投函者(三井千絵)
*こちらはACGAの紹介で、投函者の意見ではありません。ご質問・ご意見はぜひACGAにお願いいたします。
ガバナンスにフォーカスし、アジア企業に投資をするグローバルな投資家の団体Asian Corporate Governance Association (ACGA)は、7月2日、トヨタグループの豊田自動織機非公開化と政策保有株削減戦略に対する考察を、そのHPで公表した。
豊田自動織機非公開化のストラクチャーついて解説
ACGAのメンバーでトヨタに投資をし、その議決権を有する投資家は少なくない。意見書では、冒頭今回の一連のトランザクションが結果的にトヨタ・グループの政策保有株を削減する効果があることを解説したことはトヨタグループにとっても支援となるだろう。その一方で少数株主の立場に立ちガバナンス上の問題点を指摘している。
まず豊田自動織機の株主の立場からみて、買収提案を評価する特別委員会について疑問を投げかける。「当初の提示価格からわずか11%の増額しか実現できず、最終的に本取引に関して“中立“の立場をとった」と述べ、「株主は提示価格の公正性と潜在的な利益相反取引について懸念を抱いている。委員会は、確固とした独立したフェアネス・オピニオンを提出しておらず、社内での協議や意見の相違の詳細も開示していない」と指摘している。続けて、「フェアネス・オピニオンは日本では法的に義務付けられていないが、経済産業省の”公正なM&Aガイドライン“と東証の企業行動規範は、利益相反や少数株主の重要な利益が懸念される場合、その取得がベストプラクティスだと示している」と説明している。
メンバーの意見を集約
続けて意見書では、この買収についてメンバーの意見を集約している。この買収を支持する人は過去の株価よりプレミアムがあると指摘するが、実際の買収提案価格は発表時の終値から11%ディスカウントとなったことなどを紹介し、メンバーはこの価格は市場価格を十分に織り込んでいないという意見を寄せたと紹介した。また公開買い付け後のトヨタグループ下部の自社株買いの価格に上限が設けられており、取引完了前に株価がさらに上昇する可能性を考慮していないという指摘もあったそうだ。
しかし最大の疑念は、トヨタ自動車、デンソー、アイシン、豊田通商を独立した少数株主としてカウントし、その合計の42%の賛成があれば「マジョリティ・オブ・マイノリティ・ルール」に該当するという解釈に対し、ガバナンスの欠如であると述べている。このルールは関係者ではない真の少数株主の過半数の承認を必要とするということで、少数株主(機関投資家)を保護することを目的としているはずだ、と意見書は主張している。
独立社外取締役の役割に対する問題提起
ACGAはこのようなことを承認した取締役会において、独立社外取締役の役割について意見書の後半で強く問題提起をしている。特に経済産業省が公表した改訂版コーポレートガバナンス・システムに関するガイドラインでは、資本市場における評価が重要な課題である場合、資本市場志向の経営経験を持つ人材を選任することが適切であると規定されていることをあげ、豊田自動織機の取締役会にはこうした人材が欠けているのではないかと分析している。
ACGAはその意見書の最後に、金融庁や東京証券取引所が2023年以降取り組んできたコーポレートガバナンスアクションプログラム、同年8月に経済産業省が発表した企業買収ガイドラインなどを改めて評価し、今回の買収は本来、日本最大の企業としてこれらのガイドラインを順守して欲しかったと述べている。
そして規制当局、取締役会、そして投資家がより良いものを求め続けなければ、関係者がこれまで努力してきたガバナンス改革の成果を無駄にし、少数株主(機関投資家)の信頼を損なうリスクを負うことになると強く警鐘を鳴らしている。