投函社(三井千絵)

 

OECDガバナンス原則改訂

10月20日、21日、OECDは3年ぶりのAsia Round Table on Corporate governanceを開催した。G20/OECDのコーポレートガバナンス原則は、日本を含め多くのアジアの国が参照しているが、今年2回目の改訂を行う。最初の改訂は2014年、日本のガバナンスコードができた後で、記憶ベースだがOECDの担当者が「(一年先に発表されれた)日本のコードにも影響を受けた」というのを聞いたことがある。実際世界各国でコーポレートガバナンスコードは、先に発表されたものをよく研究するので、そういうことはあっただろう。日本がコードを作った時も、有識者会議でOECDをはじめ英国や他のヨーロッパ各国で既に導入されているコードを研究していた。OECDの原則の今回の改訂は、10月21日まで意見募集が行われていたが、その締切の日にあわせてイベントが設置されていたわけだ。

Asia Round Table はやはり1999年からOECDがアジア各国のレギュレーターと合同で年に一度開催しているイベントで、アジア各国のレギュレーター、ガバナンス関係者などが参加している。OECDが行っている、アジア各国のガバナンスの状況に関するさまざまな調査レポートをもとにパネルディスカッションを行なう形式が多い。このイベントの包括的な目標は、アジア各国がG20/OECD コーポレートガバナンス原則に沿って、優れたコーポレートガバナンスを導入できるようサポートを行い、経済効率と持続可能な成長を強化するための一助となることだ。OECDにはさまざまな同じような取り組みがあるようだが、このイベントは日本政府の支援のもと行われている点もその特徴だ。

 

ガバナンスのを進捗を競い合うアジア

しかし、日本国内ではOECDのガバナンス原則の印象は薄い。改訂の時には、英国など他国のコードも話題になるが、通常は日本のコードだけが注目されれている。もちろん自国のコードが十分にグローバルスタンダードであれば、あまりあれこれ見る必要はないかもしれない。しかしグローバル企業で、EUやUKに拠点がある企業は、現地のコードも意識しているのではないだろうか。

実はASEAN各国では、それぞれ自国のコードだけではなく、OECDの原則を常に意識している。それはそのような評価プロジェクトがあるからだ。ADBとASEAN資本市場フォーラム共同が2011年から行っているイニティアティブで、ASEAN CORPORATE GOVERNANCE SCORECARDというプロジェクトがあり、ASEAN5カ国(シンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン)が各国100社ずつ、ベトナムが50社選び、各国のレギュレーターでそれらをスコアリングし、その各国比較、経年比較を通して各国のコーポレートガバナンスの成果を評価している。この時のスコアづけには、企業の開示書類をもとに、OECDのコーポレートガバナンス原則、また国際的に用いられている類似のコード(ICGNのコーポレートガバナンス原則)が求めていることを企業が実施しているかどうかを評価している。大きく5つの分野があって、A株主の権利、B株主の公平な扱い、Cステークホルダーの役割、D開示と透明性、E取締役の責任となっている。

このプロジェクトではまず2011年から2016年まで5年連続で評価を行い、その総括を2017年にレポートとして発表した。その後一年中断し、再度2019年に評価を行い再度レポートが発行されたのはパンデミックに突入した2021年だった。最新のレポートでは合計6か年(中断をいれて足掛け7年)の6カ国の進化を見ることができる。

評価する項目は2016年までは179項目あった。2019年には見直しを行い、設問数を減らしたり、ウエイトを変えるといった調整が行われた。また2019年にはベトナムの評価対象企業数が(その急速な成長に応じたためか)増えていた。

レポートをみると、多くの項目でタイとマレーシアがトップになっているが、過去6年で6か国の順位自体はあまり変わることはなく、しかし各国毎年いっしょにスコアを伸ばしている様子を見ることができる。このプロジェクトはRound Table中にもなんども引用され話題になった。この6カ国はスコアを互いに競い合うことで、自国の弱い点や強い点を分析している。スコア結果を見て怒ったりせず、結果を真摯に受け止め、このようなイベントの場で共有し、今後の取り組みのベースとしている。

 

