投函者(三井千絵)

 

ISSBの活動費は?

IFRS財団のもと、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立に向けて様々な取り組みが行われている。IFRS財団は「国際的なサステナビリティ開示基準の策定に、IFRS財団は役割を担うべきか?」と問うコンサルテーションを昨年の9月末から12月末まで行い、世界中から600件ほどのレスポンスを受け取った。そして今、ISSB設立準備の活動が行われている。作業にはIOSCO(証券監督者国際機構)やIASB(国際会計基準審議会)、TCFD、そしてグローバルで非財務の開示基準を策定しているIIRCやSASB、CDSBも参画している。

このISSBはIFRS財団の下、現在のIASBとは別に設置することになっている。そして昨年のコンサルテーションの時から、この活動資金はどうするのかという点についていろいろな意見が出されていた。現在IFRS財団が集めている資金は”国際会計基準”を開発するために提供されるものだ。日本は2020年度、拠出合計額の11.4%にあたる206万ポンドを分担しており、これはFASF(財務会計基準機構)加盟上場企業、監査法人、経団連等から提供されている。資金の問題に注目が集まるのは、資金の拠出と基準開発におけるリーダーシップが微妙な関係にあると多くの人が感じているからかもしれない。IFRS財団は7月末まで、IFRSのConstitutionにISSBに関する条項をセットするための改訂のコンサルテーションを行なっていたが、新しいボードの地域の分担などについて様々な団体が意見を送っている。

 

カナダの提案

7月23日、カナダ副首相は、カナダ政府と55を超えるカナダの公的および民間機関を代表しIFRS財団に書簡を送った。これはISSBの運営の初期期間を完全に支援するためのシードキャピタルの提供の提案だった。カナダは、IFRS財団の基準設定業務の独立性を認め、資金及び暫定的な施設の提供を申し出た。国際機関の事務局を誘致することは、多くの金融都市が競い合っている。IFRS財団とIASBはロンドンに、IOSCOはマドリッドに、OECDはパリに、東京にもIFIARの事務局がある。カナダはISSBに資金と拠点を提供すると、今、手をあげた・・・ということだ。

ISSBの新基準については、グローバルに最も採用されている開示フレームのIIRC、SASBが参画し、今各国で義務化されていくTCFDと一緒に議論していることで、やっと非財務開示も本格的な統合に向けて始動した・・・と歓迎されている一方、EUでは引き続きEFRAGがサステナビリティ開示基準の議論を進めており、また米国SECも独自の開示ルールを策定する可能性が否めない。もちろん国際サステナビリティ基準ができても、すぐに全てがカバーできるわけではなく、非財務のカバー領域は広いので、各国で引き続き自国ルールが必要な面もあるだろう。とはいえ、現在IFRS財団はロンドンにオフィスをもち、唯一の支部は東京にある。東京のオフィスはアジア・オセアニアオフィスとして、アジア・パシフィックエリアを管轄する。北米大陸をみると、米国では会計基準もIFRSではない。もちろん米国基準とIFRSの同等性に関する協議は行われているが、今後ISSBの拠点が北米大陸にできるということは、両者のコミュニケーションにとっても良いことかもしれない。

 

日本からの書簡

9月2日、FASFのHPに「IFRS対応方針協議会よりIFRS財団評議員会議長に宛てた書簡」が掲載された。IFRS対応方針協議会とは国内の関連機関、ASBJ、金融庁、経団連、JICPA、JPX、アナリスト協会、経産省、法務省で構成されている。書簡では、カナダの提案を歓迎しつつも、日本からもGDP 比に応じた一定割合など、応分の負担に基づき継続的に拠出を行う意向を表明した。また同時に複数の国がこれに続き拠出をすることが望ましいと述べている。さらにカナダに本部ができた際も、IASB同様日本にあるAOオフィスがISSBのサポートもできるのではないかと提案している。

サステナビリティの基準開発において、日本からも責任分担を自ら名乗りでていくことは、日本市場の発展のためにも非常に良いことといえる。しかし一方で日本は未だIFRS適用企業は多くない。見渡せばアジア・オセアニア、EU、カナダ、アフリカと世界中でIFRSが採用されている中、ほとんどの日本企業がIFRSでないことを忘れている海外の投資家もいる。もちろん日本基準もIFRSとの同等性を高め、そろそろほとんど同じといえるかもしれないが、知られていない違いが表面化すると、海外の投資家との理解においてはマイナスとなる。ISSBが設立され、新基準ができた時日本は採用する方向に向かうのだろうか?採用する場合、どのように適用されるのだろうか。今後、そういった議論も国内で高めていく必要があるだろう。