投函者(三井千絵)

 

企業会計基準委員会(ASBJ)と金融庁のメッセージ

緊急事態宣言が解除されて1ヶ月たち、東京都では感染者数の増加が気になり出した6月26日、ASBJは「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」というメッセージを更新した。前半はコロナ禍での会計上の見積もりについてのこれまでの解説が載せられているが、後半に新しく四半期決算における考え方が追加された。

そこでは、「四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、それを開示する必要がある」と述べている。そして特徴的な点として、「四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断されるときは、その旨を記載することが望ましい」と述べている。

その翌週の7月1日には、金融庁のサイトに「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」というお知らせが掲載された。ここではASBJのアナウンスメントを取り上げ、会計上の見積もりの仮定については四半期においても重要な情報であると、金融庁としても強調したあと、続けて非財務情報においても、「事業等のリスク」における新型コロナウイルス感染症の影響や対応策の変更、「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況」における新型コロナウイルス感染症の影響による経営方針・経営戦略の見直し等があった場合は、記載をするよう求めている。

 

四半期報告書での開示に対する投資家の意見

これらの立て続けに出されたアナウンスメントには、日本の投資家の中には驚いた人もあったのではなかろうか。近年、四半期開示や四半期報告書については、金融庁の審議会やワーキンググループが開催されると、必ずネガティブな意見が出されてきた。今回も、有価証券報告書の提出期限が延長されたこともあり、「第一四半期報告書はいらないのではないか?」、「これを機に四半期をやめてはどうか」というコメントがSNS上でもいくつか見られ、不安を感じながら状況をみていた投資家もいただろう。実際、決算や監査の作業が困難であることから、有価証券報告書の提出を遅らせなければならなかった場合、その後すぐにくる第一四半期報告書の作成時間は更に圧迫されることは、ASBJや金融庁はよく承知しているに違いない。

そのような中で今回のメッセージについて何人かの投資家、アナリストに意見を聞いたところ、みな「よくぞ言ってくれた」という声だった。

投資家、アナリスト側も慣れないリモートワークを組み合わせての議決権行使やエンゲージメントのピークを終え、もしかしたら“第一四半期は、そこまで細かく開示しなくても・・・”と感じているかもしれない、という一抹の思いもあった。しかし逆に今だからこそ、重要な情報は開示すべきという意見はぶれていないようだ。

「見積もりの前提や根拠、詳細などをシッカリと開示して頂くことが投資家にとっては何よりも重要です。四半期については決算発表自体の必要性はそれほど感じませんが、むしろ会計上の見積もりに変更がある場合などは、フォローアップして貰いたいと思います」と、ある投資家は述べた。

 

会計上の見積もりは経営者のメッセージ

 「自分は実は四半期報告書を廃止しても、主要指数だけ月次で出してほしいと思っています」というアナリストも、「会計上の見積もりであれば、一定の前提を置けば可能だと思うので、出しいて欲しい」と考えている。前述の投資家も「最終的な売上や利益の数字がどうなるか、はあまり重要ではない」といいながら、会計上の見積もりの変更は報告して欲しいという考えだ。

別のある投資家団体の代表は、「今年の4-6月は、コロナの影響がフルに反映している。だからこの時点で、今後の自社の経営環境を経営者が見直すことは重要だと思う。その結果“見積り”を見直す必要があるのであれば、やはり開示すべきだ」と、開示そのものより経営者が経営環境の変化を見直す必要があるという点を強調した。更に「前期決算の有報をこれから公表する会社は、その注記などに現在時点での見積もりの仮定を開示すべき。さらに、その後に第一四半期の開示を行う場合、その時点で経営環境がさらに厳しく変化しているという判断なら、四半期決算でも修正すべきだと思う。特に今年は、経営環境をどう判断しているか、経営者のメッセージが最も重要なので、そこをしっかり説明してほしい」と述べた。

 

コロナ禍において、開示を強化すべきというのは最近の状況からは金融庁もASBJも簡単ではなかったかもしれない。しかし英国のFRCなどは、今こそ資金がスムーズに供給されるよう、開示を強化しなければならないと3月から力説してきた。(「英国市場規制当局、現状下で求められる開示のガイダンス公表」参照)だから上記の2つのメッセージは、ある意味、ほっとした。

世界中が困難と向かい合っている中、日本でも他国に後れをとることない開示が行われるよう、引き続きすべての関係者の努力が望まれる。