足踏みさせられた日本

これはASEANの取り組みであり、東アジアは対象外だが、日本ではコーポレートガバナンスコードを導入して8年、その進捗について政府が他国との比較を意識する・・・ということはあまり聞かない。たとえばもし日本、韓国、中国、香港、台湾でこのような評価を行ったら、どのような結果になるだろう。まず対象企業は英語開示を行っている必要がある。香港を除いて、各国これは苦手とする企業が多いのではないか。現在有価証券報告書を英語で作成しており金融庁のEDINETで紹介されているのは40社ほど。どの国もビジネスにおいては他国に事業領域を広げ、競争をしているのに、ガバナンスの取り組みや開示を他国と比べようという議論にはなかなかならないのが現状だ。

日本企業にはもともと国際的な比較に消極的な傾向があったが、コーポレートガバナンスや企業開示においては、コロナ禍による隔離がその傾向をさらに強めているかもしれない。多くの企業のCEOは過去3年間、海外投資家に直接会い、面と向かって話す機会がなかっただろう。今年に入ってから次々と外国人に国境を開く国が続く中、日本は10月までビザ免除を停止し、搭乗前のPCRテストをもとめ、さらに国内ではマスクの着用を求めてきた。(マスクは現在もだ)ある意味投資家とのコミュニケーションという意味では、非常にマイナスだ。そうでなくても英語開示も少なく、他国との比較の習慣も少ない国が、海外の投資家と直接会う機会が経れば、さらに理解は難しくなる。

しかし日本政府は10月11日、ついに全ての外国人の新規入国について、日本国内の受入責任者による入国者健康確認システム(ERFS)における申請の要請をとりやめ、ビザ免除措置も再開した。これで先行国に半年遅れる中、海外投資家を含むビジネス客も、日本からの出張も、ずっと行いやすくなった。とはいえこれまでの日本の対応は、海外の投資家やビジネスマンから嫌気をさされていないか、と気になっていた。そのような中ハノイで開催されたAsia Round Tableで、筆者も顔を見合わせることの重要性を再認識し、特にASEAN各国の前向きな取り組みに焦りを感じたのだった。

 

日本へ向かう人たち

ところが会合では、意外な事実を知ることになった。参加者の一人の米国人投資家は成田トランジットでやって来ていた。「帰りのトランジットは10時間待ち合わせがあるんだ!」と嬉しそうにいう。「ネットには“10時間、7時間のTokyoトランジットでできること“という情報が山ほど出てる」と やや“イベントそっちのけ”で東京での10時間をいかに過ごすか詳細な計画をたてていた

思い返せば出国日の空港は、お土産を求める外国人で非常に混み合っていた。免税店には買い物かごをいっぱいにした外国人観光客が、会計を待つための長い列を店舗の外まで作っていた。自分はコロナ中の誰もない空港から出国をした経験があったので、比べると3年前の「いつもの風景」が戻ってきたようで感慨深かった。店員さんに「なんだか、懐かしい混み方ですね」と話しかけると「もう2日ぐらい前からずっとこうなんです・・・」と笑顔が返ってきた。一風堂の前では、東京での最後の思い出にラーメンを食べようとする外国人が延々と並び、「離陸前に食べられるのだろうか・・・」と心配したほどだ。イベントが終わって帰国時にも新しい光景があった。トランジット客を先に卸し、入国者は手続のために後から降りる。これまでは外国人がおり、日本人は黙って待っていた。今回は外国人も大勢いっしょに待っていた。ゲートのところで同行者を待つ人だかりができ、若者5,6人のグループが、「まず有名なShibuya Crossingに行って・・・・」と話す声が聞こえた。

 

ガバナンスも開示も他国といっしょに

日本円がどんどん下がり、日本株に投資している外国投資家も楽ではないだろう。しかしそれでも多くの投資家からありがたいことに「日本に行きたい」という声を聞く。ビジネスも投資も人が行き交うことから始まる。感染のリスクはまだ小さくないかもしれないし、これからもずっと続くかもしれない。しかしそれは他国の人々と一緒に乗り越えていかなくてはいけないことなのだろう。ガバナンスも開示も、そしてコロナ禍からの経済回復も、ドアを閉じずアジア各国の人たちといっしょに取り組んでいくべきだろう。

ガバナンスコードは改訂したばかりだが、今最も議論されているサステナビリティ開示においても、アジア各国で取り組みがある。ASEAN各国に負けないよう他国の状況も知り、そこから学び、そして競い合う、そんな取り組みが日本でもできたらと思う。