投函者(三井千絵)

 

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イノカのホームページ https://corp.innoqua.jp/

エンゲージメント/ESG投資に早くから力をいれてきた東京海上アセットマネジメント(以下TMAM)は6月30日、ちょっと驚く発表を行った。タイトルは「ESG /サステナビリティ領域での新たな取り組みに関して」で、新たなサステナビリティのテーマの資産運用や分析・評価、エンゲージメントなどをイメージさせる。しかしTMAMが取り組んだのはなんと、カーボン・クレジットの創出に対する活動だった。

 

ブルーカーボンの研究

TMAMはベンチャー企業である株式会社イノカ(以下、イノカ)と共同でブルーカーボンの研究を行うことを発表した。イノカに出資するのではなく、“共同で研究をする”と記載されている。イノカは水槽内に任意の生態系を再現する技術をもっている。水温、水流、微生物を含んだ生物の関係性などを再現しそこでブルーカーボンの研究を行うそうだ。研究の中には、“企業活動が海洋生物多様性に与える影響やリスク/機会の分析に用いることのできる新指標の応用等“も行うとある。運用会社が自社で指標を開発することは珍しくないし、それを他社にも提供し、”データプロバイダー“になるケースも海外では見ることができる。しかし、ブルーカーボンの研究に直接参画する、というのは本業から少し遠い。これは、なかなか珍しいケースといえるだろう。

 

カーボン・クレジットの成長可能性

またこの発表ではもうひとつ、農業由来のカーボン・クレジットのプロジェクトデベロッパーである(カーボン・クレジットの生成から販売まででかげている)株式会社フェイガー(以下フェイガー)と共に“カーボン・クレジットの分野での成長可能性を探究する”と述べている。フェイガー社と行う共同研究の対象は、カーボン・クレジットそのものだという。フェイガーとの提携を通して、自然由来系クレジット分野における業界知識・ノウハウを獲得することを目指している。つまりこの2つの提携を通し、ブルーカーボンを含む自然由来のカーボン・クレジットを生成して販売したい・・・ということだろう。TMAMはこれらの活動を通して“事業会社”として国が掲げる生物多様性維持の目標実現に貢献していきたいとのべ、さらにベンチャー企業との連携や育成を通じ、日本経済の発展にも貢献したいと結んでいる。

 

新しい資産運用会社

生物多様性に対する直接的な行動、カーボン・クレジットの創設、ベンチャーの育成と、今回のTMAMの取り組みは、“資産運用会社”の枠を超えたものであり、普通にはなかなか出てこない発想だろう。しかし海外では資産運用会社が元々は自社のために開発したシステムプラットフォームを提供したり、自社のために集めた情報を提供したり、他社のエンゲージメントをサポートしたりと、さまざまなビジネスに取り組んでいる。今回のTMAMの活動はそれらの先をいっていて、資産運用会社として全く新しい取り組みを行おうとしている。この動機を、担当者の一人は「資産運用だけでは投資先の事業会社を通して間接的にしか生物多様性、脱炭素の問題に関与できない。もっと直接的に関与したかった」と話した。

 

今後この研究成果からTMAMがどのようなことに取り組むにせよ、価値を生み出す事業に、本来制限はあるべきではない。この経験はTMAMの資産運用をさらに特徴あるものにするだろう。自らが所属している業種や、これまでの経験といった枠を取り払い、新しいことに挑戦する、その精神は今の時代一番求められていることかもしれない。