投函者(三井千絵)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、政府は2月中旬に”不要不急の集まり”を自粛するよう呼びかけ、3月からは全国の小中学校を休校にした。2月の上旬からまずは中国への、続けて全面的に出張を停止する企業も相次いでいる。このような中でも決算、そして株主総会に向けて投資家と企業の対話は続く。今年は特に、このような事態に企業がどう対応していくかも、株主総会に向けて経営者の姿勢を問う重要な要素となるだろう。

そのような中、筆者は投資家・アナリストに緊急でアンケートを実施した。3月11日時点で、25名から回答を得ている。今、いくつかの企業ではWeb化、電話会議を導入し始めているが対応は十分か、課題は何かなどを聞いた。その中で見えてきたのは、そもそもアナリストや投資家と企業の対話にも業務効率化が求められており、時間が取れなかったり、遠隔地にいる投資家にも公平に情報を伝える必要性が高まっている、ということだった。

まだ回収を締め切っていないため、以下の集計結果は今後も更新するつもりだ。多くの企業に参考にしていただけたらと思う。

 

エンゲージメント・ミーティングの電話への切り替え

回答者のうち1名が全面的に電話に切り替えたと回答、7名は「ほとんど切り替えた」、15名が「一部そうした」と回答した。実際3月に入ってからはキャンセルも相次いている。海外在住の投資家からは、もともと電話が多いが、できれば訪問して会社の雰囲気を知りたい、という本音も聞かれた。

電話への切り替えには、12名が「特に問題がない」としているが、一方7名は「設備が十分でない」、「できれば顔をみて話したい」、「電話ではなくビデオにして欲しい」という意見を述べた。決算説明会などはWebを用いても、One-on-Oneのミーティングをビデオで開催しているところは、まだ多くないのかもしれない。電話では、資料の対応箇所の確認が難しいという点も3人が指摘した。さらに電話だと本当に聞きたいことが聞き辛い、長電話だと申し訳ないと感じるという意見もあった。慣習かもしれないし、年代によっては新人の頃電話代が高く「電話はXX分以内」という教育を受けたかもしれない。また数人でディスカッションするには電話は向かない、という意見もみられた。

 

決算説明会のWeb化について

来たる決算期に、決算説明会にはWebを導入して欲しいかどうか、という質問に13名がそうして欲しい、11名がケースによると回答、1名がそうして欲しくない、と回答した。導入に賛成でも反対でもWebの場合は経営者の顔が見えるようにして欲しい、という意見が4人、途中の接続によって生じるノイズの制御や、主催者側の強制Mute、アクセスが集中した時の対策、資料のダウンロード機能の整備、そして参加者が発言する時「挙手」のような機能が備わっているシステムを採用して欲しい、といった意見が10人からあがった。他にも何人ぐらいログインしているかわかるようにして欲しい、というものもあった。

そして重要な点として「今回のことを契機に決算説明会は全てWeb方式にしてほしい」という意見がけっこう見られた。Web方式に積極的な意見としては、例えば過去の資料やビデオもそのままアーカイブとしてWeb上に保存できるだろうし、そうすれば透明性が高まり、企業と投資家双方にとって情報のやりとりが明確になりメリットが大きい、という指摘だ。遠隔地、海外であったり、他の会議と重なっていたりしても逃さず聞くことができる。すでにHPに録画を出している企業があることを歓迎しながらも、Q&Aをカットしている例があり「Webで公開することはむしろ情報のフェアネスの観点で重要。このような状況でなくても取り組むべきだった。従って一部を除外すべきではない」という指摘もあった。

また「今回、業務がかえって効率化したと感じるところもある。ぜひこのままWebでのコミュニケーションを強化して欲しい」といった意見もみられた。

 

新型コロナウイルス対応で、企業に望むこと

投資家やアナリストは当然ながら、この状況下で投資先企業がどのような対応をするか、どのような事業へのリスクを認識しているかについて注目している。

企業に望むこととして「状況にあわせた迅速な対応(必要があれば休園・臨時閉店、必要な商品の継続的な供給etc)」を選んだ人が最大の17名、次が「従業員をケアしてほしい」の15名であった。個別意見に「テレコンに移行せず、従業員にリスクを負わせる経営はESGの観点でどうか」、「ネットオークションでマスクの出品を来週から停止にするところがあるが、もっと素早い行動が必要で企業としての倫理観が問われる」といった声が得られた。

続けて14名は「想定されるリスクの適切な開示」を求め、9名は「サプライヤーへの配慮をしっかりしてほしい」と回答した。「状況が刻々と変わっているので対応方針、営業活動やサプライチェーンの状況をできるだけ頻繁に開示してほしい」、また「(サプライヤーに多いであろう)中小企業の対策を国はとるべき」という意見もあった。

 

企業のあり方が問われる時

現在感染は世界的に広がっている。遅かれ早かれ、国内の従業員やサプライヤー、顧客だけでなく、海外の状況も事業に大きな影響をあたえるだろう。しかしだからこそ、企業のあり方が問われる時といえる。あるアナリストは「これを機に電子化の促進、リモートやフレックスといった働き方の改革、労働時間より結果重視の人事評価などを取り入れ、長期的な企業競争力の強化に繋げて欲しい」と訴えた。

これまで日本では、コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードから始まり、海外の動きにあわせて様々なESGの議論を高めてきた、今、実際の大きなリスクに向かい合いそれぞれ企業がどのように行動できるか、それを投資家はどう理解し、必要に応じて意見を述べていけるか、いまこそその真価が問われると言える。