたな機能、拍手ボタン

去年も数件オンライン株主総会に出席したが、たしか昨年は見かけなかった新たなツールに「拍手機能」が登場した。LIXILでは「興味を持たれたシーンで押してください」と説明があってクリックをすると他の人がこのタイミングでどれくらい拍手しているかもグラフで見ることができる。別の会社ではまるで「拍手」をクリックしている人をカウントしているような場面もあった。たしかに「拍手をもって賛成多数」とみなす必要がある時、正確な数でなくてもこの機能で本当に多いのかどうかを示すことは納得感につながる。

また当日は視聴だけでも、URLとパスワードだけを配るものと、株主IDを用いてログインさせたり(株主だけがみられる環境にする)事前に“株主質問”を送る機能を設けているところもある。後者では誰が出席していたか統計を取ることもできるだろう。ログアウトするとアンケートへの回答を求められるケースもあった。これらのデータは今後株主との対話に生かせるだろう。

25日に開催された三菱ケミカルでは、会場の株主の一人がわざわざ英語で質問をした。おそらく同社を定年された方と思われる株主は、三菱ケミカルがグローバルな企業に成長し外国人CEOを迎えたことが感慨深いと言い、ロストイントランスレーションという映画もあることだから、英語で質問したい、と述べた。またてんかんを患っているという株主からは、その治療薬に参入して欲しいという意見が出て、担当取締役は「この株主総会が終わった後最初の取締役会で提案します」と答えた。新しいCEOは様々な質問に熱弁を振るって答えたが、全ての議案が終了した後に、最後にゆっくりと日本語で株主に対してお礼を述べ、今後も見守ってほしいと語った。

オンライン株主総会は企業と株主の関係を、大きく変えるのではないだろうか。これもコロナ禍が後押しをしたのかもしれないが、日本企業を変える非常にポジティブな変化の一つであると確信している。