投函者(三井千絵)

 

サステナブル・ファイナンスの新たな戦略

新型コロナウイルス感染拡大の中、欧州サステナブル・ファイナンスの議論が一歩進んだ。3月9日にテクニカル・エキスパート・グループの最終報告書を発表した欧州委員会は4月8日、新たなコンサルテーションを開始した。

これは、”新たなサステナブル・ファイナンス戦略”と呼ばれており、今年の秋に向けて完成させていくグリーンディール政策の、ロードマップとフレームワークを検討するために行われた意見募集だ。従って102問にも及ぶ設問を並べたコンサルテーション・ペーパーは、テーマごとに章分けされ、これまでのサステナブル・ファイナンスの現状分析と課題提起、続けて欧州委員会が次に取り組むべきことについて意見を問うている。7月15日にクローズしたこのコンサルテーションは冒頭コロナウイルスの感染拡大について触れている。EUはこれまで数年サステナブル・ファイナンスに取り組んできたが、特に進行中のCOVID-19のOutbreak(感染拡大)は、社会のサステナビリティや回復力の重要性を示したと述べている。これは特に、気候や環境への影響が拡大するにつれて発生する可能性が高くなっている、将来的に同様の健康上の緊急事態のリスクを最小限に抑えるために必要だと言っている。そして、特に最近の集団発生の多く(SARS、MERS、鳥インフルエンザなど)は、絶滅の危機に瀕している野生動物種の違法取引や消費に関連している可能性があり、専門家は、温暖化する気候と相まって、劣化した生息地が病気の伝染の高いリスクを助長する可能性があると示唆している。これは一見、これまで脱炭素社会一辺倒だった議論を、他のリスクへ広げるかのように見て取れる。パリで上場企業にサステナブル・ファイナンスに関する支援をしているL氏は自身のブログの中で「気候変動と生物多様性の枯渇の関係が公式のコミュニケーションではっきりと強調されたのはこれが初めてだと思う」と指摘していた。

このコンサルテーションに、投資家等マーケット関係者で集まって、日本から回答することを試みた。(リンクは回答時に添付したもの)

まず事前に有志のグループが、コンサルテーションを熟読し、グローバルな問題であるため日本からも意見を送るべきと思われる設問を抽出、それについて意見交換した。そこでは、気候変動の問題に取り組む姿勢そのものにはなんの異論もないものの、方法論において主導権をとるべきは市場なのか、政府なのかといった点がクローズアップされた。

 

102の設問、欧州が取り組むべきことは?

最初の数題は金融セクターと経済がもっとサステナブルになるために全ての関係者に向けられた設問だ。この中に“投資家が、企業に環境に良いことをするよう更にエンゲージメントをしたり、環境に良くないことをする企業に投資しないようにするためにEUがするべきことは何か“といった設問だった。それは重要なことであるがあくまでも個々の投資家が判断をして行うことなので、EUが特に何かするものではない・・・と回答した。

次の大分類は専門家への設問でまずは企業開示だ。まず“EUはESG情報を集めた誰でもアクセスできる無料の共有プラットフォームの構築をサポートすべきか?”といった問いがあり、続けて減損の会計について、“企業変動のリスク測定に置いて妨げとなるものはあるか?”と聴いている。その他、現状のESGデータやレーティングのクオリティについても質問がある。これらについては、ESGの開示レベルが安定していないなかで情報ベンダーの役割は大きいがやはりデータの信頼性や透明性が十分でないことはESG投資の発展の障害になっていると回答した。一方で政府による無料のデータベースというのは現実的だろうか、そういうものができると情報が画一的にならないかという疑問も呈した。

次にサステナブルなアセットや金融商品に対する定義や基準、ラベルに関する質問で、まずグリーンボンド関連で、“格付け機関を規制すべきか、目論見書の開示を強化すべきか”と聞いている。そしてその他の投資、例えば投資ファンドや、エネルギー効率化に取り組む住宅ローンなどにも“ラベルを用意すべきか”という問いが続く。格付け機関に対する規制以外は賛成をした。ラベルや開示の強化は情報の透明性を高めるかもしれない。

