投函者(三井千絵)

 

欧州版サステナビリティ報告、プロトタイプ

欧州で企業開示を担う機関European Finical Reporting Advisory Group(EFRAG)は、EUの次期企業持続可能性報告指令(CSRD)の元になるワーキングペーパーを作成しているが、その一部を9月8日に発表した。CSRDは非財務開示指令(NFRD)の後継で、NFRDで指摘されていた比較可能性等の改善に立ち向かう。

このワーキングペーパーは、EFRAGの下で全欧から集められたエキスパートで結成されたプロジェクトタスクフォース(PTF-ESRS)が作成している。6月9日に活動を開始して3ヶ月、このワーキングペーパーの発表はプロジェクトの透明性のために行われ、現段階では、コンサルテーションを行うわけではない。

ワーキングペーパー冒頭には、PTF-ESRSではCSRDが扱う情報を9つにグルーピング(各グループはClusterと呼ばれている)した、この気候変動の領域はそのうちの1つCluster2であることが書かれていて、「Climate Standards Prototype」という名称になっている。“プロトタイプ”と聞いて思い出すのは、今IFRS財団の下でサステナブル報告基準(ISSB)の設立に向けて作業を進めているWGが議論のたたき台にしている、Prototype climate-related financial disclosure standardだ。昨年の12月にCDP, CDSB, GRI, IIRCとSASBから発行され、近々更新されるということから、ISSBの動きを意識してこの時期に発表したように感じられる。

 

この欧州版プロトタイプの内容だが、そのP10によると、開示コンテンツをまず3つの章に分け、その内訳を10の小分類にわけている。大きな章は「1.戦略」「2.実装」「3.パフォーマンス」だ。1についてはその下に「事業戦略と気候」、「気候インパクト、リスクと機会」、「気候ガバナンス」の3つを設置、2については「ポリシーとターゲット」、「行動とリソース」、3については「エネルギー消費」、「排出量スコープ1、2」、「排出量スコープ3」、「EUタクソノミ、サステナブルな活動」「物理リスク、トランジッションリスク、機会に対する財務的エクスポージャー」の5つの小分類が置かれている。

そしてこれらの項目について、どのようなことを開示すべきかが記載されている。場合によってはその開示要件はTCFDや、GRIやCDPの要件が元となっていることが付記されている。

たとえば「事業戦略と気候」の中のある項目では、「気候関連のリスクと機会が経営陣の戦略と意思決定へのインプットとしてどのように役立つかを説明してください。」という項目が設定されており、その注記欄に「TCFDに基づく」と記載されている。中にはISSBのWGが議論の土台にしているプロトタイプを指している項目もみられる。

EUらしいと感じさせられるのがタクソノミ適合性の開示だ。TurnoverやCapex, Opexについてタクソノミ適合する割合の開示が求められている。

その他、Cluster 1は現在、報告領域「戦略」と「実装」に関する分野横断的な基準を開発しており、このプロトタイプでは、追加の気候関連の開示に限定されているということが記載されている。他のClusterの分担に関する情報はここには記載されていないが、現在EFRAG PTSは更なるメンバーの募集をおこなっており、ここでは分類は11(注)に増えている。

 

EFRAGの役割

EFRAGは現在、IFRSの欧州におけるエンドースメントの責任を追っているが、同時にIFRSが生まれた歴史を振り返れば多くの貢献をし、今でも様々な意見の異なるEU加盟国のステークホルダーの意見をまとめて、IASBの基準策定に貢献している。

PTSのある委員は、「自分は政治的な考えは全くないが・・・」と強く強調したあと「EFRAGのほうが現時点でISSBより検討はずっと進んでいる。これはEFRAGには、すでに法定化されたデッドラインがあるからだ。企業が2023年の報告(つまり発行は2024年)から新しいCSRDに基づくため、2022年中にはできていなければならない。欧州議会への提出があるので、実際は2020年の中頃までに完成させなければならず、つまりあと1年しかない。EFRAGのプラットホームでは、Coreコンピタンスとして環境、社会、ガバナンスと3つの軸を持った議論を進めており、また構造はSector specificで、SMEもカバーしている。これに対しISSBの議論は始まったばかりで気候変動がやっとの状態。このギャップは大きい」と感じているそうだ。

もちろんEFRAGとISSBが競争をするものではないが、ISSBは大きな企業(上場企業)の気候変動に関する開示から着手し、おそらくIFRS同様原則主義を重視し業種別はあまり踏み込まないだろうと思われており、そのためにEFRAGが検討方法を見せたいと考えるのは妥当だと感じているようだ。

法律に基づく開示の議論をしているEFRAGは、もちろんISSBより進んでいるだろう。しかしISSBにはEFRAGにできない役割がある。財務情報と整合性がとれた開示を作るという点だ。また今の状況を鑑みれば、気候変動に集中した議論をすることも妥当で、EUだけが対象となるEFRAGと異なり、グローバルで様々な経済状況の国が適用してもいいように考えなければならないISSBは、ISABと同様”原則主義的”な設計をしていく必要があるだろう。だからEFRAGは逆にGやS、全体構成について早くそのビジョンを示す方がいいだろう。それらを未だ着手できないISSBにとっては、きっと議論の助けになるはずだ。この2つの、これまでグローバルに開示を牽引してきた団体には、ぜひお互いの考えをオープンにし、世界の議論を牽引して行って欲しいと思う。またそれについて日本からもよく情報を収集し、機会があれば議論に参画していくべきだろう。

 

 

(注)9月15日まで募集していたEFRAG WGの新しい11のグループは以下の通り

​- Conceptual guidelines
– Cross-cutting standards
– Environment – Climate
– Environment – Other
– Social – Workforce
– Social – Other
– Governance+ – Governance
– Governance+ – Other matters
– Sector-specific standards
– SMEs
– Format