投函者(三井千絵)

 

EUがサステナブル・ファイナンスの具体的な取り組みを始めてから3年。これまでEUは、“パリ協定”順守を目指し、それに貢献する事業への投融資をするための枠組み作りを行ってきた。最初のアクションプランで挙げられたのはタクソノミ作成。これは各産業ごとにCO2削減によりパリ協定順守に貢献できる事業であるための条件が、ずらりと詰め込まれている。

今欧州の企業は、自社の事業がこのタクソノミに記載された条件に合致しているかどうかが問われ、今後開示が求められる。また欧州の投資家側にもポートフォリオの企業がどれだけタクソノミに適合しているかの開示が求められ、欧州の企業でなくても、来年ぐらいからタクソノミの適合度合いをEUの投資家に伝えなければならなくなった。

タクソノミには主に2つの目的がある。1つは企業に気候変動の対策・パリ協定の遵守にどうすれば貢献できるのかを示すこと。もう1つは対応をしない企業への投融資を減らすことで“リスクを減らせる”よう、金融機関に情報提供したいというものだ。

 

ソーシャル・タクソノミ登場

タクソノミは確かによくできた仕組みだが、2018年に議論が始まった当初から、“環境で重要なのはCO2の削減だけではない”とか“SやGも重要なのに、SやGがダメな企業がCO2の削減だけに力を入れているからと投資されるのは問題”といった声があった。何度かコンサルテーションを行うなかで、現在のタクソノミはCO2の削減だけではなく、DNSH(Do No Significant Harm 深刻な悪影響を与えないこと)という考え方を導入し、サーキュラーエコノミーや水資源の保全、大気・土壌、生物多様性などに深刻な被害を与えていないかどうかもタクソノミ適合の条件に加えている。さらにOECDとUN GPで求めるミニマムセーフガードに準拠していることも条件に含めた。

EUは2020年6月、タクソノミを法制化すると、引き続きこれに取り組むプラットフォームと呼ばれるグループを年末に設立した。現在57人のメンバーと10のオブザーバーからなるこの組織は、PRIのNathan Fabian氏がチェアを務める。この下に6つのサブワーキンググループが設置されている。SubGroup3は“Extension of Taxonomy to significantly harmful and low impact activities”. について議論をしており、SubGroup4はExtension of Taxonomy to social objectives functioning of Art.18(タクソノミ・レギュレーションの18条、ミニマム・セーフガード)について議論を行なってきた。

7月12日、このプラットフォームは2つのレポートを発表した。いずれもソーシャル・オブジェクティブに向けてタクソノミの拡張を議論しているSubGroup4によるものだ。これまでの議論をもとに、“ソーシャルタクソノミ”について意見を問うている。2つのうち1つはコンサルテーションで、議論を進めるために8月27日まで意見を募集している。

 

グリーン・タクソノミになかったもの

SubGroup4はまず、DNSHなどを設けても、今のグリーンタクソノミにかけているものは何か、という点から議論を行った。

「Human rights」、「Governance」、「Access to healthcare」、「Decent Employment」、「Equality」、「Non-discrimination」などを挙げ、サステナブルな投資として、重要な要素であるソーシャルなオブジェクティブをみたし、公正な移行が行われるために、新しい枠組みが必要だということ、またパンデミックを経て、投資家はますます“社会的投資の機会”を求めている、といったことからソーシャル・タクソノミの検討を行う必要性を述べている。

そして3つの柱による構造を提案している。企業ごとに「Request for Human Rights」、「Governance」について、またセクターごとの活動について「Promote adequate living conditions for all」について議論する。そして、最初のHuman rightsについては、そのObjectivesとしてManaging Impact、Impact on Workers、Impact on Consumers、Impact on Communitiesをあげた。

既にOECDや国連でビジネスと人権についてガイドラインや原則が発表されており、これらがそれに準拠していくのであれば、新しいことではない。これからポリシーへのコミットメントはどのようになっているか、バリューチェーンまで含めてデューデリジェンスを行っているか、従業員等やステークホルダーにどのようにエンゲージメントを行っているか、救済のメカニズムはどうなっているかなど、既にこれまでも様々な国のCGコードや関連する開示などで取り組まれている。

 

早いうちから議論に参加を

日本企業は、人権問題について方針をうちたて、従業員、他のステークホルダーへエンゲージメントを行うといった体制は既に整っているだろうか?EUタクソノミに取り込まれれば、前述のようにEUの投資家から投資されている場合は、どこかで開示や説明が必要になる。とはいえ、人権やガバナンスはEUタクソノミだけが議論していることではない。英国、オーストラリア、米国等で数年前から取り組まれている「現代奴隷法」への対応に関する開示は、現地に事業拠点のある日本企業も既に対応している。「日本企業は従業員やサプライヤーへの考慮は、欧米の企業よりもはるかに厚く実施している」という声も聞かれる。(もちろん企業によるが)

意欲的に取り組めば、もしかしたら”グリーン・タクソノミ”より、高く適合する日本企業はあるかもしれない。8月27日までちょうどオリンピックとパラリンピックではあるが、コンサルテーションに目を通し、日本からも意見を送ってみるのはどうだろうか?