次はコーポレートガバナンスに関する問いだ。“役員報酬の一部を非財務のパフォーマンスに連動させるべきか?”、“機関投資家が器用の環境や社会に対する戦略、あるいはパフォーマンスに関することに議決権を用いることができるよう何か取り組むべきか?”、“指数がESGを考慮しなければ長期投資として問題があるか?”。

その後、“金融アドバイザーが個人投資家のサステナビリティに関する嗜好に応えられるようガイダンスがいるか?”、“R&Iプロジェクトにどうしたら投資ができるか?”、“EUタクソノミはグリーン化に本当に役にたっているか?”、“民間投資家がエマージング市場にサステナブルな資金を提供する際の障害は何か?”、ブラウンタクソノミのニーズといった問いもある。最後の方に“Prudential regulationを超えて、EUは保険会社を動員してトランジッションに資金を提供し、気候および環境リスクを管理するためにさらなる行動をとるべきだと思いますか?”といった質問、また“平等な競争の場を確保しながら、ESGリスクをより効果的かつ迅速にPrudential regulationに組み込む必要があると思いますか?同意する場合、よりリスクセンシティブな扱いをしても問題ないアセットクラスは何ですか?ま多銀行部門の役割を健全に、これに役立たせる方法はありますか?“といった設問もあった。

 

開示の透明性向上と投資家が判断することの重要性

我々の回答は全て、出来る限り開示は良くして欲しいが、簡むやみに規制をいれず、投資家が自ら考えて決めること、投資家は気候変動が重要だとわかっているが、受託者責任との関係も考慮する必要があるという点が強調された。

参加者からは、冒頭でCOVID-19のアウトブレークに代表された他のリスクにふれながら、実際はほぼ脱Co2一辺倒であったコンサルテーションの設問に対し「もちろん気候変動への対処が重要だとは承知している。しかし、いま様々なことが起きており、我々はいろいろなことに対処しなければならない」という意見があがった。同じゴールに対し、対応の仕方は色々ある。それらを様々な投資家が、様々な価値観において、それぞれで判断し、結果として望ましい方向がみえてくる・・・そんなやり方である方が、社会の回復力はきっと高いだろう。もしルールが多すぎれば、市場の“選択をする”という機能が失われるのではないか・・・、という見方が共有された。

その一方で優れた透明性、質の高い開示の実現は、レギュレーターの力の見せ所だ。投資は選択であり、よりよい投資判断が行われるためには、全体の開示レベルの引き上げが必要だ。今年日本でも、金融庁がコロナ禍でも引き続き適切な投資判断を支えるため、開示の要件について異例なほど次々と企業向けにメッセージを送っていた。もし逆に、投資家に“XXは地球温暖化対策のために重要な事業を背負っているため、コロナ禍で事業の状況が悪くなっても売却するべきではない”といったプレッシャーを与えていたら、それは間違っている。様々な状況を調べ、他の同じような効果のある取り組みをしている企業の有無も含めて投資家自ら判断をする必要があり、それを支える情報開示を整備すること、それがレギュレーターの役割といえる。

 

日本から意見を送ることの意味

欧州のコンサルテーションになぜ日本から回答するのか?それは、海がつながっているように、市場は今や互いに接続し、その境界に壁を築くことは難しいからだ。今や英国あるいはEUのアセットオーナーが日本株に投資をし、その一部は日本の運用会社経由で運用されている。同時に日本の投資家は欧州のアセットオーナーをクライアントとしてもち、彼らは全ての運用に対し、同じ対応を求めるだろう。たとえコロナ禍でヒトは移動できなくても、資金は国境を超えて移動し続けている。日本ではいまだ海外投資家よりも日本人投資家の保有率のほうが大きい企業が大半だが、欧州では既に逆になっている。だから欧州では他国からの意見を歓迎しているし、日本からも意見を言うべきだ…そのように考えたからだ。

コンサルテーションはクローズされ、あとは集計結果を待つばかりだ。他の地域の投資家が何と答えたか興味深い。既に我々が送ったコメントについて、英国やEUの投資家から“共感する”というコメントを貰った。サステナブル・ファイナンスへの取り組みは今後も続くだろう。引き続き、日本から意見を発信していければと考えている。